表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/31

第3章 第1話

 翌日の夕方になって、ドットが昨晩の報告を求めにやってきた。

固く扉の閉ざされた小さな部屋で、二人で軽い夕食をとる。


「本当に彼がまた現れたのですか? 相手に気取られてはと、こちらも気配は隠していましたが、全く気づきませんでした。結界も、破られた様子はありません」


「彼の胸に、くっきりとグレグの紋章があったの。私の腰にあるものと同じよ。自分から望んで弟子入りしたって言ってたけど、彼も私のように、どこからかさらわれて来たんじゃないかしら」


 ドットは手にしていたパンを皿に置くと、コクリと首をかしげた。


「グレグが弟子をねぇ。そんなタイプには思えませんけどね」


「『代償がほしい』って言ってたわ。グレグが欲しいのは、代償だけだって」


「代償ですか?」


「なんのことだと思う?」


 彼は淡いブルーグレーの目をグッと閉じると、眉間にシワを寄せる。


「あー……。こんなことを申し上げて、ウィンフレッドさまがご不快にならなければいいのですが……」


「今さらドットが、そんなこと気にする必要ある?」


「彼はかつて、あなたのひいお祖母さまであるヘザーさまを愛していました。だから、その代わりを……と、いうことではないでしょうか」


「私が? どうしてよ!」


 私がひいお祖母さまの身代わり? 

相手をしろっていうの? 

そんなこと絶対に嫌。

ただただ気持ち悪い、吐き気がする。


「ですから、我々は全力でウィンフレッドさまをお守りすると……」


「冗談じゃないわ! もういい。この件に関して、私は一切譲歩するつもりはありません。徹底的に戦うから、そのつもりでいて!」


「かしこまりました。もちろん我ら一同、そのつもりでございます」


 ドットがいつになく真剣な表情をしている。

もしかしたら、かつてのように長い戦いになるかもしれない。

戦争を始めるのに、口実なんていらない。

大魔法使いに攻められたら、この城にどれほどの被害が出ることだろう。

それを思うだけで、胸が苦しくなる。


「ごめんなさい。私なんかのために……」


「代償に関しては、他のものを考えましょう。一番手っ取り早いのはお金ですが、そのような交渉を、ウィンフレッドさまお一人に任せていいものかと……」


「大丈夫よ、ドット」


 カイルは魔法使いだ。それは間違いない。

たとえグレグの使いだとしても、彼自身も魔法を使っている。

能力としてはドットほどではないかもしれないけど、ドットのような大魔法使いと彼が一緒になれば、魔法師同士まともに話し合いが出来るとは思えない。


「誕生日までにはまだ時間があるわ。何とかカイルにお願いして、グレグとちゃんと話し合いが出来るようにするから」


「いつでもすぐに、どんなことでも、私にご相談ください」


「もちろんそのつもりよ」


 ドットが一礼して部屋を出ていく。

残された私は、とたんに恐怖に襲われた。

腰につけられた印は、肌が赤く痛くなるまでこすっても、決して落ちることはない。

高い塔の窓からは、人通りで賑わう夕暮れの城下町がどこまでも広がっていた。

普通に外を歩き、誰かと会って毎日を過ごす日常が当たり前の世界に、私だけが取り残されたみたい。

西日は赤い琥珀色の髪を、よりいっそう赤く照らした。


「グレグのバカー! どうして私にこんなことしたのよー!!」


 そう叫んで、窓枠にすがりつく。

あふれ出る涙を、このままボロボロとこぼしてしまっては、負けな気がした。

強くならなくちゃ。私が私自身でいられるために! 

窓の下でうずくまった耳に、不意に羽音が聞こえる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ