表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/31

第5話

「カイルが、グレグの使いっていうのは、本当なの?」


「あぁ、本当だ。呪いを受けたウィンフレッドが、どんな姫なのか様子を見てこいと言われて、やってきた」


 彼はこちらを警戒しながらも、赤い琥珀色の髪と目をした私を、まっすぐにじっと見ている。


「あなたもグレグに捕まっているの?」


「は? どういうことだ」


「使いって、あなたもどこかの国でグレグにさらわれて、カラスにされちゃったとか?」


「え? ちょっと話が見えない。どういうこと?」


「だから、カイルも私のようにグレグに魔法をかけられて、逃げられないまま使われてるとか?」


 彼は一瞬、きょとんとした顔を見せたかと思ったとたん、お腹を抱えて笑い始めた。


「あはははは! 誰がそんなヘマするかよ。俺は奴に直接頼み込んで弟子にしてもらったんだ。なにせグレグさまは、世界一の魔法使いだからな」


 彼はその美しい顔に、ニヤリと得意気な笑みを浮かべる。


「弟子をとったの? あのグレグが? それでカイルは、彼と一緒にいるってこと?」


「あぁ、そうだ」


 カイルは上機嫌で、フンと鼻を鳴らした。

グレグの呪いのことを知ってから、その大魔法使いについて書かれたありとあらゆる書物をかき集め、徹底的に調べあげた。

遙か昔から生きていて、いまいくつなのか誰も知らないこと。

あらゆる魔法に長けていて、変幻自在に姿かたちを変え、どこへでも自由に飛んで行けること。

人嫌いで、権力や支配に興味がなく、常にどこかに身を隠し、誰も彼の居場所を知らない等々……。


「グレグはいま、どこにいるの?」


「フッ。そんなこと、教えられるワケないだろう」


「弟子がいるだなんて、聞いたことなかったわ」


「そうだろうな。俺だってまだ、そうと認められてはないんだから」


「ちょっと待って。じゃあカイルが、勝手に弟子を名乗ってるってこと?」


「それは違う。そうじゃない」


 彼の身分を疑い始めた私に、カイルは一生懸命次の言葉を探していた。


「そ、そうじゃなくて……。その、なんて言うか、弟子として認めてもらうための初仕事が、お前の偵察だったってこと」


「それなら、もう失敗してるじゃない」


「失敗ではない! これからお前のことを探って報告すれば、仕事をしたことになるだろう」


「それじゃあ、私に何のメリットもないわ」


「お前のメリットってなんだよ」


「呪いを解いてもらうこと」


 私はソファーに腰掛けたまま、グレグの使いだという窓枠に腰掛けた幼い少年を見上げた。


「グレグに伝えて。あなたの元へは行かない。ここに残って、父も母も兄たちも、この城にいるみんなのことも守る。どうしても私が欲しいのなら、直接顔を見せなさいって」


「お前なんかが、グレグに敵うわけないだろう」


「呪いを解くための条件を出せって言ってるのよ。問題解決のためには、交渉が必要でしょ」


「言いたいことはそれだけか?」


 私はもう一度、彼の蒼い目をしっかりと見据えた。


「私はグレグのものにはならない。ラドゥーヌ王家にかけられた呪いを解くための、条件を教えて」


「分かった。ではお前の言葉を、そのまま伝えておこう」


 彼は座っていた窓枠を掴むと、そのままそこに立ち上がり背を向けた。


「じゃあな、姫さま。またいつか会えるといいな」


 パッと大きなカラスに姿を変えると、彼は滑るように夜の闇の中へ飛び去ってゆく。

慌てて駆け寄った窓から身を乗り出すと、私はありったけの声で叫んだ。


「カイル! さっきの返事、ちゃんと持ってきなさいよ! 『またね』じゃなくて、ここで待ってるから! じゃないと絶対、許さないんだからね!」


 カラスは空高く舞い上がると、夜空に大きな円を描く。

彼はそのまま、明かりの消えた街の向こうへゆっくりと飛び去っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ