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第2話

「あなたさまの体に浮かび上がった紋章は、魔法を扱う者なら誰もが知る恐ろしい大魔法使い、グレグ・ルドスキーの紋章です。その刻印を持つ者は、彼の所有物であるという証」


 彼は床まで引きずる真っ白な法衣をふわりとなびかせ、席についた。

テーブルに置かれた湯気の立つティーカップに、私は髪と同じ色をした赤い琥珀色の目を伏せる。


「ウィンフレッドさまの体に浮かび上がった魔法の刻印が、我々の与えた加護の力を打ち破りくっきりと現れた以上、グレグもまたあなたの存在に気づいたことでしょう」


 それを知った父と母の愛は重かった。

グレグの呪いを恐れた父王は、16の誕生日を過ぎるまで、私をこの城の最奥にある高い塔のてっぺんに閉じ込める決定を下す。

おかげで私は、こうしてこの狭い塔の上で退屈な毎日を送っている。


「16の誕生日まで、まだ半年もあるのよ。それまで私を、ここに閉じ込めておくつもりなのかしら」


 お父さまとお母さまに泣きつかれ、二人の兄たちにまで懇願されたからこそ、こうして閉じ籠もることに了承した。

了承はしたんだけど……。


「あー! もう退屈! 退屈過ぎて我慢できなーい!」


 たった2日でもう飽きた。

狭い部屋にたったひとりぼっち。

話し相手もいなければ、どこかに出掛けることも出来ない。


「紋章がはっきりと現れた以上、いつグレグが現れるか分かりません。ウィンフレッドさまがこの歳まで無事にいられたのは、我々の加護があってこそなのですよ」


「そんなことは、もう散々言われたので分かってます!」


 フン。だからって何よ。

ドットだって他の魔法師たちだって、どれだけ頑張ってもこの紋章を取り除くことが出来なかったくせに。


 塔のてっぺんの狭い一室といっても、丸い形をした部屋の壁の半分は運び込まれた本で埋め尽くされ、床には真っ赤なふかふかの絨毯が敷かれている。

ベッドは使い慣れた天蓋付きのベッドを運んでもらったし、お茶をしたり編み物や刺繍、読書をするのに十分な大きさの丸テーブルと肘掛けが二つと、ソファーも用意されていた。

石造りの壁にはタペストリーや絵画が飾られ、火をおこす暖炉もある。

本棚の横にはお菓子や飲み物、お腹が空いた時のパンも常に常備されていた。


「ですがウィンフレッドさま。これもみな、あなたのことを心配してのことなのです」


「もちろんそれは分かってるけど、退屈なものは退屈なの!」


 紋章によって発熱していた体温が下がり調子が戻ったとたん、完全にここに閉じ込められてしまった。


「15代国王とヘザーさまを巡る戦いの話は、物語にも描かれるほどすさまじいものでした。城下にも、その記憶をまだ残すものもございます」


「ドットは実際にその戦いを見たの?」


「いえ。私は見ておりませんが、話はよく伝え聞いております」


 彼は淹れたての紅茶にミルクを注ぐと、静かにスプーンでかき混ぜた。

15代国王として王位につく前、王子の地位にあったユースタスさまと、森に住む木こりの娘であったヘザーさまは運命的に出会い、恋に落ちた。

初めは使用人として城に入ったヘザーさまに、同じように恋をしたのがグレグだった。

グレグはヘザーさまを我が物にしようと、王子の目を盗んで彼女をさらい、森の奥へ隠してしまう。

愛する人を奪われ怒ったユースタス王子は、グレグの居場所を見つけ出し、兵を引き連れ戦いを挑んだ。

三日三晩続いた剣と魔法の戦いは、城の周囲にあった森を全て焼き尽くしたという。


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