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第1章 第1話

 生まれた時から、左の脇腹に大きなほくろがあった。

それは成長とともに徐々に大きくなっていき、10歳を過ぎたある日、世話をしていた侍女から「何かの模様のようですね」と言われたことを覚えている。

毒草であるリコスチナの蔓が上部の空いたサークル状に描かれ、その中央には魔法の杖に絡みついた禍々しい大蛇が二つに裂けた細い舌を出し、こちらを睨んでいる。

その模様がはっきりとしたのは、15の誕生日を過ぎた頃からだった。


 よく晴れた天気のよい日、王宮の庭で招待した友人たちとピクニックをしていた時のことだった。

花を摘んでいる最中に突然倒れた私は三日三晩高熱にうなされ、国中の医師たちがどれほど手を尽くしても一向に回復の兆しがみられなかったという。


 私を苦しめた熱と痛みの原因は、その「ほくろ」だった。

赤黒く浮かび上がった手の平ほどの大きさの紋章は、この時の熱で輪郭をはっきりとさせ、私の体にくっきりと浮き上がる。


「陛下。ウィンフレッドさまの熱の原因は、病などではありません。魔法の力でございます。それもとても古い時代にかけられた、強い呪いのせいでございます」


 そう進言した医師の言葉をきっかけに、父である国王は、我がラドゥーヌ王家に伝わる伝承を思い出した。


「呪いだと? なぜそのようなことが! まさか祖父の代から伝わる伝承が、現実のものになるとは……!」


 ラドゥーヌ王家には、100年伝わる伝承がある。

私の曾祖父にあたる15代国王は、森で出会った美しい娘ヘザーと恋に落ち、彼女を正妃として迎え入れた。

だがその時の宮廷付き占い師であった魔法使いグレグ・ルドスキーもまた、彼女に恋をした。

王と王妃の恋仲を邪魔し続ける彼に、怒った王は壮絶な戦いの末、グレグを国外へ追い払うことに成功する。

しかしその去り際、魔法使いグレグは王家に呪いをかけた。

『ヘザーの血を引く娘がラドゥーヌ王家から生まれたら、16の誕生日の日にお前の代わりにもらい受ける』と。


 呪いを恐れた王は、国内外からありとあらゆる魔法使いを呼び寄せ、王妃ヘザーに守りの加護をつけさせた。

彼女の血縁からは、決して女児の生まれることのないよう、男児しか授からない加護を付けた。

その教えは長く受け継がれ、次の16代国王も17代国王も、正妃として迎え入れた女性に同じ加護を与えた。

結婚式で行われるその儀式は、いつしかラドゥーヌ王家の伝統となっていく。


 だが18代国王の正妃として嫁いだ、私の母は違った。

そんな古い慣習など所詮迷信だと、男の子だけでなく女の子も欲しいと望んだ。

そうでなければ結婚しないとまで言い切った母に、父はその条件を受け入れ、二人はようやく結ばれた。

そのため父王は、結婚式で母に受けさせる祝福の魔法のうち、時代遅れと見なされた男児しか生まれない加護をあえて与えない選択をした。

そうしてようやく、3代にわたって途絶えていた王女として、長兄、次兄に続き、第三子として私が誕生する。

無事生まれた久々の王女に、グレグの呪いなど誰もが忘れ、沢山の人々が多くの祝福を与えた。

そして15歳の時、呪いの証である紋章が現れる。


 大魔法使いグレグの呪いは強力だった。

100年の時を経てもなお効力の切れることなく発動されたそれは、並みの魔法師の力では全く解くことが出来なかった。

生まれた時に与えられた多くの祝福のおかげで、私は誕生後すぐにグレグに見つかりさらわれることなく、無事王宮に居られたのだと知らされる。


「本当にこの紋章は、グレグの呪いなの?」


 私はひいお祖父さま譲りの赤い琥珀色の巻き髪を、うんざりと撫でた。

お茶の準備をしていた魔法使いのドットは、真剣な表情を一切崩すことなく答える。


「ウィンフレッドさま。残念ながら、間違いございません」


 ドットは現国王に仕える、宮廷魔法庁の長官だ。

見た目は23歳くらいに見えるが、彼の実際の年齢を知る人はいない。

白銀のサラサラとした長い髪に、冷たく光るブルーグレーの瞳。

父の代から新しく王宮入りした魔法使いで、魔法の腕前と忠誠心は確かだった。

私が生まれた時に、加護を付けてくれた魔法使いの一人でもある。

それ以来ずっと、彼は私の教育係であり世話係であり、何でも相談できる臣下として接していた。


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