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12-2 再起の兆し

すいません。書き直しておくれました

 曇天のまま、雨は降りそうで、結局降らなかった東京競馬場。日の丸のついた特殊なゼッケンを身につけた精鋭18頭がスタートの時を静かに待っていた。


 スターターの壇上に上がり、トランペットの高らかなファンファーレが、鳴り響く。

 ジャパンカップが始まる。


『さてジャパンカップのファンファーレをお聞き頂きました。川野さん、展開の予想と注目馬お願いします』


「そうですね。

 まず秋3冠の狙う⑧番インダストリアルですね。前走はかなり窮屈な競馬をなってしまいましたが、馬群を割って勝利しました。なので、今回はそういう展開にならないように前目に行くことも考えられます。しかし今回は馬群がバラけそうなので、ジョッキーの川中騎手の判断に注目です。

 続いて挙げたいのはダービー馬⑦番フッカツノネガイですね。当然逃げると思います。問題は逃げるペースですよね。菊花賞のようにハイペースで逃げるのか、引きつけて逃げるのか三津騎手の判断に注目です。」


『なるほどインダストリアルは1.9倍の1番人気。フッカツノネガイは3.5倍の2番人気です。


 ゲートインはすでに始まっています。

 ⑧番インダストリアル中々ゲートに入りません。目隠しがされます。もう一度勢いをつけて・・・

 入りました。

 最後に、⑱番ジェットエンブレム・・・収まりまして、


 ゲートイン完了


 スタートしました!!


 スタート絶好なのは⑦番フッカツノネガイ。今日は一段といいスタートに見えます!2番手①番マロンロマンと6馬身ほどつけました!今回はハイペースとなるのでしょうか!?

 そして3番手②番アロマエンジェル。今日は前目につけます。そしてすぐ後ろに⑱番ジェットエンブレム。ここから後続馬はごった返しています。

 ⑧番インダストリアルは中団につけました。鞍上川中ハイペースになると読んだか、位置は上げません。そして最後方⑪番シビックサロンは末脚にかけます。

 前から後ろはかなり距離があります。これはフッカツノネガイ、大逃げです!!三津康成!今回は大逃げを選択!!

 さて今年のジャパンカップはどのような結末が待っているのでしょうか!!』


 スタートは完璧。ノゾミは、まるで風を切るように、滑らかな加速を見せた。三津康成は、手綱をしっかりと握りしめる。

 そしてノゾミも三津の言葉に応えるように、力強く地面を蹴り上げた。後方の馬群も、ほぼ想定通りの位置取り。インダストリアルは、中団に控え、その栗毛の馬体が、静かに闘志を燃やしている。


 三津は、冷静に分析していた。

 インダストリアルは強い。

 今の状態のノゾミでは、インダストリアルと真っ向勝負したら負けるかも知れない。


(だが、それを覆すのが騎手の仕事だ。)


 三津の胸に、熱いものが込み上げてくる。燃え盛る闘志。だが、その一方で、頭は冷静に、レースの流れを読んでいた。


「1000m通過、62秒。」


 体内時計が、正確にラップタイムを刻む。スローペース。だが、これは三津の計算通り。


(ここからだ。ここからが、勝負。)


 三津は、ノゾミの脚を信じ、静かに、しかし確実に、勝利への道を切り開いていく。彼の瞳には、勝利への執念が、静かに燃えていた。


『1000m通過しました。

 1000m62秒!!

 これはかなりスローペースです!後続はこのペースをどう思うか!三津康成、このペース狙い通りか!フッカツノネガイ楽に逃げているように見えます!!

 2番手のマロンロマンとの差は6馬身ほど。そして後続馬は殺到しています。7頭目ぐらいの位置にいるインダストリアルは最内に封じ込められました!簡単には出してもらえないぞ!どうする川中!?』


 三津は、手綱をしっかりと握りしめたまま、後方を鋭く見据えた。彼の脳裏には、綿密に練り上げられたレースプランが描かれていた。それは、かつて彼が京都新聞杯で成功させた、大胆な逃げの再現。


(大逃げに見せかけた、スローの逃げ。これしかない。)


 国本陣営は、確信していた。この展開こそが、ノゾミの勝利への唯一の道だと。

 体内時計が、正確にラップタイムを刻む。スローペース。だが、それは三津の計算通り。後続の騎手たちも、この遅いペースに戸惑いを隠せないだろう。


(もう遅い。気づいたところで、手遅れだ。)


 大外からの捲りは、最内に閉じ込められたインダストリアルには不可能。

 そして、スローペースであるため、直線で脱落する馬はいない。

 そうなると前は開かない。

 横も開かない。

 前にいる馬は、意地でもスペースを作らないだろう。前走の天皇賞秋のレースを見た騎手なら絶対だ。

 天皇賞秋以上にインダストリアルはマークされている。


 まさにインダストリアル包囲網

 彼らの描いたシナリオは、完璧だった。インダストリアルは、馬群の中に完全に封じ込められた。ノゾミの勝利は、目前に迫っていた。


『4コーナー回りました!依然として先頭フッカツノネガイ!2番手マロンロマンそして大外からシビックサロン上がっていきます!インダストリアルまっったく!前が空きません!!

 先頭フッカツノネガイ!2番手マロンロマン追うが差が詰まりません!シビックサロンが大外からつっこんでくる!おっっと!!

 インダストリアル内に逸走!!


 インダストリアル、内ラチに激突しました!!


 アクシデント発生か!?』


 イマナミはインダストリアルを呆然と見るしか無かった。

 完璧な競馬な筈だった。ペースを操り、インダストリアルを封殺する。直線に入った時に勝利を確信した。インダストリアルは、馬群の中に閉じ込められ、身動き一つ取れない。追い出すスペースなど、どこにもない。


(終わった。インダストリアルの道は、完全に途絶えた。)


 静かに勝利を確信していた。だが、その瞬間、信じられない光景が目に飛び込んできた。

 インダストリアルが、内ラチに激突したのだ。

 競馬場から悲鳴が上がる。イマナミも現役最強馬の安否を心配した。


 だが、インダストリアルの行動は、それだけでは終わらなかった。内ラチに激突したまま、隙間を生み出したのだ。前にいる馬の更に内。それがインダストリアルが見つけたスペースだった。


(まさか・・・そんなことが・・・)


 イマナミは、目を疑った。川中が、そんな指示を出したとは考えられない。だとすれば、インダストリアルが自らの意志で、道を開いたとしか思えない。


(そんな馬、聞いたことがない…)


 イマナミは戦慄した。インダストリアルの常軌を逸した勝利への渇望をそこに見た。


『内ラチにぶつかっても尚、そのまま加速!インダストリアル、フッカツノネガイを猛追!あっという間に迫る!!

 フッカツノネガイか!インダストリアルか!フッカツノネガイか!?』


 三津は冷静に後ろを見て、状況を整理する。

 直線に入り手前を替える。ここで減速してしまうのは三津の予想の範疇だった。しかし、インダストリアルがもう1馬身もいない位置にいるというのが予想外だった。

 だからといって手前を変えないわけにはいけない。競走馬は走行中に特定の脚に負担がかかりやすい。そのため通常の競走馬は複数回、手前を替える。しかしノゾミの場合は1回のみ。これ以上手前を替えないと直線のスピードが落ちてしまう。

 三津は、思考の末東京競馬場の長い直線のために手前を替える指示を出した。



「ブヒッ!!」


 ノゾミはその指示で手前を替えようと藻掻いた。この動画を何度も何度もトレーニングしてきた。しかし、それでも右後脚が重い。痛みはない、怪我治っていることなんて、そんな事は分かっている。ただ、この重さは自分が生み出した幻想であることも。


「ヒンッッッ!!」


 ノゾミは嘶いた。

 それはノゾミの脚はまるで重い重い鎖が巻き付いているかのようだった。

 しかしそれでもなんとか、鎖を引きずりながらも、手前を替え、前を向いた。しかしその時にはもう眼前に、あの馬がいた。


『いやこれはインダストリアル、ダービー馬を差し切った!!現役最強馬の意地!!

 インダストリアル!先頭でゴールイン!!現役最強を再度証明!!

 しかしここは審議のランプが点灯しています』


「東京競馬第12Rについて、お知らせします。最後の直線コースにおいて⑧番インダストリアルが内ラチに接触したことについて審議します」


『審議はインダストリアルの直前での進路取りについてのようです。不利を受けて、もしくは不利を与えたとわけではありませんが、判断を待ちましょう。お手持ち勝馬投票券は確定までお捨てにならないようにお願い致します。

一着は豪脚一閃、インダストリアル、2着ー』


「ふぅー」


 三津は空を仰いだ。インダストリアルが降着の可能性もあるため、計量室には戻らない。だが十中八九インダストリアルが一着だろう。三津は直線コースにチラリと目をやる。すると内ラチが壊れているのが見えた。要するにスペースなどなかったのだ。そんな中、川中がいやインダストリアルが強引に道を切り開いたのだ。こんな馬を三津は知らない。

 チラリとインダストリアルを見る。


 栗毛は汗と埃にまみれ、激しい息遣いが聞こえる。しかし、その瞳は、勝利の光を宿し、静かに輝いていた。

 勝利の瞬間、瞳に宿るのは狂気にも似た喜び。それは、孤独な覇者だけが知ふ。

 疲労困憊の馬体。しかし、その立ち姿は堂々とし、神々しい。周囲の喧騒は遠く、意識はただ、勝利の余韻に浸る。

 観客誰もが彼の存在に圧倒される。

 勝利の残光を纏い、インダストリアルは静かに佇む。それは、勝利だけを追い求めた、孤独な覇者がそこにはいた。


 そしてそれを悔しそうに見つめる馬が1頭。ノゾミである。三津はノゾミの鬣を撫でて言った。慰めではない、次走への誓いである。


「次は絶対に勝つぞ!!」

「ヒンッ!!!」


 審議のアナウンスが鳴り響く。着順は変わらない。

 それを聞いたノゾミと三津は引き上げる。まだ勝負は終わってない。


 ーーーーーーーーーーーーー


 1着 ⑧インダストリアル 2:23:5

 2着 ⑦フッカツノネガイ 1/2

 3着 ③シビックサロン  3


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