9-1 カノジョが見たノゾミ
ノゾミの故郷、緑豊かな田園風景が広がる町の一角。その静かな住宅街にある、とある一軒家。少女は、小さなため息をつきながら、自室のベッドに腰を下ろしていた。名前は里奈。小学四年生。
普通の小学4年生女子なら、可愛いアクセサリーや、人気アイドルに夢中になる年頃だろう。しかし、里奈の部屋は、まるで小さな競馬場のようだった。壁一面には、色とりどりの競走馬のぬいぐるみが飾られ、棚には、歴代の名馬たちの写真集がずらりと並んでいる。そして、何よりも目を引くのは、ノゾミとのツーショット写真が飾られた額縁だ。それは、里奈にとって、宝物のような存在だった。
彼女の心を占めているのは、明日行われる神戸新聞杯のこと。ノゾミが、果たして勝利を掴むことができるのか。不安と期待が入り混じり、里奈の胸はざわついていた。
「お母さんーフッカツノネガイ勝てるかなー?」
「さぁ、お母さん競馬わからないし・・・」
娘の話題に困った表情を浮かべる母。
「もーお母さん!!そればっかり!!ちょっとは予想してよー!!」
母の競馬への興味の薄さに頬をふくらませる少女。
「そんなこと言われても・・・あ、そう言えばテレビで神戸新聞杯の予想番組やってるって書いてあったわ」
「ほんと!?お母さん!!」
少女はテレビの電源をつけ、チャンネルを合わせる。するとそこには、大の大人が大真面目にレースの予想が行っていた。
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司会者(見栄雨)「皆さん、こんばんわ今日は競馬予想TV、神戸新聞杯の予想をお届けします。このレースは菊花賞への重要なトライアル。まずは、林さんからお願いします。」
予想家(林):「そうですねー神戸新聞杯ですが、私は③番のホワイトフォースに注目しています。日本ダービーで惜しくも勝てなかったけど、フッカツノネガイより上でしょ。何よりこの私の作った皐月賞と日本ダービーの指数で見てください。どっちも90超えで、指数的に見ればぶっちぎってるんですよ。なにより神戸新聞杯は京都ですよ?京都なら栗東の馬のほうがいいに決まってるんですよ。2強なんて言ってますけど神戸新聞杯も菊花賞もホワイトフォースで決まりでしょ」
司会者(見栄雨):「ホワイトフォース、井川くん調教はどうですか?」
予想家(井川):「うーん。ホワイトフォース。追い切りの本数は少ないですよね。やっぱり菊花賞を目標に馬を作っているということで、坂路も走らないと言うより抑えているというか。この馬は調教滅茶苦茶走るんですよ。それが今回この調教なのかと。僕は白三角までしかつけられなかったですねー」
司会者(見栄雨):「調教は確かに良くないねー。ありがとうございます。それでは北村くん。ホワイトフォース本命。」
予想家(北村):「ホワイトフォースの今回のレースのポイントはペースですね。ホワイトフォース、スローペース、ハイペース対応できるって言われているんですけど、本質は上がり勝負ではなくて、ハイペースの潰し合いのほうが向いていると思います。実際皐月賞の強さは私が言わなくても分かると思います。ダービーはミドルの平均ペースって言われてますけど、馬場考えたらスローペースでした。今回の神戸新聞杯はフッカツノネガイとボウハツがいる正にハイペースになると思うので今回はホワイトフォース本命ですね」
予想家(林): 「北村さん、今回ハイペースなの?確かにボウハツは逃げ馬だけどフッカツノネガイは逃げなくても行けたわけじゃん」
予想家(北村): 「ボウハツの騎手が逃げ大好きの坂上騎手なので逃げると思います。気分良くハイペースで逃げると思いますよ」
司会者(見栄雨):「ありがとうございます。次に水亀さん、ホワイトフォース。そして本命のフッカツノネガイ続けていきましょう。お願いします。」
予想家(水亀):「まぁ、林さん北村さん。ホワイトフォースは確かに強いですが、神戸新聞杯に合いますかねー?。父はあのゴールドシップ、母父も長距離で活躍したフィエールマンですよ?結局あの馬は長距離なんですよ。実際、ホワイトフォースが勝ったホープフルも皐月賞も良馬場って言ってますけど、その日のレースはタフな馬が勝つ馬場でした。今回はパンパンの良馬場。ホワイトフォースはパフォーマンス下げますね。
私の本命は5番のフッカツノネガイを本命です。父キズナに母はローズステークス勝ち馬ということで血統面的に2000mが適性ですから、ダービーすら長かったんですよねー。そしてフッカツノネガイはキズナ産駒なんですけど母父がなんでダービーよりパフォーマンスいいんじゃないですかねー?」
予想家(林):「フッカツノネガイは確かに良い馬でけど、結局フッカツノネガイは三津騎手の神騎乗によるもので指数は87。血統よりも、レースでの実績が大事だから、3番手評価だなー」
予想家(水亀):「実績?フッカツノネガイのはダービーで勝ってるんですよ?データじゃなくて実際の着順をみてくださいよ」
司会者(見栄雨):「お二人とも、落ち着いてください。では、北村さん、どうぞ。」
予想家(北村): 「フッカツノネガイ弱くはないんですけど・・・ポイントは騎手です。三津騎手の重賞成績を見てください。見ての通り、悪いです。年度ごとに見てもドンドン成績落ちていっています。確かにフッカツノネガイは強いですが、騎手的に2番手評価ですねー」
司会者(見栄雨) :「井川くん、フッカツノネガイの調教どうでしょうか?そして続いて、本命のボウハツ行きましょうか」
予想家(井川):「フッカツノネガイは結構仕上がっていますよね。しかし、国本厩舎的には仕上げ過ぎなように弱めに調教していますね。ただ動き自体は悪くないので、対抗までということで。
僕はダークホースで行きます。⑦番ボウハツです。ちょっとボウハツの調教映像見てください。今まで脚元の不安の気性面で芝で単走だったのが、今回は坂路で他馬2頭と併走の後抜き去るという素晴らしい追い切りだったんです。これは一変あると思いますね」
予想家(林):「ボウハツは確かに面白い存在だけど、逃げ切るのは難しいんじゃないですか?」
予想家(井川):「林さん、データだけ見てるからそう言うんです。今回の調教は今までとまるで違います。それにホワイトフォースもフッカツノネガイも抑えて抑えての調教で、まるで勝負気配はないです。ホワイトフォースにいたっては飛ぶまであると思います。」
予想家(林・水亀)「「いやーそれはないでしょ」」
司会者(見栄雨):「それでは、次に林さん、対抗にビジョンコメコ。これも大穴です」
予想家(林):「これは新馬戦での指数なんですけど、とんでもなくいい数字だったんですよね。そしてこのレースの2着馬はアロマアニマル。3着馬はコミカルデルタですよ。そんな馬たちに3馬身ぶっちぎったんです。指数派としては買うしか無かったって感じですよね。ただ、調教はイマイチなんですけど。井川さん調教どうなんですかね」
予想家(井川):「いやー厳しいですよね。最近ちょっと走れるようにはなってきているんですけど、流石にここには間に合っていないと思いますけど」
司会者(見栄雨) :「それでは水亀さん対抗に、ルーチェット」
予想家(水亀):「そうですねー対抗はルーチェットですねー。エピファネイア産駒で連勝中の3歳馬。パフォーマンスは上げてくると思うので、負けるまで買い続けたいと思いま・・・・・
司会者(見栄雨):「それでは予想のまとめ参りましょう」
林予想
◎ホワイトフォース
◯ビジョンコメコ
▲フッカツノネガイ
水亀予想
◎フッカツノネガイ
◯ルーチェット
▲ホワイトフォース
△ハッピーハッピー
北村予想
◎ホワイトフォース
◯フッカツノネガイ
井川予想
◎ボウハツ
◯フッカツノネガイ
▲ミスガール
△ホワイトフォース
△フロアースタンド
司会者(見栄雨):「皆さん、今日の神戸新聞杯が本当に楽しみですね!それぞれの意見が鋭くぶつかっていますが、これも競馬の醍醐味です。視聴者の皆さんも参考にして、素敵な競馬観戦を!」
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「なんというか・・・すごかったな」
1時間以上に渡って神戸新聞杯を、血統、指数、調教、馬場展開色々な要素を取り出し予想する大人の姿に驚きの表情を浮かべた。
「まぁ、フッカツノネガイ可愛いから、フッカツノネガイだもんねー」
少女の予想は、そんな複雑な予想の世界とは対照的だった。
「里奈?明日は阪神競馬場に行くんだから、早く寝なさいー」
母親が里奈に向かって言う。時計を見ると12時を回っていた
「はーい」
明日のレース、一体どんなドラマが待っているのだろうか。期待と興奮を胸に、彼女は眠りについた。




