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第73話 第三位の魔女

 六年前。

 マリアンヌに何もかも奪われた私は、親戚筋からも見捨てられた。

 そんな私がたどり着いたのが、世界の肥溜めダスト地区。

 孤児や浮浪者、逃亡犯に裏側の人間などで構成された、カスの街だ。


 資源はすべて廃棄場所に困ったゴミ。

 気を抜けば殺されて、人身売買の餌食になるような地獄。


 私はそこで、ありとあらゆる生きる術を学んだ。


 正直に言おう、人も殺した。



 あるとき、ダスト地区に女がやってきた。

 小綺麗なローブを纏った、中年くらいの女だった。


 襲ってきた男たちを魔法で軽くいなしたのを目撃して、すぐに魔法使いであるとわかった。


 私は弟子入りを願い出た。

 力が欲しかったのだ。


 マリアンヌに復讐する力が。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「変わらないな、ここは」


 荒れた地に漂う腐敗臭。

 どっかから盗んできた木材で建てた小屋や、どっかから奪ってきたテントがまばらにならび、人々は外に出てじっとこちらを睨んでいた。


 何故彼らは集まるのか、何故外にいるのか。


 答えは単純である。

 地形の影響で、ここより西に向かうにはどうしてもダスト地区を通らなくてはならないのだ。


 つまり、通行人からのお恵みが欲しくて、みんなここに集まるのである。


「な、なんか怖い人たちばかりですねぇ」


「さっき関所のようなところで金と食料を渡しただろう? アレはこいつらが勝手に設けた関所だ」


「えぇ!? 許されるんですかそんなのぉ!?」


「ここには死んでも誰も悲しまないクズしかいない。訳あってそんな連中を使いたい富豪どもが、見て見ぬふりをしているのさ。あまり怒らせたくないからな」


「や、闇が深いですねぇ」


 荷台にいるフェイトも、怯えて視線を落としている。

 お嬢様には似つかわしくない場所だ。


「気をつけろよフェイト。気を抜くと荷台から引き摺り下ろされて身ぐるみを剥がされたあと犯されるぞ」


「は、はい!!」


 ダスト地区の外れまで進むと、立派な屋敷が見えてきた。

 レンガ調の大きな屋敷。


 魔女の家だ。


「本当にまだいたんだな」


 フェイトが問う。


「なんで、第三位の魔女さんはダスト地区に住んでいるんでしょうか?」


「さあな」


 ノックもせずに扉を開ける。

 本来魔法によって強固な鍵がかかっているのだが、私は解除の魔法を知っていた。


 当然、間取りも把握している。

 私が先頭となり歩きだす。


「この時間ならやつは寝室で寝ているだろう」





「いいえ、起きているわ」




 ハッと声がした方を向く。

 後ろだ。

 いつの間にか、私たちの背後にヤツがいた。


 短い黒髪の、魔女。


「久しぶりね、フユリン。会えるなんて思ってなかったわ」


「嘘つけ。わかっていたくせに。第三位の魔女、ユーイン」


「ふん。そういえばそんな名前だったわ、私」


 ユーインの視線がフェイトを捉えた。

 やはり気になるのか。


「可哀想な子」


「へ?」


「生まれ変わる時代を間違えたわね」


「…………」


 今度は私を見つめた。


「あなたに魔法を教えたのは、正しかったようね。マリアンヌを退けるなんて」


「あんたのおかげですべての悪役令嬢をゴブリンにできそうだよ」


「そう。嬉しいことだわ。世界が正常に戻っていく」


 私は悪役令嬢に強い恨みを抱いている。

 そしてこいつは、悪役令嬢が跋扈する狂った世界に難色を示している。


 うまく利害が一致した。だから弟子にしてくれたのだろう。


「そういえば、何しに来たのかしら?」


「第四位が会っておけと」


「なるほど、なら、教えておかなくちゃいけないわね」


「なにをだ?」


「魔女を倒す力。たぶん、役に立つわ」

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