第71話 ティタノーサ③ 二度目の別れ
※三人称です。
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「クリアウォール!!」
突っ込んでくるティタノーサの槍を、不可視の結界魔法で防ぐ。
「ふん」
ティタノーサが増えた。
分身魔法である。
一人、二人、四人、八人。
計一〇人のティタノーサがフェイトを囲んだ。
しかし、数を増やそうが届かない。
「全方位を防御魔法で塞いだんだ。へぇ〜、どうしようっかなあ、フェイトちゃんの魔力が切れるまで待ってようかなあ」
「ティタノーサさん。もうやめましょう」
「はあ?」
「私たちの仲間になってください」
「……」
突然の提案に、ティタノーサが黙る。
一方のフユリンたちは、離れたところから二人の行く末を見守っていた。
「仲間になれ?」
「あなたはマイリンさんの分身。なら、また私と友達になれるはずです」
「私はフェイトちゃんへの憎しみから生まれたんだけどなあ」
「すべてが終わったら殺しても良いです。でもその前に、一緒に作りましょう。みんな幸せハッピーな世界を」
「簡単に命を投げ出せる人間なんて信用できないでしょ。……ふふ、じゃあさ」
分身たちが消えた。
たった一人になったティタノーサが、己に槍の刃を向ける。
「いますぐに防御魔法を解いてよ。じゃなきゃフェイトちゃんが仲間にしたいこの私が、死んじゃうよ?」
「っ!!」
「解いたら仲間になってあげるよ。どうすんの? また殺す? マイリンを」
「…………」
フェイトが唇を噛み締めた。
解けば、攻撃されるかもしれない。
むしろその可能性のほうが高い。
そもそもたぶん、ティタノーサは自殺なんかしない。
だがーー。
「わかりました」
覚悟を込め、恐怖心を捨てた眼で、フェイトは魔法を解除した。
瞬間、再度ティタノーサが一〇人に増え、間合いを詰めた。
「ギャハハハ!! 死んじゃえフェイト!!」
一〇本の槍が、フェイトの体躯を貫いた。
「ぐっ!!」
「ようやく死ぬねええ!!!! フェイトちゃああん!!」
「……これで、信じてくれますか?」
「は?」
「友達になって、くれますか?」
「なにいってんの」
フェイトの服が、足元が、真っ赤に染まっていく。
誰の目から見ても致命傷。フェイトは、間もなく死ぬのだ。
なのに、人生が終わるのに、フェイトの顔は、未だに強く煌めいていた。
「フ、フユリンさんたちは、優しい方々ですけど……危なっかしいところがあるので……よろしく……お願いします」
青ざめていく。
声が小さくなっていく。
フェイトが、終わっていく。
「これで許してください、マイリンさん……」
「…………」
「どうか、私の代わりに……みんな幸せな……」
「……バカじゃないの」
ティタノーサの視線がフユリンたちを捉える。
合図であると、むず痒い思いをしていたフユリンが受け取る。
「アイセント!!」
「承知」
アイセントは超高速でフェイトに接近すると、回復魔法を発動した。
とはいえ、医療用魔法人形ではないので高度な回復魔法は使えない。
間に合わないかもしれない。
「アイセント……ちゃん……」
「おまかせを」
「マ……マイリン……さんは……」
おぼろげな視界が揺れる。
ティタノーサを見つめることすら叶わない。
「本当に、バカじゃないの。フェイトちゃん」
ティタノーサがため息をついた。
ここにきて、彼女はようやく理解した。
いまのフェイトは、以前のフェイトと明らかに違う。
同じ名前と体をした、まったくの別人。
仮に殺したって、何も得られやしないだろう。
ふつふつと湧き上がる憎悪と殺意を晴らす手段は、もうないのだ。
「悪いけど、仲間になんてならないよ。私は殺しすぎた」
「…………」
「あーあ、なんかもういいや」
分身が消え、ティタノーサは槍を落とした。
懐に手を伸ばし、ナイフを取り出す。
「でも私は悪人だからさぁ、最後の最後にトラウマを植え付けてあげるよ」
ナイフの刃を己の首に向け、
「ばいばい、フェイトちゃん」
「マ……イリ……」
「がんばってね」
細い首筋を切り裂いた。
血が噴き出すこともなく、ティタノーサの肉体が、霧散していく。
正真正銘、かつてフェイトの友達であった少女マイリンは、消滅したのだ。
そこで、フェイトは完全に意識を失った。




