第70話 ティタノーサ② マイリンの殺意
※まえがき
三人称です。
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マイリンという少女がいた。
魔法の才に恵まれながらも心優しく、明るい少女であった。
彼女には悩みがあった。
抱える憎しみがあった。
同じ魔法学校に通う悪役令嬢、フェイトの存在。
卑劣で傲慢。
誰に対しても優しさを見せず、他人を奴隷のように扱う悪女。
マイリンは、フェイトが嫌いであった。
大嫌いだった。
フェイトもマイリンの善人っぷりが気に食わなかったので、何度も嫌がらせや罵詈雑言を浴びせてきた。
「殺したい」
優しいマイリンの心の中で闇が育っていく。
みんな仲良くハッピーな世界が好きなのに。
できればフェイトとも友達になりたいのに。
矛盾する二つの精神。
それを排除するために、マイリンは分身魔法を利用した。
己の邪悪な部分を切り離したもう一人の自分。
名は、ティタノーサ。
分離されたティタノーサはフェイトへの憎悪の集合体。
だが、フェイトを殺しはしなかった。
本体であるマイリンへの嫌がらせであった。
自分は、マイリンの都合のいいように、生み出された存在。
自分の胸では殺意が活火山のように煮え立って止まらないのに、本体はスッキリした顔で恋愛なんてしやがって。
だからあえてフェイトは殺さなかった。
代わりに、他の人間を殺した。
無差別に殺しまくった。
やがてマリアンヌの目に留まり、災悪姫騎士団に入隊し、さらに殺した。
マリアンヌが殺してほしい相手を、殺して殺して殺し続けた。
それでも、胸を支配する殺意は収まらない。
いつも頭が熱くって、脳内を虫が這っているようで、気分が悪い。
驚きだったのは、本体であるマイリンが死んでも、自分も、殺意も消えなかったこと。
じゃあ、もう、この不快感を消すためには、殺意の根源を絶つしかない。
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「マリアンヌ様が死んで、新会長の命令でフユリンとその一行を殺すように命令された。つまり、フェイトちゃんを殺す理由ができちゃったんだよ」
「ティタノーサ……」
「でもただ殺すんじゃ面白くないでしょ? いっぱい苦しんでもらわないと」
メイド学校や橋でフェイトを煽ったのは、精神的に追い詰めたかったから。
フェイトの故郷の人間を皆殺しにしたのも、同様の理由。
「けど、もうやることもなくなったし、終わりにするよ」
「…………」
「ククク……フェイトちゃんを殺したら私はどうなるのか、教えてよ」
ティタノーサが槍を構える。
一瞬でも目を離せば殺される状況で、フェイトは視線を落とした。
マイリンをいじめたのは、以前の自分だ。
記憶が戻る前の、別の人格の自分。
自分は関係ないーー。
いや、無関係なんかではない。
これまでフェイトは、幾度か以前のフェイトの威光を借りてきた。
フユリンたちと出会えたのだって、以前のフェイトが悪名高い悪役令嬢だったからだ。
それに、一度死んだ自分が蘇ることができたのだって、彼女の肉体を乗っ取ったからでもある。
ならば、かつてのフェイトが残した負の遺産と向き合うのは、当然の義務である。
「わかりました。でもティタノーサ、ひとつだけ伝えておきたいことがあります」
「ん?」
「少し前、一人の悪役令嬢と和解できたんです。暴力に頼らず、改心できたんです。ほんのちょっぴり、たった一歩だけですが、みんな幸せハッピーな世界に近づけた」
「それを伝えるべき相手はもう死んでるよ」
「いえ、だってあなたも、マイリンさんですから」
「…………」
フユリンの方を振り返る。
眼光で訴える。
今回は、この戦いは、一人でやる。
自分の力だけで決着をつけなくてはいけないのだ。
「好きにしろ」
ティタノーサが突っ込んできた。




