第65話 マエデュ①
リシオン姉さんを戻すためには魔女に会う必要がある。
ひとまず序列第四位の魔女に会うべく、クリグン火山を目指すことになった。
天気は快晴。馬も元気いっぱいだ。
「フェイト様、ご気分が優れない様子」
荷台にて、アイセントがフェイトを心配している。
「だ、大丈夫だよアイセントちゃん。自分のダメダメっぷりに落ち込んでるだけだから……」
何が大丈夫なんだか。
橋でシュバリエの連中に何を言われたのか知らないが、いつまでもウジウジされては困る。
私の背中にしがみついているラミュが、後ろを向いた。
「元気だしてくださいフェイトさん!! この世で大切なのは元気と愛と根性ですよぉ!!」
「そ、そうだね」
「あとお金!!」
「う、うん。それも大事だね」
急に現実的になるな。
そんなこんなで、私たちは宿を求めて『ケポカ』の街を訪れた。
カタログによれば、ここにも悪役令嬢がいるらしい。
名は、マエデュ。
街は活気に溢れていた。
これまで数多くの悪役令嬢が支配する街を訪れたが、比べものにならないほど笑顔に満ちていた。
「みんなに慕われているのか? それとも……」
とりあえず宿に入り、店主に話を聞く。
どうやら笑顔の秘訣は、『完全無税』にあるらしい。
文字通り、この街には税金が存在しないのだ。
「そんなんで街が機能するのか?」
「だから税金の代わりに、ガチャ制度ってのがあるんだよ」
「ガチャ制度?」
「ふふふ、見ろ!!」
店主が懐から四枚のカードを取り出した。
モンスターやら神話の神々やらのイラストが描かれた、派手なカードであった。
「この街の住人はみんな『ムチムチラグナロク』っていうカードゲームにハマってんだ。そしてこれが俺の自慢のSRたちだぜ!!」
「はぁ?」
「街の令嬢マエデュ様が作ったカードゲームだぜ。俺たちが払うパック代によって、街のインフラを整えているのさ」
「ふーん」
こんなものに何の価値があるのだろうか。
疑問に首を傾げていると、フェイトが腰を抜かした。
「な、なんて政策なのでしょう!!」
「フェイト?」
「人々の射幸心を煽るようでいて、しっかり幸福を与える。そのうえで税金の代わりとなる金を徴収するなんて……目から鱗です」
フェイトが店主に詰め寄った。
元気になってよかったな。
「ど、どこでパックを買うんですか?」
「教会さ。最高ランクのSSRの出現率は3%。けど、俺も俺の周りも、誰も持ってねえ」
「おぉ〜!! フユリンさん、試しに一回買ってみましょう!! 私、前世ではバイト代のほとんどをガチャに費やす廃課金者だったので、うずうずしています!!」
「お前、絶対にギャンブルはやるなよ」
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教会には長蛇の列ができていた。
なんでも、『新弾パック第二弾・豊穣のムチムチドラゴン降臨!!』の発売日なんだとか。
ラミュがわんぱくダッシュで列に並んでいく。
「わーい!! フユリンさん!! ここが最後尾ですぅ!!」
「見ればわかる」
なんで私まで並ぶ空気になっているのだ。
さっさとこの街の悪役令嬢に会いたいのに。
大勢の人間が入る分、何人もの人間が教会から出てくる。
「くっそ〜、10万ギルも使ったのにSSR出なかったぜ」
「私は一枚出たけど、四世代前のだったわ」
そんなこんなで私たちの番。
高さ1mほどの長方形の箱に、ぐるっと回すハンドルが取り付けられている。
これを回すと、取り出し口からカードが排出される仕組みらしい。
列を仕切る教会の神父が、フェイトに気付いた。
「あ、あなたはフェイト様!?」
「え?」
「マリアンヌ様のご親友、フェイト様ですよね? お忍びで遊びに来てくださったのですね。でしたらこちらに……」
なんだ?
案内された別室にも、同様の筐体があった。
「あの、これはなんですか?」
「VIP用のガチャ筐体です。ひひひ、なんとSSR排出率は20%!! 一般市民向けより高確率ですよ」
悪そうな神父だな。
たぶん、悪役令嬢からガチャ管理費とか貰っているんだろう。
「どうして市民と分けるんですか? 簡単にSSRが出たんじゃ廃課金勢的に満足できないんですけど……」
フェイト、お前イカれてるのか?
「え、でもフェイト様。市民向けのSSR排出率は0.3%ですよ? ほとんど出ることはないですよ?」
「3%じゃないんですか!? 十分の一じゃないですか!?」
「まぁまぁ、そうでもしないと儲かりませんから」
なるほどな。
おそらく悪役令嬢マエデュの指示。
市民を騙して金を巻き上げているわけだ。
とはいえ……。
「そ、そんなの許されません!! ガチャの数字は正直でないといけないんですっ!! 私の前世なら消費者庁案件ですよ!!」
「待て待てフェイト」
「なぜ止めるんですかフユリンさん!!」
「そう熱くなるな。確かに悪徳商法だが、たかが趣味の世界だろ?」
「た、た、たかが!?」
「しょせん、絵じゃないか」
「ぬわああああああ!!!!」
うお、フェイトが私の胸ぐらを掴んできた。
な、なんだ、殴られるのか? フェイトに。
「それだけは!! それだけは絶対に禁句ですよフユリンさん!! 戦争ですよ!!」
「え? え?」
「でもその前に、マエデュさんに会いにいきましょう!! この私が、直々に粛清します!!」




