第64話 中心の女
リシオン姉さんもティアと同じ『中心の女』だ。
フェイトが語る言葉に、神経を研ぎ澄ます。
「なんだ? その、中心の女というのは」
私の横でメディスンが呟く。
マリアンヌも似たようなことを口にしていた、と。
「フユリンさん、以前私が、この世界は作られたものだと話したのは、覚えていますか?」
「あぁ。とくに気にしてなかったが」
「もともとこの世界は、伝説の悪役令嬢カトレアの親友、ティアさんのために作られたのです」
「ティアのため?」
「本人にその自覚はありません。要は、彼女を主人公とした物語の世界なのです」
ティアが主人公?
だから中心なのか。
「しかし、どちらかといえばカトレアの方が主人公らしい活躍をしているだろう。実際、本になっている」
「そこは一先ず置いておいてください。私は、この世界のことを知っていました。だって私の前世の世界で作られた物語で、私も触れていましたから」
「フェイトの世界で作られた世界? 待て、じゃあ姉さんは何だ? 主人公はティアなんだろう?」
「リシオンさんは、ティアさんの物語の続編における主人公なんです。そこにはマリアンヌも、メディスンさんも登場しています」
そんな素ぶり、これまで見せてなかっただろう。
「すみません。続編の方は未プレイだったので、すぐに確証は得られませんでした」
正直、いまいち理解できない。
フェイトに揶揄われている気もする。
動揺する私に代わって、メディスンが質問した。
「おおよそは把握できた。しかし不思議だね。マリアンヌはティア嬢を殺そうとした。なら、何故リシオンは殺さないのか。何故手元に残しておいたのか」
「それは……わかりません。少なくとも、魔女が絡んでいるのは確かなはずです。世界が創造されたものだという事実を受け入れられない魔女が、マリアンヌに力を貸していたようですし」
結局、魔女どもか。
魔女、という単語にアイセントが反応する。
「第五位の魔女が知っている可能性がある」
単にお前が会いたいだけだろう。
主人にかけられた呪いの元凶だからな。
続け様にメディスンが喋りだした。
「クリグン火山の周辺に、第四位の魔女がいると聞いた事がある。彼女が関係しているかは定かではないがね」
「私たちに会いに行けと? ふざけるな、お前が行け。私はまた、姉さんに会いに行く」
「会ってどうする。あの状態のリシオンに」
「…………」
「彼女に何があったのか突き止める方が先じゃないかな」
「これ以上お前の指図は受けない」
「……リシオンは、マリアンヌに負けず劣らず人を殺している」
「は?」
「君が恨む悪役令嬢そのものになっている。そんな彼女の姿を、これ以上見たいか?」
メディスンの言葉が私の芯の部分に突き刺さる。
姉さんは、悪役令嬢になってしまった。
私がこれまでゴブリンにしてきた、悪役令嬢に。
でもそれは、おそらく魔女やマリアンヌのせい。
ラミュが私の裾を引っ張った。
「やっぱり魔女に会ってみましょう!! フユリンさん言ってたじゃないですかぁ、悪役令嬢を生み出して利用するやつは問答無用でぶちのめすってぇ」
「……」
「私が一緒ですからぁ、安心してくださいっ!!」
「……ふん」
そういえば、私に魔法を教えた第三位の魔女は、まだダスト地区にいるのだろうか。
そんなことを考えていると、遠方から馬が一匹、走ってきた。
見覚えのある、黒い馬。
私の愛馬だ。
私を捜して追いかけてきたのか。
お利口なやつめ。
「君らのことは亡くなったと伝えておこう」
「あぁ」
「頼むよフユリン。リシオンのためにも」
愛馬に跨る。
ラミュは後ろに。フェイトとアイセントは荷台に。
必ず姉さんを元に戻す。その決意を胸に、私たちは旅を再開した。




