第61話 再会 前編
ドヌールの街を去ろうとしていると、黒装束の男が近づいてきた。
「メディスン様の使いの者です」
久しぶりに耳にしたな、その名前。
反悪役令嬢勢力の指揮する、名門貴族の男だ。
てっきり、マリアンヌ殺害の件がバレて処刑されたとばかり思っていた。
「まもなく、悪役令嬢協会の新会長が協会本部に訪れ、就任式を執り行います」
「まさか、そこを奇襲しろとでも?」
「明日の昼に、サンカット大橋を渡る。……そう伝えよと下知されました」
「すっかり手下扱いだな」
「私の任務は伝聞だけですので」
黒装束が去っていく。
あの胡散臭い貴族め、常に私たちを監視しているのか。
ラミュが私の袖を掴んだ。
「サンカット大橋ってどこにあるんですかぁ?」
「ここから半日で着く距離だ」
「えぇ!? めっちゃ近いですねぇ!! なんという偶然」
偶然なわけがないだろう。
メディスンのやつ、仕組んだな。
おそらく私たちのルートを元に、新会長とやらの移動ルートに手を加えたに違いない。
あいつならそれくらいやりかねない。
フェイトが問いかけてくる。
「どうしますか?」
「……行くだけ行こう。奇襲が可能ならやる。なんにせよ、いずれは潰さなくてはならない相手だ」
新会長まで潰されたともなれば、協会の威信にも影が差すだろう。
これまで、マリアンヌという絶対王者がいたから、他の悪役令嬢どもは大人しくしていた。
そのマリアンヌと、後継者までもが消えたなら、たぶん醜い権力闘争が起こる。
そうなれば、あとはメディスンたちに任せればいい。
私は姉さん捜しに専念できる。
「どのみち、姉さんがいる国の方角だしな」
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幸運にも、サンカット大橋は森に囲まれていた。
渓谷に架けられた橋なのだから、当たり前ではある。
前日から張り込み、新会長が通るのを待つ。
しかし、わざわざどうしてこんな橋を使うのか。
魔物が飛び出してくる可能性もあるし、突発的な自然災害が起きればモロに影響を受けるだろうに。
急いでいるのか? それとも……。
「フユリン」
アイセントに呼ばれた。
「気配、あり」
耳を澄ます。
音が聞こえてくる。
大勢の人間の足音。
馬の足音。
車輪が回る音。
「来たな」
少し離れた木陰から、気配を消して橋を睨む。
見えてきた。
白を貴重とした馬車に、護衛が……前後合わせて六人。
少ないな。
なら……。
「私がクロックアップで突っ込む。アイセントはフェイトを抱えて追いかけてきてくれ。ラミュは待機」
アイセントとラミュが頷く。
フェイトは、なにやら不安な様子だった。
「いきなりゴブリンにしたりしませんよね?」
「マリアンヌの後継者だ。極悪人に決まってる」
「でも……」
「わかったよ。なんであれ捕獲し、一気にここから立ち去るぞ。判断はそれからだ」
ようやくフェイトも頷いた。
やるか。三〇秒でケリをつける。
「クロックアップ」
加速し、超高速で馬車に接近する。
あらかじめ、バインドで六人の護衛を拘束してから、扉を開けた。
加速が終わる。
「え……」
中にいた人物が、一切の動揺も見せずに私を見つめた。
私と同じ長い銀髪。綺麗に整った顔。
「なんで……」
「あなたが、例の悪役令嬢ハンターね。マリアンヌ様を追い詰めた」
瞬間、
「おやおや」
男の声がした。
そこでようやく、私の動揺しきった脳みそは、馬車にもう一人乗っていたことに気づいた。
「メディ……スン……」
「怖いね。不審者かな? よかった、兵を隠しておいて」
「……は?」
突如、アイセントと共に橋まで追いついてきたフェイトが、私を呼んだ。
私たちを挟み撃ちにするように、それぞれ二人ずつ、四人の女が立っていた。
コレールとティタノーサ。
ラマリアと、知らない女。
災悪姫騎士団の連中だ。
おそらくメディスンが、マリアンヌを囲む際に魔法で私たちの姿を透明にしたように、彼女たちを消していたのだろう。
騙された。
メディスンに騙された。
たぶんあいつは、私たちを協会に差し出すつもりなのだ。
でも、そんなことよりも……。
「どうして、どうしてここに……」
見間違えるわけがない。
六年会っていなかったが、私にはわかる。
「どうしてここに、リシオン姉さんがいるんだ!!」




