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第60話 アイセントの休憩時間

※まえがき

今回は三人称です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 フユリンの黒馬が平野を駆ける。

 馬に備え付けられた荷車のなかで、アイセントは青空を眺めていた。


「どうしたんですか? アイセントちゃん」


「いえ、フェイト様。ふとラブレスィブ様を思い出していただけです」


 故郷においてきた幼い主人。

 彼女の呪いを完全に断ち切るために、アイセントは旅をしていた。


「レスィちゃん、元気でいるといいですね」


「はい……」





 それからほどなくして、アイセントたちはとある街を訪れた。

 ドヌールという悪役令嬢がいる街だった。


「ドヌールは協会きっての殺人鬼。しかも、お互いに武器を持っての殺し合いが趣味のヤバい女だ。まぁ、災悪姫騎士団(シュヴァリエ)ではないようだが」


 フユリンの解説にラミュが乗っかる。


「まったく、どうして悪役令嬢ってのは命を粗末に扱うんですかねぇ。人殺しより可愛いを極めればいいのに。結局、この世の心理は可愛いなんですからねぇ。可愛いがすべての判断基準なんですよ。つまりこの世で最も偉いのは悪役令嬢協会会長ではなく、可愛い令嬢協会会長であるこの私なんですよねぇ!!」


「そういえば、曇ってどうして白いんだろうな」


「私がいつ雲の話をしましたか?」


 フユリンが豪奢な城を指さした。

 街の貴族学校である。

 ドヌールはあそこか、街の外れの方にある屋敷に住んでいるらしい。


「私とフェイト、それとラミュで行ってくる。アイセントはこの辺で待機していろ」


「なぜ?」


「ここ最近、お前の強さに頼ってばかりだからな。たまには楽をしろ」


「問題ない」


「ここぞという場面で支障をきたされては困る。黙って休め。反論は許さん」


「……承知」


 フユリンたちが背中を向けて去っていく。

 徐々に小さくなる彼女たちを尻目に、アイセントはキョロキョロと周囲を見渡した。


 広場にちょうどいい大樹があった。

 木陰に座り、ぼーっとフユリンたちの帰還を待つ。


 アイセントは旧式の魔法人形なので、周囲の自然から微量な魔力を取り込む必要がある。

 いわゆる休息モード。

 その間は全機能が90%低下するが、警戒は怠らない。

 異音や敵意を感知すれば、一秒で戦闘モードに切り替えられるのだ。


「…………」


 仲間がいない。

 ラブレスィブもいない。


 完全に一人の状態。

 製造されて約七〇年にして、はじめての体験。


 とくにすることもないので、アイセントはただひたすら、ぼーっとすることにした。








 気配を感じる。

 視線を感じる。


 木陰で休んでからおおよそ三時間半が経過した頃だった。


 休息モードを解いて気配の方を向く。

 小さな女の子が、じーっとアイセントを見つめていた。

 六歳程度だろうか。


 視線が重なり、少女が笑った。

 トテトテと、走ってくる。


「メイドさん?」


「そう」


「なにしてんのー?」


「待機」


「たいき?」


「仲間が帰ってくるまで、休息しつつ待機」


「ふーん。なんでー?」


「……」


 なんでとは?

 質問の意味がわからなかった。


「ドヌール様のメイドさんなの?」


「違う。私の主人はラブレスィブ様のみ」


「だれ?」


「ここより北西にあるブルブッル国ゲキムサ自治区ラブサドの元領主」


「ドヌール様のメイドになったらいーよ」


 無視された。

 説明したのに。


「私、ドヌール様になりたーい」


「ドヌールは悪役令嬢」


「でもママとパパ、ドヌール様に感謝してるよ。おじいちゃんを殺した犯人、倒したから」


「彼女は戦闘狂。おそらく、人を殺すような悪人相手でないと、満足する戦いができないだけ。良心や正義感による行為ではない」


「んー?」


 少女が首を傾げた。

 十中八九、言葉の意味を理解していない。

 

 いま、彼女のなかでドヌールはヒーローのように扱われているが、もしドヌールが無害な庶民まで殺すようになったらどうするのか。

 少女の純粋な精神が荒んでしまうかもれない。


「よくわかんない!!」


「そう」


「じゃあ、私が悪役令嬢になったら、私のメイドになって」


 なにが『じゃあ』なのか。

 アイセントはこれまで幼い主人の面倒を見たことはあったが、ここまで理解不能な言動を繰り返していた記憶はない。

 ラブレスィブの一族が特別なのか、この子がおかしいのか、定かではない。


「不可能。あなたのメイドにはなれない。私の主人はラブレスィブ様だけ」


「どっちのメイドもやればいーじゃん」


「不可能。私に分身機能はない」


「んー。なら『らぶえてぃぶ』と一緒に暮らす。それならへーきでしょ? 引っ越してきてよ」


「不可能。ラブレスィブ様は体が弱い」


「じゃあ私が引っ越す」


「ラブサドは極寒の地域」


「えー。んー、なんでダメダメばっか言うの?」


「合理的な判断」


 少女がアイセントの隣に座る。

 ニコッと微笑むと、抱きついてきた。

 小さく丸い顔が、アイセントの胸に埋まる。


「一緒がいい」


「なぜ?」


「メイドさん、キレイだから!!」


「…………」


「私が悪役令嬢になったら、絶対メイドになってね!!」


「…………」


 誰かが遠くから少女を呼んだ。

 おそらく母親だろう。


 少女は立ち上がると、母親の方へ駆けていった。

 それから振り返り、ブンブンと手を振って、


「メイドさんばいばーい」


 母親と共に、消えていった。

 つられて、アイセントも小さく手を振る。

 すると、


「アイセント」


 フユリンたちが戻ってきた。


「休めたか?」


「充分に。……ドヌールは?」


「あぁ、やつなら……」


 ゴブリンにしたのだろうか。

 まさか、殺したのだろうか。


 あの子のヒーローは……。


「それが、いなかった。学校にも屋敷にもな。どうやら旅行中らしい」


「…………」


 ラミュがアイセントを下から覗き込んでくる。


「おやおや〜? アイセントさん、なんか……」


「なにか?」


「うーん? なんでもないですぅ」


 フユリンが歩き出す。


「さっさと行くぞ。ドヌールは、また今度機会があったらゴブリンにする」


 いまここでドヌールを潰さなかったのは幸いだったのか。

 アイセントには判断できない。


 しかしーー。


「どうした、アイセント」


 アイセントは、少女がいなくなった方を向いた。

 もうそこに彼女の姿はない。


「ばいばい」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

次回、ぐーんと話が進みます。

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