第59話 スターティ② マリアンヌを倒すために?
体育館で複数の人間が戦っていた。
老人、子供、女、男。性別も年齢も関係なく、がむしゃらに戦っていた。
彼らの視線が、私たちに向けられる。
観覧席の方を向けば、髪の長いドレスの女が偉そうにふんぞり返っていた。
あいつか、この街の悪役令嬢は。
「さっさと終わらせるぞ。シュヴァリエどもは私たちの居場所を把握している恐れがある」
「承知」
アイセントが跳んだ。
スタスタと観覧席に移動し、スターティを持ち上げて、
「な、何をするの!? 誰よあなた!! 降ろしなさい!!」
「拒否」
彼女を私の方へ投げ飛ばした。
おいおい、5mは高さがあるぞ。しかも顔面から落ちたし。
死んだか?
「ぐぐぐっ、不届き者めが……」
生きてた。
鼻血を流している程度で済んだようだ。
さすが悪役令嬢。無駄に生命力が強いな。
「なにをしているの!? はやくこいつらを捕まえて!!」
さっきまで戦っていた者たちが、困惑気味に私を囲む。
アイセントの方も、護衛の騎士たちに剣を向けられていた。
スターティが不敵に笑う。
「何者だか知らないけど、ちょうどいいわ。私が作り出した最強の軍隊の恐ろしさを、身を持って味あわせてあげる」
「軍隊?」
「そうよ。この学校は私の軍人学校。いずれマリアンヌを殺すための兵士を育てているのよ。まぁ、どうやらマリアンヌは死んだらしいけどね」
「ほう、マリアンヌが嫌いなのか」
「当たり前よ。あんなどこの馬の骨かもわからない女が、私を差し置いて会長だなんて……。とにかく!! あなたたちは完全に包囲されているわ。助かりたければ答えなさい? 誰の差し金? 新会長かしら?」
「私は誰の指示でも動いていない。すべての悪役令嬢を潰す。それだけだ」
「はあ?」
「それと、一つ訂正してやる。……お前の自慢の兵士たちは、最強でもなんでもない。ただ殺されたくないから、お前が怖いから、嫌々軍隊ごっこに付き合っているだけだ」
「なっ!?」
一歩、二歩と近づく。
周りの人間たちは、渋々といった具合に私を取り押さえようとしてきた。
そいつらをバインドで拘束し、さらにスターティに接近する。
「くっ!! 役立たずどもめ」
スターティが体育館の外に逃げた。
当然、追いかける。
「誰か!! 誰かやつを殺しなさい!!!!」
偶然外にいた生徒や、校庭で訓練をしていた生徒たちが、何事かと集まってくる。
坊主頭の男女数十名。心なしか、みんな顔が死んでいる。
スターティが転んだ。
「だ、誰か!! こいつに命を狙われているわ」
誰も手を貸さない。
じっと、スターティを見つめているだけだ。
「なにをしているの!? こういう時のためにあなたたちを鍛えたんでしょ」
「願っているんじゃないか? お前の終焉を」
「なっ!?」
「かつて私が潰した悪役令嬢が言っていた。悪役令嬢とは恐怖の象徴。恐怖とは神。人々は、強大すぎる恐怖に屈服し、慎ましく生きるしかないのだとな」
「その通りよ!! 悪役令嬢がいるから、下賎な庶民は真っ当に規則正しく生きる事ができるの。猿だから!!」
「恐怖を乗り越える事を諦め、悪役令嬢は神の使いだから従うしかないと、幸福のおこぼれが貰えるはずだと、体のいい言い訳を自分に言い聞かせているんだろうな」
悪役令嬢に気に入られたら人生勝ち組。
そんな世の中だ。
「が、実際、恐怖が取り除かれる機会が訪れたなら……こんなもんだ」
「なにをしているのよ、はやくこいつを殺しなさい!!」
やはり、誰も動かない。
「こ、こうなったら私の悪役令嬢拳法でーー」
瞬間、女生徒の一人がスターティを羽交い締めにした。
丸坊主の女生徒が、私を見つめる。期待を込めた眼差しで。
「な、離しなさい!! あなた私の兵士でしょ!!」
「なにが兵士だ!! 本当はマリアンヌ様と戦う気なんかないくせに!!」
「……」
「マリアンヌ様が怖いくせに。協会から追放される覚悟もないくせに」
「ば、バカをおっしゃい!!」
なるほど、そういう人間だったわけか。
マリアンヌを恐れながらも、勝てないとわかっていながらも、何もしないのは癪なので反抗するフリだけをしている。
軍隊を育成し、無駄な戦闘訓練をしているのだって、結局は『マリアンヌを憎んでいるフリ』をしているだけなのだ。
自分は他の悪役令嬢とは違う。
自分はマリアンヌより特別。
そう思い込んでいたいから。
「お前の馬鹿げた軍隊ごっこも、終わりだ」
「いや、いやあああ!!」
「私に恐怖したな。発動条件は満たした。パニッシュメント・メタモルフォーゼ!!」
スターティの肉体が縮んでいく。
顔だけ人間の、ゴブリンもどきに成り下がる。
「お前の悪役令嬢としての人生は、これで終わりだ」
「あ、あぁぁ!! な、なによこれ!! どうなっているのよ!!」
「説明しただろう、お前の人生を潰した。これからゴブリンとして生きていくがいい」
「やだ!! 戻して!! 私を戻してえぇ!!」
ここぞとばかりに、生徒たちがスターティを囲んだ。
「な、なによあなたたち、その目は。私に何をする気。あなた達を最強の軍人に育てた恩を忘れたの!?」
「誰が育ててくれと頼んだ!!」
「ま、待ちなさい。わかったわ、お金ね、お金がほしいのね」
「欲しいのはお前の命だ!! このゲス女が!!」
生徒らが募らせてきた怒りや憎しみが、暴力によって発散される。
殴り、蹴り、投げてーーここから先は語るまい。
皮肉にも、自分の手で鍛え上げた生徒たちに襲われるなんて、無様なものだ。
アイセントが体育館から出てきた。
傷一つない。護衛の騎士たちを蹴散らしたらしい。
「フユリン」
「ご苦労だったな、アイセント」
と一息ついたところで、
「何事だ!!」
老人が早歩きでやってきた。
「誰だお前たちは!!」
「お前がガドデガか?」
「そ、そうだが……」
「この学校の悪役令嬢は、もう潰した」
「なにっ!? ま、まさかお前たち、悪役令嬢ハンターか!!」
そんなダサい名称で呼ぶな、恥ずかしい。
さて、向こうから来てくれたのならありがたい。
大悪役令嬢時代が生まれるキッカケとなった男、このまま放置するわけにはいかないからな。
「お前を殴る。よくも適当な論文を書きやがって」
「適当な論文!? ふざけるな、悪役令嬢とは神秘、神に選ばれた特別な存在。それは事実だろう。……そんなことより、スターティはどこだ。どこにいる!!」
私の後ろでボコボコにされているよ。
「何故悪役令嬢を崇拝する。何がキッカケだ」
「ワシは伝説の悪役令嬢、カトレア様の血筋の者だ。何度もカトレア様に会っている。他の悪役令嬢たちにもな。その経験から基づく真実を書いたにすぎない」
「確かに、かつて存在した『善なる悪役令嬢たち』は幸福になったのだろうな」
フェイトのように、前世の記憶が戻ったりした連中だ。
他にも、本心は優しい者もいたのだろう。
「しかしお前のせいで、その善人たちはいなくなり、肩書き通りの本当の悪女たちが世界中に蔓延したんだぞ」
「だからなんだと言うのだ!! 悪役令嬢は神の使いなのだから別にいいだろう!!」
話にならないな。
こいつは崇拝を通り越して、狂信者になっている。
本質を忘れ、外側の部分だけを重視し、暴走している。
よくある宗教の瓦解理由だ。
その結果が、大悪役令嬢時代。
いや、フェイト曰く、魔女も一枚噛んでいるようだが。
「殺しはしない。が、二度とその減らず口が叩けないようにしてやる」
「な、なにを……」
メタモルフォーゼは、何も悪役令嬢だけにしか使えないわけじゃない。
私はガドデガを二、三発殴り、ゴブリンモドキに変えたあと、アイセントと共に学校から立ち去った。
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※あとがき
しばらくゲスト悪役令嬢回はないかも……。




