第55話 マリアンヌの謎と復讐の魔法人形
一通りメイド学校を見学し、私たちは学長室にて休憩することにした。
学生であろうメイドがお茶とお菓子を用意する。
学長のコヌリが微笑む。
「いかがでしょうフェイト様。我がメイド学校は」
「た、大変素晴らしいです」
お前だってよくわからなかったくせに。
「ところで、マリアンヌ様はお元気ですか?」
「え!?」
こいつ、マリアンヌが死んだことを知らないのか。
無理もない。ここは社会と隔絶された施設。それにヤツが亡くなってまだ一週間ほどしか経っていない。
フェイトが苦笑する。
「どうでしょう。最近会っていないので」
「そうですか。私もかれこれ、六年はお会いできていないですね」
ということは、こいつがマリアンヌに仕えていたのは六年前までか。
あいつが私からすべてを奪った年だ。
「どうして、マリアンヌのメイドを辞めたんですか?」
「もともと年齢を理由に引退を考えていたんですよ。それと……マリアンヌ様の変化についていけなくなったから」
「変化?」
「マリアンヌ様は幼い頃より悪役令嬢でしたが、会長になれるほどの器ではありませんでした。わがままで自尊心は強かったけれど、心の奥底には優しさがあったのです」
それは従者の視点だろ。
身内だから甘く採点しているのだ。
ウチの子はやればできる、とか抜かす親と一緒だ。
「卑怯なことを嫌い、人を殺すなんて絶対にできない子でした。フェイト様より前の親友だった『リシオン様』も、そう仰っていましたよ」
「は?」
こいつ、いまなんて言った。
リシオン姉さんが、マリアンヌの親友だと?
確かに姉さんはおおらかで優しくて、友達がたくさんいた。
しかし、ありえない。
マリアンヌと親友だったなんて、信じられない。
だってあいつは、姉さんを……。
「それなのにマリアンヌ様は、ある日を境に人が変わって、女帝に相応しき悪女になりました。だとしても私はマリアンヌ様に忠誠を示し、仕えるべきだったのでしょうが、あまりの変化に心が整理できず、お別れしたのです」
「そのとき、マリアンヌは……」
「『そうですの、ご苦労様でしたわ』……とだけ」
頭が痛くなってきた。
フェイトが何やら考え込んでいる。
おそらく、マリアンヌの過去の『人が変わった』という部分に反応しているのだろう。
フェイトのように前世の記憶が戻ったのか。
だとすれば、逆に善人になりそうなものだが。
それに、姉さんのことも気になる。
マリアンヌに、何があったというのだ。
「コヌリ様、お客様です」
学生であろうメイドが、コヌリに告げた。
「どちらですか?」
「そ、それが……」
ドカドカと足音がする。
扉が大きく開かれて、二人の女性が入ってきた。
仮面をつけた女と、オレンジの髪をした……。
「コレール!?」
災悪姫騎士団の魔法人形が、私たちを睨んでいた。
隣りにいる仮面の女も、おそらくメンバーの一人。
こいつら、どうしてここに……。
「殺す。今度こそ、お前たちを!!」
くそっ、とにかくやるしかない。
異常な空気を察した学長のコヌリが、間に立つ。
「一体何事ですか。学校内では一切の暴力行為は認められていません」
仮面の女が、薄気味悪い笑みを浮かべる。
「悪いけど、これは悪役令嬢協会の新会長からの命令だからさぁ。部外者は黙ってなよ」
「なっ……」
学校を巻き込むわけにはいかないな。
ラミュたちに目配せをする。
幸いにも、ここは一階だ。
「走れ!!」
アイセントを先頭に、一斉に窓へ向かって駆け出す。
そのままガラスをぶち破り、外へ。
「このまま学校の外まで逃げるぞ!!」
と指示を出した瞬間、
「逃がすか!!」
コレールが猛スピードで迫ってきた。
棍棒を構え、ギンギンに殺気を放っている。
「ちっ」
「フユリン、彼女は私が」
アイセントは刀を抜くと、コレールに切りかかった。
ひらりと回避され、コレールが反撃する。
「証明してやる、私は使えるんだってところを!!」
「前回以上の悪役令嬢パワーを感知」
「旧式が邪魔をするなっ!!」
上手いことアイセントが対応しているが、一人だけに任せるわけにはいかない。
できれば加勢したいのだが、事はそう上手くはいかない。
「さてと、私の相手はこっちかな」
気づけば、仮面の女も追いついていた。
「災悪姫騎士団。詳しくはないが、マリアンヌ直属の戦闘集団なんだろう?」
「う〜ん、まぁその解釈でいいよ。正確には、協会の会長直属だけどさ。悪役令嬢の中でも特に強い四人で構成されている。主な仕事は……戦い」
「だろうな。どうして私たちの居場所がわかった」
「ラマリアが教えてくれたよ。あいつに新会長からの指示を伝えたときにさ、この辺にいるよ〜って。ま、同行はしてくれなかったけど」
ラマリア……パッチの助手を名乗る女。
やはり、あいつもメンバーの一人か。
嫌いな人間以外は殺す気がないとか抜かしていたくせに。
いや、間違ってはいないか。
嫌いじゃない人間は、自分の手では殺さないというだけの話。
「自分の縄張りにいなくていいのか? 悪役令嬢のくせに」
「ははっ、しょせんは箔をつけるための肩書きだから。本気で令嬢をやってるやつはいないよ、私たちには」
「なんであれ悪役令嬢を名乗るなら、お前たちも潰す」
「くくっ、私の名前はティタノーサ。コレールのやつも気合入りまくっているし、私も頑張ろうかな」
「名乗ってどうする。これから人生が潰されるのに」
「えぇ〜? 知りたくないの? 自分を地獄に叩き落とす女の名前」
「バインド!!」
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※あとがき
安心してください、マリアンヌに悲しき過去はありません。




