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第53話 パッチと遭難 後編

 パッチの助手を名乗る女、ラマリア。

 パッチよりは年上ぐらいの、普通の女だ。

 これといって不審な点はない。


「お前もパッチと一緒にふっ飛ばされたのか?」


「頑張って追いかけたの」


 で、結界に閉じ込められたわけか。

 嘘ではなさそうだが。


 そもそもこいつが所属していた魔法研究所のことも、こいつの今の立場も知らないのだから、素性を推察することに意味はない。


「フユリン」


「なんだアイセント」


「休息を提案」


「さすがのお前も疲れたか?」


「否定。全員の体調を考慮しての発言」


 そりゃ感謝痛みいる。

 確かに、一旦休もう。

 こう暗くなってはどうしようもない。


 私たちはラマリアが捕獲したイノシシを焼き、飢えを凌いだ。

 どうやらこいつら、かれこれ三日はこうやって過ごしているようだ。


「パッチ、一応聞いておくが、結界を抜け出す方法はあるのか?」


「ないっ!!」


 だろうな。

 思いついていたら実行している。

 こいつだって、なにも好き好んで山の中でサバイバルをしているわけじゃないのだ。


「まったく、どこのどいつだ、結界を張ったのは」


 目的はなんだ?

 パッチたちも巻き込んでいるし、私を狙っているわけではなさそうだが。


 それは、と助手のラマリアが口を開いた。


「ゴースト悪役令嬢の仕業ね」


「…………は?」


「だから、ゴースト悪役令嬢」


 何を抜かすかと思えばこの女。

 悪役令嬢パワーだのゴースト悪役令嬢だの、研究者は悪役令嬢という名詞に単語をつけるのが好きなのか。


「原因はわかっているの」


 ラマリアが語りはじめる。


 かつてモレノという悪役令嬢がいた。

 非常に面食いな性格だったらしいのだが、パーティーの席でマリアンヌに、


『あなたの醜い遺伝子を世に残すなんて前代未聞ですわ〜』


 とルッキズム極まれる下衆発言を喰らい、恥をかいたとのこと。

 こいつと結婚したらマリアンヌ様の怒りを買う。

 なんて恐怖した男たちはモレノに寄り付かなくなった。


 悲しみの末、モレノはこの山で自死したらしい。

 まあ要は、マリアンヌのせいである。


「それ以来、男の人が山に立ち入ると、モレノの怨念が魔法で閉じ込めちゃうの。男を逃さないように」


 男……パッチか。


「死後強まる悪役令嬢パワーね」


「私たちは女だ」


「一度結界が張られた以上、女性だろうと抜け出せないわ」


「ったく」


 おや、ラミュが目を点にしている。

 あー、そうか、ラミュは知らないのか、パッチが実は男だってことを。


 その後、ラミュが叫んだ。

 私がパッチの性別を教えてやったら、大いに叫んだ。

 うるさいので割愛する。


 どう叫んだのか、だいたい予想がつくだろう。


「パッチをどうにかすれば、抜け出せそうだな」


「そうね。答えならわかっているの。閉じ込められた男が死ぬか、モレノの亡霊と寝るか」


 寝るって……そういう意味か。


「ならパッチ、モレノと寝ろ」


「いやなのだ!! 私は女の子だっ!! 男扱いするようなやつとえっちなことなどしない!! この三日も、追い払ってきた!!」


「そう言うと思ったよ。アースプロジェクトは試したのか? 一応、モレノは悪役令嬢なんだろう?」


「試した!! でもスイーっと逃げられてしまうのだ〜」


「なるほど。じゃあ作戦を立てないとな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夜もだいぶ更けてきた。

 結界内には洞窟やその他全方位から身を隠せるような場所は存在しない。


 適当な木の側で、虫に刺されながら獣の気配に注意して眠るしかない。


 パッチはぐっすり眠っていた。

 研究者だから神経質なのかと勘繰っていたが、心は野生児らしい。


 私たちは少し離れたところで様子を伺っていた。


「むむ!! フユリンさん!! あそこを見てください!!」


「わかっている。ラミュ、今回ばかりは真面目に黙っていてくれ」


 ビシッと敬礼して意思を示してくれた。

 ラミュが指摘したのは、木々の間を揺蕩っている謎の光。


 光はパッチに接近すると、徐々に人の形へと変貌していった。


「男……私の……婚約者……」


 パッチが起き上がる。


「私は女の子だ!! 毎晩毎晩、しつこいぞ!!」


「私を、愛して……」


「ええい!! 黙れい悪霊め、成敗してくれるっ!! アースプロジェクト!!」


 パッチが魔法の白い玉を出した。

 悪役令嬢パワーを吸い取るつもりだ。


 警戒したモレノが距離を取る。

 正直段取りが違うが、もういい。


「バインド!!」


 魔法の縄を飛ばす。

 これでやつを拘束し、アースプロジェクトでトドメだ。


 しかし、


「なにっ!? すり抜けた!?」


 バインドで拘束できなかった。

 幽霊だからか? 実体がないからか?

 まずい、このままでは逃げられる。


 途端、フェイトが叫んだ。


「クリアウォール!!」


「フェイト?」


「ここら一帯を、私の結界魔法で密閉しました。結界魔法には結界魔法です。……クリアウォール収縮!!」


 モレノが、何かに押されるようにこちらに近づいてくる。

 なるほど、結界を小さくしているのか。

 よかった、フェイトのクリアウォールは幽霊にも効くようだ。

 つくづく便利な魔法だよ。


「いまです!! パッチちゃん!!」


「うむっ!! アースプロジェクト!!」


 パッチの白い玉に、モレノが吸収されていく。

 あいつは死後強まった悪役令嬢パワー。つまり悪役令嬢パワーの塊。

 やがて完全に消滅するだろう。


 ……いかんな、平然と悪役令嬢パワーという単語を使ってしまった。

 パッチに脳細胞が侵されている気分だ。


「お、おとこおぉぉぉ!!」


「だから私は……女の子だっ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それから結局、山で一夜を過ごした。

 暗黒の中を進むのは、リスクが大きすぎるから。


 日が昇り、私たちは出発した。

 これまで一度も目にしていない、山の中の湖が視界に入る。


 無事、モレノの結界が消えた証だ。


「私たちは研究所に帰るぞ!! また会おう諸君!!」


 勘弁願いたい。


 助手のラマリアがニコリと微笑んだ。

 返すように軽く頷いてやると、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


 そして、耳元で、


「さすが、マリアンヌ様を追い詰めただけはあるね」


「……なぜ知っている」


 マリアンヌが死んだのはつい三日前だ。

 そう、そのときこいつは、山に閉じ込められていたはずだぞ。


「ふふ、少しの間しか側にいなかったけど、充分実力は計り知れたよ」


「質問に答えろ」


「気をつけて。災悪姫騎士団シュバリエ・ドゥ・マラディエがあなた達の命を狙ってる。いや、狙う……かな。たぶん、近いうちに私にも指令が下る」


「お前は……いったい……」


「安心して。私は嫌いな人間しか殺さないから。マリアンヌ様も、私の自由なところを気に入ってくれたわけだし」


 もういい、とにかくこいつを捉える。


「バインド!!」


 瞬間、私の眼前からラマリアとパッチが消えていた。

 なんだ、どういうことだ。

 高速で動いた? 二人とも? じゃあパッチも敵なのか?


 辺りを見渡す。私たちしかいない。


 アイセントが、呟くように発言した。


「三〇分七秒の誤差」


「?」


「私の正確な体内時計と私の意識に、三〇分ほどのズレがある」


「どういうことだ」


「約三〇分、私たちは立ったまま気絶していた」


 気絶していた?

 ラマリアの仕業なのか?

 三〇分間意識を止めたのだとしたら、確実に私たちを私たちを殺すことはできたはず。


 あいつは、敵なのか? それとも……。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

応援よろしくお願いしますっ!!

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