第52話 パッチと遭難!? 前編
遭難した。
山で遭難してしまった。
カイレカイレから南下するために踏み入れた山で、だ。
いや、遭難という表現は誤りかもしれない。
正確には、舗装された山道を延々と進み続けている、が正しい。
本来であれば徒歩でも昼前には下山を終えているはずなのに、もうすっかり夕方だ。
「お、おかしいですよフユリンさん!! 何度も何度も似たような道を登ったり降りたりぃ!! もう歩けませーん!!」
「歩いているのは馬だ。お前は跨っているだけだえろう」
振り返って荷車の方を向く。
フェイトは不安げな様子だが、ちょこんと正座しているアイセントは……無表情だ。
「まったく、どうなっているんだ」
「馬も疲れたって言ってますよーっっ!!」
どうだろう。
メンバーが増えて一匹で四人の体重を支えているわけだが、なーぜーか常に元気なんだよな、この黒馬。
私しかいなかった時期より体力もスピードも上がっている気がする。
そういえばこいつ、オスだったな。
女に囲まれてテンションが上がっているのか?
アイセントが本日始めての言葉を発した。
「一時間二九分後には日没。夜越しの準備の開始を提案」
「いや、その前にするべきはこの異常事態からの脱出だ。どう考えてもおかしい」
フェイトが口を挟む。
「太陽はちゃんと動いていますけど、周りの景色が変わっていません。ほら、あそこの木、枝がぐにゃっと曲がっているじゃないですか、あの木、何回も見ました」
となると答えは一つ。
私たちは、同じ場所をループしている。
十中八九、結界型の魔法だ。一定範囲から出ようとすると、結界の壁に当たるのではなく反対側まで強制転移させられるタイプ。
「フユリンさんっ!! いっそ道を逸れて森に突っ込みましょう!! みんなが歩むような舗装された道を抜け、自分だけの道を進むんですぅ!!」
「立派なこと言ったつもりか。結界に囲まれている以上、意味はない」
「しょんな〜!! 私、ここで死ぬなんて嫌ですぅ!! 家族に囲まれながら天使さんたちに天国まで連れて行ってもらう死に方が理想なんでよぉ!!」
頼むから地獄に落ちてくれ。
とはいえどうする。結界を打ち破るにしても、情報が少なすぎる。
「ん?」
誰かが木々の陰から出てきた。
長い金髪、赤いミニスカに、白衣。
「ぬぬっ!! お前たちはフユリン!!」
「総じてフユリンと呼ぶな。パッチ」
「ノンノン。Dr.パッチ・サンダンスJr三世だーーっ!!」
なんでこいつがここに。
白衣も泥だらけだし。
「まさか、お前の仕業か? この結界」
「ふっふっふ、実は私も出られなくて困っているのだーーっ!!」
「……」
「かれこれ三日はこの山にいるッッ!!」
ラミュが馬から降りてパッチに詰め寄った。
次のセリフを予言してみせよう。
やいやいやい、あなたがループの犯人なんですねぇ!! この私の目はごまかせませんよぉチクショウ!!
「やいやいやいやい、あなたがループの犯人なんですねぇ!! この私の目はごまかせませんよぉチクショウ!!」
くそ、『やい』が一つ多かったか。
「話を聞いていなかったのか。パッチも被害者だ」
パッチの視線が荷車の方へ移った。
「むっ、この前の悪役令嬢!!」
「ど、どうも」
「ぬ〜、残念ながらまだ脂肪吸引魔法は完成していないのだ。天才でも難しいのだ」
「今後ともよろしくお願いします」
自分でダイエットをする努力をしろ。
「それと……おぉ!! まさかまさかGB-78X!! なんとなんと、お爺様特性の戦闘型じゃあないかい!!!!」
そういえば、イヤルテを作ったのはこいつだったな。
アイセントはパッチの祖父が製造していたのか。
天才の血筋、というわけか。
「現在はアイセントと呼称されている」
「お〜い!! 私はお前の生みの親の孫だぞッ!! 敬語で敬え〜い!!」
「ビリー様からは令嬢にのみ敬意を示せと命令されている」
「なるほど!! じゃあしょうがないな!!」
思い返してみると、確かにアイセントはフェイトにのみ敬語を使っている。
私やラミュには最低限のワードだけだ。
別に構わないが。
「あっはっは!! ずいぶん愉快なパーティーになったものだっ!! 私のライバルに相応しいっ!!!!」
いつライバルになったんだか。
ていうかこいつ、声だけでなく動作も煩いから、さっきからミニスカートが揺れに揺れてその度に心臓がギョッとする。
だってあの赤いミニスカの奥には、その……こいつのジュニアがあるわけだろう?
もう少し隠す努力をしてほしい。それかせめて最初からフルチンでいろ。
そっちの方がまだ気が楽だ。
「そんなことよりパッチ、なんでここにいるんだ。何しに来た」
「研究所で宇宙消滅爆弾の実験をしていたら、失敗してここまでぶっ飛んでしまったのである!!」
「なんちゅー実験をしているんだお前は。何の得があるそんなもん」
「宇宙を消滅したくなったとき、便利だろ?」
食用油を捨てるような気軽さで宇宙を消滅させるな。
まぁとにかく、こいつが現れたのは幸運ではある。
ラミュと同じで鬱陶しいやつだが、魔法の知識はピカイチだ。
きっと頼りになるはず。
そうこうしているうちに、空はすっかり薄暗くなってきた。
腹も減ってきたな。
と自分の腹部を擦っていると、
「パッチくーん」
槍を持った茶髪の女が、現れた。
反対の手で、イノシシの死体を引きずっている。
「ん? パッチくん、どちら様?」
「パッチくんと呼ぶな!! 私は女の子だ!!」
「はいはい」
「フユリンたちは私のライバルなのだっ!!」
「フユリン? ライバル?」
いろいろ端折りすぎだろ。
女は『とりあえず』といった具合に、軽く頭を下げた。
「こんにちはライバルさん。私はラマリア。パッチくんの助手です」




