第50話 黒野はやて
「私は、なるべく避けていたの。魔女たちの争いに。だから、すべてを知っているわけではないのよ」
老婆ティアの発言にフェイトは、空になったカップをギュッと握った。
すべては、魔女同士の揉め事からはじまった。
悪役令嬢協会を変えるためには、その魔女たちをどうにかしないといけない。
どこにいるかもわからない、魔女たちを。
そのうえ、マリアンヌが死んだことで協会は復讐に躍り出るだろう。
旅は、どんどん険しくなる。
「魔女たちの居場所は、ご存知ですか?」
「知らないわ。たまに会いに来てくれるけど。もし会えたらあなたのことは紹介しておくわ。なんて伝えればいいかしら」
「私はフェイト。いや、本名は『黒野はやて』。カトレアさんと同じ世界から来た者です」
「はやてちゃん」
「そして、悪役令嬢たちの時代を終わらせる者……だと」
「わかった、そう伝えておくわ。あぁ、そうだ」
ティアは立ち上がると、ポケットから銀の指輪を取り出した。
それにチェーンを通して、フェイトに渡す。
指輪には、鳩の紋様が刻まれていた。
「これは?」
「魔法の伝書鳩を封じた指輪よ。何かあったら、これを使って手紙を送ってちょうだい」
「ありがとうございます」
あと、何か聞いておくことはあるだろうか。
疑問が多すぎて一つに絞れない。
このままでは何日もかかってしまいそうだ。
「そういえば、ティアさん」
「ん?」
「あなたの人生、様々な男性と恋をしたはずです。結局、誰と結婚したんですか?」
「…………」
「私の予想では海の番人シーザーさんなんですけど」
というか、願望であった。
海の番人シーザーは肌が焼けたワイルドな男。
口数は少なくクールな性格だった。
フェイトは前世の世界にて、真っ先にシーザーのCGをすべて回収するほど愛着をもっていた。
「ふふ、結婚はしていないの」
「え!?」
「強いて誰を愛したのか挙げるなら……カトレアかしらね」
「カトレアさん!?」
「お互い違う道を歩むことにしたけれど、ね」
遠くを見つめるように、ティアはそう答えた。
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フェイトは小屋に戻り、フユリンたちと合流した。
どこまで話せばいいのだろう。そもそも話していいのだろうか。
いや、話すべきだ。
フユリンは恩人で、戦いの渦中にいる人間。
きっと、ちゃんと聞いてくれる。
「フユリンさん、ちょっといいですか?」
彼女だけを外に呼び出し、フェイトは語った。
自分が知る、すべてを。
「なるほど、魔女が一枚も二枚も噛んでいたわけか」
「はい」
「かつて私に魔法を教えた第三位の魔女が、『このままで良いのに』と不満を漏らしていたのだが、言葉の意味が理解できたよ」
フユリンの話が本当であれば、第三位はおそらく保守派。
味方側である。
「魔女たちの代理戦争、か。くだらない」
「信じてください!!」
「信じているよ。まぁ、結局私たちのすることは変わらない」
「へ?」
「アイセントの望み通り、第五位の魔女を潰す。そして、悪役令嬢協会もぶっ飛ばす」
その過程で他の魔女たちが邪魔をするのであれば、同様にぶっ飛ばす。
真相なんぞ、そのときついでに聞けばいい。
「そ、そうですね。いまは深く考えてここに止まっているわけにもいかないですし」
「そういうことだ」
「うぅ……」
「なんだ?」
「私、本当に世界を変えられるんでしょうか。たいしたこともしていないし、なんだか話も壮大になってきて」
「おいおい、いつもみたいに頑固で意地っ張りで猪突猛進なお前はどうした。まったく、メンタルが強いんだか弱いんだか」
実際、フェイトは目的に対して何の成果も出していないのだから、しかたない。
フェイトががっくり落ち込んでいると、フユリンが手を伸ばした。
フェイトの桃色の頭を、優しく撫でる。
「何もできていないなら、これからすればいいだけだ。焦ってもしょうがない」
「フユリンさん……」
「少なくとも、お前のおかけでいろいろ助かっている。マリアンヌに勝てたのも、フェイトがいたからだ。安心しろ、お前ならいずれ世界を変えられると、私は信じているよ」
ドクン、とフェイトの心臓が跳ねた。
フユリンはこういうところがある。
普段は冷たくて無愛想なクセに、ここぞという場面で優しさを見せてくる。
ちょっと、反則である。
「ありがとうございます。ところで、ビックリしないんですか? この世界は作られたものだと知って」
「ん? いや、だって同じだろ」
「同じ?」
「もともと、私が習った宗教では、世界は創造神オーノマキが創ったことになっている。それと同じだ。本当に創造神がいました、てだけにすぎない。まぁ、フェイトが以前生きていた世界の住人に作られていたのは、ビックリしたがな」
「…………」
「もしかしたら、お前の前世の世界も、誰かに創られたのかもな」
本当に、フユリンはブレない。
まったく動揺すらしていない。
逆にフェイトの方が呆けてしまったくらいだ。
「さ、宿を探そう。いつまでも他人の家にはいられない。明日には旅を再開するぞ。姉さんのいるクイラ国に向けて。とりあえず南下するか。寒いのはもうこりごりだ」
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※あとがき
次回から更新頻度が減ると思います!!




