第46話 フユリンvsマリアンヌ
私の眼の前にマリアンヌがいる。
ずっと、ずっと捜し続けていた女が。
私から姉さんと両親を奪った、悪魔が。
「お前を、潰す。マリアンヌッッ!!」
「愚かなものですわねえ。おとなしく野垂れ死んでいたほうが幸福でしたのに」
空に浮かんでいたマリアンヌが雪の上に降りた。
周りには誰もいない。正真正銘、一対一。
バインドの拘束が、また消える。
なんだこいつ、どんな魔法を使っているんだ。
「関係ないッッ!! クロックアップ!!」
加速して接近する。
あいつの頬をぶん殴ってやろうと拳を握る。
だが、
「なっ!?」
私の両足が、地面から離れた。
5cm、20cm、1mと、重力に反発していく。
「くそっ!!」
足が踏ん張れないんじゃ前に進めない。
これ以上あいつに近づけない。
マリアンヌの『浮く』魔法は、自分以外も対象にできるのか。
「推察するに、あなたが噂の悪役令嬢ハンターなのですわね。人格が乗っ取られたフェイトと旅をして、反悪役令嬢勢力に加担したと」
「ホーリー」
「黙りなさい」
今度はものすごい勢いで地面に叩きつけられた。
雪のクッションがなければ、気を失っていたかもしれない。
すごい力だ。
まるで土の中から無数の手が出て、私の肉体を引っ張っているかのよう。
これじゃあ、魔法で狙い撃つことができない。
「じゅ、重力か……」
「わたくしは天に、家畜は地に。なんてわたくしにピッタリな魔法なのでしょう!! おーっほっほ!!」
「ちっ!!」
「あなたが悪役令嬢ハンターなら、おそらく対象をゴブリンにする魔法が使えるはず。しかしそれをわたくしに使ってこないのは、発動条件があるから、ですわよね?」
さすがは悪役令嬢のトップ。
一筋縄ではいかない。
だが、活路はある!!
「パニッシュメント・エレクトリック!!」
バインドを媒介しないエレクトリックは、私を中心に電撃を放出する効果になる。
この距離なら、マリアンヌも痺れるはず。
「リバディ・クリア!!」
電撃が消滅した。
一瞬にして。
同時に、私の体が自由を取り戻す。
「やはり、クリアと重力操作の魔法は両立できないようだな」
「それがわかって何になりますのぉ? リバディ・グラビティ!!」
「ホーリーフラッシュ!!」
光魔法で周囲を眩く照らす。
マリアンヌが目を閉じた。
これでは私を対象に取れないだろうよ。
「くっ!!」
「クロックアップ!!」
さらに加速して、マリアンヌの視界と状況把握能力が正常に戻る前に、
「バインド!!」
拘束して、
「エレクトリックッッ!!」
電撃を浴びせた。
「ぎゃああああああ!!!!」
ついにマリアンヌが絶叫を上げた。
まだ終わらせない、徹底的に痛めつけてやる。
私の怒りは、こんなものじゃ収まりはしないのだ。
「マリアンヌゥゥゥ!!」
やつの頬を殴る。
胸を蹴る。
背中から倒れたマリアンヌの腹を踏みつける。
「恐怖しろ、私に恐怖しろ!!」
「くく、くくく」
もう一度蹴ろうとした、そのとき、
「リバティ・プッシュオールザディザスター!!」
「ッッ!!」
私の全身に強烈な痛みが走った。
焼けるような、痺れるような、内臓が暴れまわっているような、耐え難い痛み。
立っていられない。
思わず膝をつくと、代わりにマリアンヌが立ち上がった。
余裕に満ちた表情で、勝ち誇った眼差しで。
バインドの拘束が、消える。
「クリアは、魔法を無効にする魔法。グラビティは重力操作。……そしていま使ったのは、災難の押し付け」
「ま、まさか……」
「わたくしへのダメージを、丸ごとあなたに押し付けたのですわ〜!!」
無敵か、こいつは。
まずい、私の本能が後ろ向きになりつつある。
悪役令嬢を倒し、怯えさせるはずの私が、逆に恐怖しかけている。
「わたくしをここまで追い詰めるとは……いいえ、わたくしに痛みを与えるなんて、あなたが初めてでしたわよ、天晴ですわねえ」
「バカに……するな……」
「もう少し、もう少しわたくしを恐れてくれたら、トドメの魔法が使えますのに」
「お前も、魔女と契約しているのか」
「虫けらには関係ない話ですわ〜!! そうだ、あれをやりましょう」
マリアンヌが手を天に掲げる。
「リバティ・グラビティ」
なんだ、何を対象にしたのだ。
私の身には変化がない。マリアンヌもだ。
ならば、なにを……。
「空をご覧なさい」
視線を上げる。
雲に大きな穴が空いている。
何かが、何かが落下している。
「隕石ですわ〜〜!! この街ごと、チリと化しなさいな〜〜!!」




