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第44話 ラブレスィブ⑩ 雪を溶かす熱

 その後の顛末を語るなら、呪いは消滅しなかった。

 いや、完全消滅はしていない、と表現するのが正しいか。


 残滓が、ラブレスィブの肉体に残り続けているのだ。

 とはいえ所詮は残りカス。

 ラブレスィブの体調はみるみる回復し、走り回ったりはできないまでも、元気に笑うくらいならできるようになった。


 依然として車椅子生活だが、いずれは己の足で歩けるようになるだろう。


「ありがとう、みなさん」


「レスィちゃん。その呪いは負の感情が栄養源になっちゃうの。だから、毎日たくさん笑っていれば、進行を抑えることができるはず」


「うん、わかった!!」


 これにて一件落着、にはならない。

 街の人々は何人か死んでしまったし、アイセントの罪も明らかとなった。


 ラブレスィブ共々、深々と頭を下げて謝罪をしたが、そう簡単に怒りは収まらない。


 こうなっては、街も機能しなくなるだろう。


 なので、とメディスンが告げる。


「この街は僕の一族が統治することにした。既に(ふみ)は出してある。どのみち、前々からこの辺りの鉱山に目をつけていたからね」


 メディスンの本家は同じ国の中にある。

 こいつ、はじめからそのつもりだったんじゃなかろうか。


 ラブレスィブは、新しい統治者の元、『病に冒された客人』として屋敷に残ることになるらしい。

 まぁ、メディスンの一族が抱える優秀な医者が面倒を見るようなので、そっちの方がいいのかもしれない。


 さて、肝心のアイセントだが、


「ご主人様、本当に申し訳ございませんでした」


「いいの。もういいのよアイセント。私が不甲斐ないのが悪かったのだから」


 とはいえ、とイヤルテが告げる。


「街の連中は相当私らを憎んでる。とくに、実際にみんなを痛めつけていたお前は……しばらく屋敷にもいられないかもしれねえ」


「承知。なので、魔女の討伐へ向かう」


「え!?」


「序列第五位の魔女を倒し、呪いを完全消滅させる」


 アイセントが私を見つめた。


「協力を所望」


「は? まさか私の仲間になるつもりじゃないだろうな」


「強い仲間を集めろと発言したのは、あなた」


「ふざけるな。私の目的は悪役令嬢だ。魔女など知らん」


 ラミュが飛び出してきた。


「良いじゃーー」


「黙れ」


「はいっ!!」


 フェイトも飛び出してきた。


「フユリンさん、どうか」


「嫌だ」


「うぅ……」


 しまいには、メディスンまでも。


「僕としても、お願いしたいな。君たちの戦力向上に繋がる」


「知るか」


「おやおや、今回の件で僕に恩があるはずなんだがな。僕の部下も三名亡くなっているし」


「その割にはまったく悲しんでいないようだが?」


「悲しんでいるさ」


「こいつ……」


 勘弁してくれ。

 私は群れるのが嫌いなんだ。

 フェイトは記憶と魔法が役に立つから、同行を許しているだけにすぎない。

 ラミュだって…………うん。


「アイセント、私は悪役令嬢の敵だ。世界の敵だ。わかっているのか?」


「もちろん。ご主人様の呪いを消すためなら、構わない」


「まったく……」


 アイセントがラブレスィブの方を向き直す。

 ラブレスィブがアイセントを抱き寄せる。


「大好きだよ、アイセント」


「必ず、帰還します」


 おいおい、勝手に話を進めるな。


「それまで、私もどうにか街の人に許してもらえるよう、頑張るから」


「いずれ、ラブレスィブ様がメディスン様と婚約される前には、必ず呪いを打ち払います」


「まぁ!!」


 ラブレスィブが頬を赤くした。

 チラチラと、メディスンに視線を送っている。

 当のいけすかない男は、何を考えているのかわからない笑顔を浮かべているが。


 私の視線に気づいたのか、メディスンが話しかけてきた。


「ところでフユリン、君たちはこれからどこへ向かうつもりだい?」


「カイレカイレだ。ティアという女に用がある。もしかすれば、マリアンヌと鉢合わせになるかもしれない」


「なるほど、噂通りだ」


「噂?」


「マリアンヌが、大勢の護衛兵と共にこの辺りの地方を目指しているという情報が手に入ったのだよ。なるほど、カイレカイレか」


 心臓が止まるような寒気が走った。

 マリアンヌが、同じ大陸にいる。同じ国にいる。

 カイレカイレで、会えるかもしれない。


「では、僕たちは一足先に向かうとしよう。僕らは全員馬に乗っているからね、荷車付きの君たちよりは、速い」


 そう告げて、メディスンとその護衛兵たちは去っていった。

 遅れてはいられない。私も早々に出発せねば。


「おい」


 今度はイヤルテが話しかけてくる。


「なんだ」


「もし、旅の途中で私を作ったやつに出会ったら、伝えてほしいことがある」


「は?」


「私を女型として作ったなら、余計なモンつけるな。ってな」


「誰だ、制作者は」


「パッチ。パッチ・サンダンス」


 あいつか……。

 世界は案外狭いものだ。

 あれ、待てよ。こいついま何て言った?


 女型として、余計なモンを……。

 まさか、あいつと一緒でこいつは……。


 やめよう、深く考えるのは。


「あと、ありがとよ、いろいろ。怒鳴ったりして悪かった」


「気にするな。……さぁ、私たちも出発するぞ」


 ラミュと共に愛馬に跨る。

 荷車にはフェイト。


「ん?」


 雪が降ってきた。

 まいったな。


 アイセントがラブレスィブから離れた。


「では、行って参ります」


「……行ってらっしゃい」


 本当についてくるつもりか、こいつ。

 まぁ、アイセントはどっかの青いアホとは違って寡黙だし、耳障りになることはないが。


「アイセント!!」


 最後に、ラブレスィブが叫んだ。


「愛してる」


 雪がアイセントの鼻先に触れた。

 魔法人形の情の熱に溶かされて、滴り落ちていく。


「私もです、ご主人様」


 なんだアイセントのやつ、ずいぶん人間らしく笑うじゃないか。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

ラブレスィブ編終わりです!!

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