第41話 ラブレスィブ⑦ 皮肉
ラブレスィブのお涙頂戴話が真実なのか確かめるため、私は彼女の屋敷に忍び込むことにした。
結界に魔法の細工を施したので、バレることはないだろう。
で、端的に説明するなら、バレていた。
月が雲に隠れた夜、門番の目を掻い潜り、屋敷の敷地内に入った瞬間、アイセントが中庭に現れた。
「侵入者発見……排除措置を執行」
さっそく刀を抜き、構えた。
参ったな、正直舐めていた。
「ひとつ、質問をしていいか?」
「?」
「魔女は不老不死だ。呪いをかけた序列第五位の魔女はまだ生きている。なぜ倒しにいかない」
「矛盾。不老不死は倒せない」
「ボコボコにして泣かせることはできる。呪いを解くよう命令すればいい」
「困難、理想論」
「そうかな。私なら序列四位以上の魔女と契約し、何を引き換えにしても力を得るが」
「…………」
「そうでなくても、何が何でも捜しだして跪かせる。命に変えてもな。……まあ、理想論なのは否定しないが、お前だって考えたことくらいあるんだろう?」
アイセントが突っ込んできた。
問答無用か。
今回の件、なにもラブレスィブをゴブリンにする必要などない。
実際に民を苦しめているアイセントをぶっ壊せば済む話だ。
しかしーー。
「バインド」
拘束するが、すぐに引き千切られてしまった。
やはり、正式な悪役令嬢の関係者ではないから威力が落ちるか。
アイセントの剣筋をかわしながら、言葉を続ける。
「お前は強い。イヤルテと共に仲間を集めて討伐しに行かなかったのか? 屋敷のことは、適当な魔法人形たちに任せておけばいいだろう」
「イヤルテは、医師を兼ねている。離れられない」
「なら、お前は?」
「私は……」
アイセントの動きが止まった。
瞬間、屋敷の裏手の方からガラスの割れる音がした。
侵入者か? いや、結界がある以上それはありえないはずだが。
アイセントが走り出す。
私も気になって後を追おうとしたとき、
「フユリンさん!!」
ラミュとフェイトがやってきた。
「なんだお前たち」
息を切らしながら、フェイトが訴えかける。
「思い出したんです、呪いの正体」
「そんなこと、あとにしろ」
「え!?」
改めて裏手に回る。
アイセントもそこにいた。
「おいおい」
地面に掘られた、大きな穴があった。
「結界はドーム状。地下には貼られていない。だから穴を掘ったのか。しかし、いったい誰が……」
そんなの、決まっている。
視線を上げると、二階に設置されている窓ガラスが割れていた。
側にはハシゴが立てかけられているし、あそこから侵入したに違いない。
「ご主人様」
アイセントは高く跳躍すると、割れた窓から屋敷に入った。
私たちもハシゴを利用し、屋敷内に侵入する。
すでにアイセントはいなかった。
先を急いだか。あいつは速いからな。
床にある複数の足跡を目印に、走る。
「な、何事なんですかこれぇ!? フユリンさんの仕業ですか!?」
「違う、私ではない」
「え? じゃあ誰が……」
「そんなの、ラブレスィブに恨みを持つ連中しかいないだろ」
人だかりが見えてきた。
薄汚れた屈強な男が一〇名、いや一五名近くはいるか。
すでに警備の下級魔法人形に取り押さえられていたが。
彼らの視線の先は、ラブレスィブの寝室。
そのラブレスィブはといえば、怯えた様子でアイセントの後ろに隠れていた。
「げげーっ!! あの人たちぃ!!」
「やはり、街の連中だったか」
床にクワやナイフが転がっているあたり、目的は暗殺か。
「悪役令嬢ラブレスィブ!! お前を殺して俺たちは街を出る!!」
「あ、悪役令嬢? 私が?」
「とぼけんじゃねえ!! そこのメイドを使って俺たちの金を奪いやがって!! もう我慢ならねえ、先代までは賢い領主だったが、お前はとんだ悪魔だ!!」
「アイセント……これは、どういうことなの?」
アイセントはなにも答えない。
代わりに、フェイトがラブレスィブの下に駆け寄った。
「みなさん落ち着いてください。これ以上の言い争いは、お互いのためになりません!!」
「フェイトちゃん……」
「レスィちゃん、よく聞いて、どうして呪いがどんどん強まっていったのか、答えがわかったの」
そういえばそんなこと言っていたな。
魔女が掛けたとされる呪い。
あらゆる生命に死をもたらす呪いで、ラブレスィブの一族がその身に封印しているという。
「呪いは、負の感情を栄養源にしている。レスィちゃんのお母さんやおじいさん、果ては『この街にいる人々』の悲しみや怒りを取り込んでいるから、強まっているの。……かつてカトレアとティアが払った呪いも、第五位の魔女が掛けたものだった。もし同じ呪いなら、きっとそう!!」
負の感情、怒りや悲しみを取り込んでいる?
おい、待て。
フェイト、それはこのタイミングで明かしちゃいけない真実だ。
少なくとも、あいつの前では。
「だからみんな、一旦落ち着いてください。きっと解決法も導き出せるはずです」
「ふざけんじゃねえ!! 呪いなんか知るか!!」
「だ、だから、いまは怒りを収めてください」
「呪われているからって俺たちの財産を奪っていい理由にはならねえだろ!!」
そりゃそうだ。
正直、彼らからしたら遠方に引っ越してしまえば本当に関係のない話になる。
ラブレスィブがアイセントの腕を掴む。
「アイセント、どういうこと? なんであの人たちのお金を取ったの?」
「…………」
「まさか、私が毎日飲んでいるお薬って……」
見ていられないな。
私はアイセントに近づき、肩を叩いてやった。
「いまは何も考えるな」
「…………私の」
「おい」
「私の、せい」
「だから、何も……えっ」
目の錯覚かと思った。
光の反射のせいかとも。
「お前、泣いているのか」
「ラブレスィブ様を苦しめていたのは、私。わたしのせいで、ラブレスィブ様が」
愛する主人のために街の人たちを悲しませてきた。
だがそれが、余計に主人を苦しめる原因となっていた。
あまりにも、残酷すぎる皮肉だ。
「私が……」
「落ち着けアイセント!!」
「離れ、たくない。これ以上、ご主人様を失うのは……」
側にいたい。
だからこいつは、魔女を倒しに行こうとしなかった。
愛する主人を、近くで守り続けていたいから。
そのとき、
「うぅ!!」
ラブレスィブが悶えだし、胸のあたりが紫色に光りだした。
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※あとがき
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