第38話 ラブレスィブ④ 血の秘密
赤髪のメイド、イヤルテに連れられて、私は食堂を抜け出した。
「わかってると思うが、ラブレスィブ様は何も知らねえ。外の世界のことも、ましてや、悪役令嬢協会なんてもんもな」
「ずいぶん箱入りなんだな」
「知ってほしくねえんだよ。んな暗いこと。……それより、お前たちは何者なんだ。目的はなんだ。本当にただ、メディスンの護衛として旅をしてるだけなのか?」
「もちろん」
イヤルテが舌打ちをした。
どうやら私は嘘が下手なようだ。
というか、最初からそうではないと勘づいているのだろう。
「何故ラブレスィブは悪役令嬢と呼ばれている。何故街の人を苦しめる」
「こっちには正直に話せってか」
「……わかった。私は悪役令嬢を潰す旅をしている。マリアンヌを捜しながらな」
「マリアンヌ?」
お前も知らないのかよ。
「そんな名前聞いたこともないが、とにかく、ラブレスィブ様は何も悪くない。そりゃ街の連中には負担をかけているが、私は、私とアイセントは、あの人に死んでほしくないんだ」
「要領を得ないな」
「あの人には、いや、この家の領主の血には呪いが掛けられている。序列第五位の魔女の呪いだ」
序列五位の魔女。
確かラミュの家を支配していた、クロードの師だったか。
イヤルテが語りだす。
一〇〇年前、一人の魔女がこの街に呪いを振り撒いた。
人の恐怖を喰らい、増大し、あらゆる生命を死滅させる呪いの化け物。
放っておけば、街の外まで被害が及ぶはず。
当時の領主は人々を守るため、己の体に呪いを封じ込めたのだ。
代が変わるとき、新しい領主に呪いを移す。
その度に、呪いの力は強まっていった。
「はじめは軽い虚弱体質になる程度だったんだ。けど、先代の、ラブレスィブ様の母上の頃には、重い病のように体を蝕むようになった。そしていまは……」
「その割には、元気そうだが?」
「高い薬と、あんたらのおかげさ。客人なんて、滅多に来ないから無理してはしゃいでいるのさ」
高い薬。
なるほど、厳しい税収はそれに使われているわけか。
どうりで料理が質素なわけだ。
「つまりお前たちは、主人の薬代のために悪政を敷いて、悪役令嬢ラブレスィブという幻想を生み出したわけか」
「私たちはなにも、人を殺しているわけじゃない。貧しいが、みんなちゃんと生きれている」
「力で屈服させてな」
「てめぇ!!」
胸ぐらを掴まれた。
事実を口にしただけなのだが。
いっそ本当に悪役令嬢協会に入ってしまえば、支援金でどうにかなるだろうし、呪いを解いてくれるかもしれない。
だがそうしないのは、ラブレスィブに外の世界の醜さを知ってほしくないからだろう。
まぁ、そもそも彼女の純粋な性格では悪役令嬢にはなれないだろうが。
「たった一人の少女のために、みんな苦しんでいる。引っ越すことすら許さない。街の人間たちは、ラブレスィブのためだけに生きているわけじゃない。確かに災難ではあるが、お前が逆の立場なら納得できるか?」
「じゃあどうすりゃいいってんだよ!!」
「私なら呪いを断ち切る。除呪魔法の使い手を捜すなり、呪いをかけた魔女を殺すなり」
「綺麗事だろ。簡単に言いやがって」
「そりゃ大変だろうな、圧力で金を巻き上げるよりは」
「ぶっ殺す!!」
イヤルテの拳に力が入る。
その気なら、やってやる。
そう覚悟した瞬間、
「レスィちゃん!!」
食堂からフェイトの声が聞こえてきた。
何事かとイヤルテと共に食堂へ戻ると、ラブレスィブが車椅子から落ちて床に伏していた。
白髪のメイド、アイセントが彼女の上半身を起こす。
明らかに、体調を崩し悶えている表情だった。
「体温計測開始……37.5℃……イヤルテ」
「あぁ、私が寝室に連れて行く」
イヤルテがアイセントから主人を受け取った。
魔法人形だからか、軽々とラブレスィブを抱きかかえると、こちらを睨み、
「そんなにこの人を殺したいのかよ」
と私に捨て台詞を吐いて、去っていった。
残されたアイセントが、無機質な顔で告げる。
「申し訳ありませんが、お引き取り願います」
「話はイヤルテから聞いた。だが納得はしていない」
「存じております。私の耳は常人より優れていますので」
「なら、私がすることもわかっているだろう」
「お引き取り願えないのであれば、ここから先は……外敵として処理を執行」
とか抜かす割には、相変わらず瞳は何も映さない。
怒りも、苛立ちも。
イヤルテとはえらい違いだ。
メディスンが口を挟む。
「僕の名を使って入った以上、下手に手荒な真似をされては困るな。家の名に傷がつく」
「……ちっ」
これ以上、こいつに貸しを作るのは癪だ。
しょうがなく、私たちは屋敷をあとにした。
ラブレスィブの母はおそらく亡くなっている。
なら父は? 屋敷には、あれ以上誰もいない様子だったが。
まぁ、私には…………関係のないことだ。
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※あとがき
レスィちゃん編、まだまだ続きます。
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