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第36話 ラブレスィブ② 人形とリーダー

 謎の白髪メイドのアイセントがバインドの拘束を破壊した。

 他の連中にも使用していて、強度が落ちたせいか。


 アイセントが突っ込んでくる。

 刀を振り回す彼女に、私は身を翻すだけで精一杯だ。


 こいつ、強い。


「アレ、やるしかないか。……メタモルフォーゼ!!」


 変えるのはアイセントではない、私自身だ。

 メタモルフォーゼの発動条件は『恐怖』。そしていま、私はこいつに恐怖している。

 つまり対象は私。


 私の右腕だけを、ゴーレムに変化させる。

 岩のように太く硬くなった腕で、刀を受け止める。


 さらに左手に魔力をためて、


「ホーリースパーク!!」


 上級の光魔法のビームを発射した。

 アイセントが吹っ飛ぶ。


「損傷率……35%」


 一気にケリをつける。

 体よ、持ってくれ。


「クロックアップ!!」


 心臓に負担をかけながら加速して、接近。

 ゴーレム化した腕で、地面に押しつぶすように振り下ろす。


「もう一度、ホーリースパーク!!」


 そこで加速が終了し、距離をとった。

 アイセントは……目を開いたまま、無表情でピクピクしている。


 血は流れていない。


「損傷率……80%」


 私も膝をついてしまった。

 大幅な魔力の消費と身体的疲労が合いなって、正直これ以上は戦えない。


 さらに疲れのせいか、他の連中を捉えているバインドが消滅した。


 赤髪のメイド、イヤルテが、アイセントに駆け寄る。


「アイセント!! おい、大丈夫か!?」


「自動修復開始。活動再開まであと一九分二四秒」


「くそ、一旦帰るぞ」


 騎士たちがアイセントを抱える。

 イヤルテはこちらを睨んだのち、走り去っていった。


「「フユリンさん!!」」


 ラミュとフェイトが近寄ってきた。


「だだだた、大丈夫ですかぁ!?」


「ごめんなさい、私が手助けできていれば……」


「気にするなフェイト。お前は自分とラミュの身を守ることだけを考えていればいい」


 それにしても、あいつら、何者だ。

 いや、正体はわかっている。疑問なのはやつらを使役している悪役令嬢、ラブレスィブだ。


 あれほどの数の……。


「フユリンさん腕!! 元に戻るんですかぁ!?」


「ん? あぁ、あとで解除の魔法をかける」


「それにしてもとんでもない連中でしたねぇ!! とくにあの白髪のメイド!! 人形みたいに不気味でしたよっ!!」


「実際、人形だからな」


「へ?」


「おそらく、自立型魔法人形だ。あのイヤルテもだろう」


「そうなんですかーっ!? き、騎士たちは人間なんですよね?」


「いや、あいつらもだ。よくみればわかるが、騎士たちは全員顔が同じだった。イヤルテやアイセントより性能が劣る、量産型だろう」


「気づかなかったですぅ」


 フェイトが質問してくる。


「魔法で作られた人形……ラブレスィブさんが作って操っているのでしょうか」


「たぶんな。まったく、今回はゴブリン軍団より厳しい戦いになりそうだ」


 とにかく、いまは休養を取ろう。

 すぐに奴らが攻めてくるかもしれない。


 フェイトの肩を借りて立ち上がる。

 先ほどの宿へ向かおうとしたとき、


「ん?」


 馬に乗った集団が、街の入り口から走ってきた。

 一〇人程度だろうか、鎧を身にまとっている。


 リーダー格であろう黒髪の男が、私を見るなり馬から降りた。


「おや、すでに一悶着あったようだね」


「誰だ、キサマ」


「僕はメディスン。反悪役令嬢勢力(ヴァクシンズ)を指揮している」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 宿の部屋に入った私は、メタモルフォーゼを解除して腕を正常に戻した。


「で、私に何のようだ」


 ラミュとフェイトの間で不敵な笑みを浮かべている男に問いかける。

 こいつの部下たちは外だ。


「単刀直入に聞こう。僕たちの仲間にならないか?」


「断る。群れるのは嫌いだ」


「群れるは嫌い、か」


 男、メディスンがフェイトを見やった。

 フェイトはすっかり怯えていて、二人を遮るようにラミュが割って入る。

 あぁ、フェイトは殺されかけたんだったな、ヴァクシンズに。


「そう身構えないでくれ。何もしないよ。コーロくんの件は済まなかったね。彼の独断だったんだ」


「…………」


 今度は私から問う。


「なぜ私たちの居場所がわかった。なぜ私たちを知っている」


「僕らの組織の人間は、案外いろんなところにいる。豪華客船なんて目立つ乗り物で移動すれば、すぐにわかるよ」


「二つ目の問いにも答えてもらおう」


「同じことさ。君の活躍が、部下の目から僕の耳に届いた、それだけだよ」


「協力を拒んだら、私たちを協会に突き出すつもりじゃないだろうな」


「しないよ。僕らの目的は同じだ。利害が一致している以上、無下にはしない」


 ラミュが私に向けて首を傾げている。

 仲間になった方がお得じゃないですかぁ?

 とでも言いたげな顔だ。


 そんなことはわかっている。

 だが私は、組織というものが、人というものが根本的に嫌いだ。

 ラミュのようなアホやフェイトのような真っ直ぐな性格ならまだしも、普通の人間は平気で嘘をつき、利用する。


 私の経験がそう告げている。


「返答は変わらん。私には私のやり方がある」


「そうか。まぁ、大方予想通りではある。今回君に会いにきたのは勧誘のためでもあるが、挨拶をしておきたかっただけだのだよ。言っただろう? 僕らの利害は一致している。お互い、利用し合う間柄になろう」


「勝手にやってろ」


「ラブレスィブに合わせようか?」


「なに!?」


「僕は貴族だ。客人として、堂々と屋敷に入ることができる。不法侵入は考えない方がいい。ここの屋敷は高度な結界魔法で守られているうえ、入れば無数の魔法人形が一斉に襲いかかってくる」


 よく知っているな。

 嘘である可能性は低い。

 結界魔法が掛けられているかどうかなんて、屋敷を一眼見ればすぐにわかることだからだ。


「会って、殺すのか?」


「いいや、協会にも属していない悪役令嬢なんて殺しても意味がないからね。僕はあくまで、協会を解体したいだけだ。例え僕が君のように、悪役令嬢なら何でも襲うようや人間なら、とっくにフェイト嬢を殺しているよ」


 そう、フェイトに対して笑ってみせた。

 こいつ、本当に私たちを仲間にする気があるのか。


 ラミュが手を上げた。


「はいはいはい!! ラブレスィブって協会に入ってないんですか!?」


「あぁ、おそらくな。カタログにも乗っていない」


「え、でも、最近悪役令嬢協会に入った新人かも知れませんよぉ? だってそのカタログ、私の名前も書いてあったんですよねぇ? きっと古いタイプなんですよぉ」


「だとしても、お前が追放されてから三ヶ月も経っていない。そんな短い期間で、豊かだったこの街を、こうも貧しい国に変えるのは、あまりにも速すぎる」


 もしずっと前から悪政を敷いていたのなら、もっと前から協会に入り、カタログに名前が載っているはずだ。


「へぇ、入ればいいのにぃ。毎月援助金とか貰えるし、入国審査無視でどんな国にも入りたい放題。ピンチになれば優秀な魔法使いや兵士を送ってくれたりして、いろいろ便利なのにぃ」


 確かに、妙ではある。

 メディスンが口を開く。


「客人として、一度会うのも悪くないだろう? 客なのだから、無条件で攻撃されることは……ないかもしれない」


 どのみち、それしかラブレスィブに接近する方法がないのなら、癪ではあるが力を借りるしかないか。


「良いだろう。さっそくお前を利用する」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

こういうとき、ラミュがいると便利だなぁって思います。

アホなのでバンバン質問してくれる。


応援よろしくおねがいしますっ!!

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