第35話 ラブレスィブ① 雪の街と白いメイド
雪だ。
雪が積もっていた。
カイレカイレに向けて山を越えてさらに北上していると、道中の芝の上に白い斑点が目立つようになっていった。
進めば進むほど斑点は大きくなり、やがては芝全体を覆う雪の絨毯へと変貌したのである。
「冷えてきましたね。ラミュちゃん、大丈夫?」
「なんのなんの!! 私は可愛いから風邪を引かないのですぅ!!」
「おぉ〜、凄いっ!!」
感心するな。
ラミュ程度の可愛いさで風邪を防げるなら、この世のすべての女性が風邪とは無縁だろう。
待て、今のは無し。
私はラミュより可愛いと豪語している風になってしまった。
私は別に可愛くない。
まだラミュの方がマシだ。
「フユリンさ〜ん、この先にある『ラブサドの街』でぇ、休みませんかぁ?」
「あぁ。大きな街だから宿もあるだろう」
「そこにも悪役令嬢がいたりして」
「いや、いない。カタログにも書いてある」
「へぇ、悪役令嬢がいない街なんてあるんですねぇ」
実は珍しくもない。
これまでは悪役令嬢に会うために、彼女たちがいる街にしか訪れていなかっただけだ。
当面の目的地である『カイレカイレ』にも、悪役令嬢は居住していない。
おそらく、寒い地域だからだろう。
私だって暮らすなら暖かい気候の土地がいい。
雪の街ラブサドに辿り着いた私たちは、さっそく宿を探すことにした。
寒さに震えるフェイトに、私のコートを貸してやる。
「ありがとうございます」
「気にするな」
「それより……この街、なんだか空気が悪いですね」
それは私も肌で感じていた。
男たちは働きもせず、ポロポロの厚着で雪の上に座り込み、酒を飲んでいる。
女や子供もいるが、頬が痩せこけていて、ジロッと私たちを睨んでいた。
「ラブサドは一年の半分以上が冬だ。寒さに強い野菜しか育てられないから、男たちは炭鉱や木こりになって生計を立てているはずなんだが」
「お休みの日なんでしょうか」
「どうだか」
そうこうしているうちに良さげな宿を発見し、中に入った。
店主に金を渡し、部屋を借りる。
「てっきり街全体が休みなのかと思ったが、開いていて助かった」
「休み? けっ、ちげーよ」
「?」
「自暴自棄になってんのさ。働けば働くほど、領主に持ってかれるからな。だから適当にその日暮らしの労働や博打だけして、あとは酒で飢えと寒さを凌いでんのさ」
「そんなに酷い領主なのか?」
「俺らを働く機械だと思っていやがる。そのくせ本人たちも贅沢はしねえ。意味わからねぇだろ? 人の心がねーんだよ。ただ漠然と労働力と生産性を把握して、しっかりとした計算の元、最低限町民が生きていけるだけの金と食料以外を没収すんのさ」
不思議な領主だ。
悪いやつ、という認識なのは間違いないだろうが。
「昔はそれなり豊かだったんだけどな」
「この街に悪役令嬢はいないのだろう?」
「はあ? なに言ってんだ。いるぞ」
情報と違うな。
「領主の屋敷に住んでいる一人娘、ラブレスィブ様だよ」
瞬間、
「わあ!! く、来るなあ!!」
外から声が聞こえてきた。
宿を出て様子を確かめてみると、数名の騎士たちが、一軒の家の前に集まっていた。
奥から騎士たちをかき分け、背の高い白髪の女が現れる。
メイド服を着用し、腰には剣を差して、手には大きめの麻袋が握られていた。
家の主であろう夫婦が、彼女の足に縋り付く。
「か、返してくれ!! 必死に貯めた貯金なんだ!! その金でよその町に引っ越そうと思っていたのに!!」
白髪のメイドが応える。
「町民の資産はすべて、こちらで管理している。四六歳男性、四〇歳女性、九歳男児が生存できる資金は残している」
感情を感じない、抑揚のない口調だった。
「制限を超えた資金は、条例に従い没収する」
「お前らが勝手に決めた条例だろ!!」
と、今度はラミュと同じくらい小柄な、赤髪の少女が家から現れた。
白髪同様、メイド服を着ている。
「諦めなおっさん。すべてはラブレスィブ様のためなんだよ」
白髪とは逆に、生意気そうな声だった。
「フユリンさん!! 止めましょう!!」
「そうだな。悪役令嬢がいるのなら話は変わってくる」
雪を踏みつけながら、メイドたちに接近する。
「そこまでだ」
「……データ照合不能。姿形から推測。旅人と認識」
「その通り。悪いが一瞬で終わらせる。パニッシュメント・バインド」
魔法の縄で彼女たちを拘束する。
騎士たちや赤髪の少女は捉えたが、白髪はヒラリとかわしてみせた。
赤髪が吠える。
「な、なんだこりゃ!! 動けねえ!! おいアイセント、あいつ相当な魔法使いだぞ」
「イヤルテ、待機を提案」
「動けねんじゃ待ってるしかねえよ。さっさとあいつを倒しちまえ」
「承知」
白髪ーーアイセントが剣を抜いた。
ただの剣じゃない。細く、刃が片側にしかない。
「刀ですフユリンさん!! 鋭い切れ味に注意してください」
フェイトが教えてくれた。
なるほど、カタナね。
よく切れるらしいがーー。
「私には関係ない。バインド」
魔法陣から魔法の縄が飛び出す。
アイセントは再度ヒラリと回避し、私に迫った。
「吹雪ノ太刀」
剣先をこちらに向けている。
突きの構えだ。
「しかも速いっ!! クロックアップ!!」
こちらも加速して応戦する。
よし、速さなら私の方が上だ。
距離をとって、今度こそバインドで拘束した。
「エレクトリック!!」
電撃を流したところで、加速の効果が切れる。
決着がついた、と思ったのだが、
「こいつ」
「損傷1%。自動修復完了」
ピンピンしている。
そのうえ、
「拘束魔法の強度確認。破壊可能」
「なに!?」
腕の力で、バインドを引きちぎったのだ。
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※あとがき
ラブレスィブ編、ちょっと長くなります。
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