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第32話 リンリン① 山の王

 フェイトの情報を頼りに、私たちは北西にある街『カイレカイレ』へと向かっていた。


「険しい山道ですねぇ、こりゃ。参っちまいますよ。左を向いても右を向いても木ばっかりですしぃ」


 後ろから私にしがみついているラミュが文句を垂れた。

 実際に歩いている馬、その手綱を引いている私、荷台に収まり激しい揺れで尻を痛めているフェイトに比べたら、一番快適だろうがお前が。


 今度はフェイトが話しかけてきた。


「滝の音が聞こえますね」


「あぁ、滝壺のあたりで少し休むか」


 音を頼りに獣道に入り、滝壺までたどり着いた。

 馬に水を飲ませつつ、小休止を取る。


 懐から、冊子を取り出した。

 悪役令嬢カタログだ。


「うーん。フェイト、少しいいか?」


「なんでしょう?」


「カタログによると、この辺りに悪役令嬢が住んでいるはずなんだ」


「こんな森の中に、ですか?」


「あぁ、てっきり表記ミスだろうと気にしていなかったんが、念のため確認したくてな。なにか覚えていないか?」


「いえ、なにも……」


 そうか。

 ちなみにラミュが「私も知らないですねぇ!!」とバカでかい声で叫んだのだが、無視した。


 やはり表記ミスなのだろう。

 地図を確認しても、この辺には小さな集落すらない。


「さて、そろそろ行くか」


 と馬に跨ろうとしたとき、


「ん?」


 獣の気配を感じた。

 土を踏む音が、結構な速さで近づいてくる。


「フェイト、気をつけろ。何か来る」


「私のことも心配してくださいよおぉ!!!!」


「……ラミュもな」


「ついでみたいな言い方ッッ!!」


 注文の多いやつだ。

 足音がする方向を睨んでいると、一体のオークが飛び出してきた。


 襲いかかるつもりか。

 いや、違う。既に怪我をして流血している。

 逃げてきたのか。


 オークが躓いて倒れた。

 遅れて、三匹ほどのゴブリンがやってくる。


 棍棒や槍を手に、オークをリンチしはじめた。


「なななな!? どういう状況ですかこれぇ!?」


「さあな。ほっとけ」


 フェイトがダッシュした。

 何をするつもりだ。


 ゴブリンたちの狙いが、フェイトへ移る。

 当然、ゴブリンが飛びかかる。


 するとフェイトは両手をかざし、


「クリアウォール!!」


 魔法の名を叫んだ。

 ゴブリンは、まるで見えない壁にぶつかったかのように弾かれ、警戒気味に撤退していく。


「フェイト、そんな魔法が使えたのか」


「あ、はい。前の街で貰って……いえ、思い出して」


 防御魔法の類か。

 強固なバリア……結界を展開できるようだ。

 私はそういったものは使えないから、今後は頼るとしよう。


「それよりフユリンさんごめんなさい。助けなくちゃと体が動いてしまって」


「食うか食われるかの世界に介入するものじゃない」


 しかし妙だな。

 オークは巨体で、怪力だ。ゴブリン三匹くらいなら軽く屠れるはずなのに。

 弱虫のオークだったのか?


 オークがゆっくりと起き上がった。

 槍で刺されたはずなのに、もう傷が塞がりつつある。

 さすがの生命力だ。


 「うおぉ」とオークが唸る。

 ラミュが首を縦に振った。


「ほうほう、なるほどぉ」


「言葉がわかるのか?」


「私、貴族学校時代はオーク語を習っていたので!!」


「そ、そうか」


 お前が得意なこと、もう見つかったじゃないか。

 だいたい何なのだオーク語って。ただ唸っているようにしか聞こえないのだが。


 魔法で翻訳したのならいざ知らず、知識で種族間の壁を取っ払うとは、人間の叡智もまだまだ捨てたものではないな。


「どうやらここらの土地は、ゴブリンたちが支配しているようです」


「ゴブリンが? 魔物の中でも弱い部類だろう。確かこの辺はオークにコカトリス、中型のドラゴンだって生息しているはずだが」


「むしろ、もともとゴブリンはいなかったらしいですねぇ」


 オークの話を聞きながら、ラミュが翻訳してくれる。

 五年前、突然ゴブリン群がやってきたらしい。


 ゴブリンなんぞ相手にもならないとタカを括っていたが、なんとゴブリンの一匹が魔法を使い、他の種族を攻撃しはじめたのだ。


 本来、ゴブリンは魔法を使えない。


 やがてゴブリンたちはどんどん勢力を拡大させて他種族を従え、山の王になったのだとか。


 いまでは、ゴブリンに逆らえば家族ごと処刑される始末。


「ゴブリンのボスの名前はリンリン。メスです。彼女は自分をこう名乗ってるらしいです」


「……まさか」


「悪役令嬢と」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき


今回のエピソードは、珍しくモンスターがたくさん登場します。

一応、ファンタジーなのでッッ!!


応援よろしくお願いします。

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