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第31話 フェイトと魔女

 無事に海を渡りきり、港に着いたフユリン一行は、そのままエサチという街の宿で休養を取ることにした。

 街に悪役令嬢はいないのだが、フユリンが珍しく貧血で倒れたのである。


 ラミュが看病をすることになり、残されたフェイトは、


「すみません。ちょっと、出かけます」


 街の教会へ向かうことにした。

 ただの散歩ではない。


 記憶が、疼くのだ。


 街外れにある、古びた教会の前までたどり着くと、フェイトは目を見開いた。


「ここ、知ってる……」


 以前のフェイトの記憶ではない。

 なら、その見覚えが掘り起こされたのは……。


 ゆっくりと扉を開ける。

 中に神父とシスターがいて、子供たちに歌を教えていた。


 神父がフェイトに気づく。


「どちら様でしょう」


「あ、あの、私、旅のものです」


「はぁ」


「もしかしてなんですけど、この教会にティアという女性が来たことありませんか? 月見祭を催したはずなんですけど」


「あぁ、もう何十年も前の話ですね。先代の神父が語ってくれましたよ。カトレア様もいらっしゃったとか」


「え!?」


 カトレア。

 その名も知っている。

 厳しく、決して人に心を許さない悪役令嬢だったはずだ。


「新聞はお読みになりましたか? カトレア様が戦争に巻き込まれて消息不明になったとか。残念ですね」


「そうなんですか!? あ、あの、詳しく教えてください!!」


 神父は了承し、別室へフェイトを案内した。

 渡された新聞に目を通し、事件の概要に触れる。

 漠然とした情報しか書かれていなかったが、どうやら本当にカトレアは消息不明らしい。


「確かに、この教会にティア様がいらっしゃいました。でも月見祭をやろうと提案したのは、カトレア様のはずです。先代の神父が何度も話してくれたので、間違いありません」


「カトレア……さんが……。そんなはずは……。い、いや、そもそもどうしてカトレアさんが長生きできていたのだろう。まさか……」


「えーっと?」


「ティアさんの居場所はわかりますか? どの国に住んでいるのかだけでも」


「いや、それはわかりませんね。隠居して、ひっそりと暮らしているらしいですが」


「そうですか……」


「もしやカトレア様の伝説について興味がお有りですか? 簡単な絵本になったものなら、教会にありますが」


 神父は部屋からでると、一冊の薄い絵本を手に戻ってきた。

 悪役令嬢カトレアの冒険。

 表紙にそう書かれた本を受け取り、パラパラとめくる。


 いじわるな悪役令嬢カトレアが、婚約を破棄され、兄や親友のティアと共に世界各地を冒険する物語だった。


 読みながら、疑問が次々と浮かび上がる。

 厳しい性格のカトレアが、まるで別人のように優しくなっている違和感。


 やはり自分と同じなのか。じゃあ、だとすれば、けれど……。


 考えても考えても、別の謎が湧いてくる。


 途端、神父が倒れた。

 気を失っているようであった。


「どうしたんですか!?」


「安心してよ」


 ハッと、フェイトがふりかえる。

 いつの間にか、教会のシスターが部屋にいた。


「ちょっと眠らせただけだから」


「あ、あなたは……」


「私は第六位の魔女センフ。わけあってここでシスターをやっている、不老の魔女」


 ニコリと笑う。

 人間らしい表情をしているはずなのに、フェイトはどこか不気味に感じた。


「センフ?」


「ちなみにそこの神父さんは普通の人間だよ。私の正体すら知らない。……それより君、フェイト・ハノーナでしょ? それも、前世の記憶に目覚めたフェイトだ」


「!?」


「ねぇ、君はどこまで知ってるの? カトレアと同じなんでしょ?」


 ぐいっと、顔を近づけてくる。

 本当に魔女なのか。質問の意図は何なのか、フェイトに確かめる術はない。


「心配しないで、単なる好奇心だから。高次元の存在と話せるの久しぶりで、わくわくしちゃって」


 何にせよ、彼女はなにかを知っている。

 ならば……。


「ここは------で、カトレアさんの兄はティアの----です。そしてあなたは、あの絵本に描かれていた、ティアさんが助けた野良ネコ」


「おぉ〜、さすが。そうそう。私の正体はネコ。にゃんにゃん」


「いったいこの世界に何が起きているんですか? 悪役令嬢協会なんてもの、存在していなかったはずです」


「悪いけど、私は質問には答えないよ。私にも立場があるしね。他の魔女に目をつけられるのはマズイ」


 こっちは答えたのに。

 フェイトは眉をひそめた。


「ただ、ティアの居場所なら教えてあげる」


「え!?」


「ここから北西に進んだところにある、カイレカイレって街に隠れているよ。ただ気をつけて、マリアンヌもティアを探しているから」


「マリアンヌまで!? な、なぜ……」


「言ったでしょ、私は質問には答えない。でも」


 センフの手が、フェイトの胸に触れた。


「どちらかといえば私は『マリアンヌの敵側』だから、君に便利な魔法を授けよう。君のお友達とも対等にやりあえる強い魔法さ」


 お友達、フユリンのことであろうか。


「フユリンさんのこと、ご存知なんですか?」


「第三位の魔女の弟子でしょ? 私は特に興味ないけど」


 目の前の魔女はフユリンのことすら知っている。

 ならばもう疑う余地はない。

 センフは、魔女だ。


 瞬間、フェイトの心臓に衝撃が走った。

 ドクン、と強く鼓動し、少しずつ落ち着きを取り戻していく。


「はい、渡した。本来、魔女は契約を結ぶ形で魔法を授けるんだけど、君は特別だから」


「あ、あなたも旅に同行してくれないんですか?」


「やだよ。上位の魔女に呼ばれない限り、ここから離れるつもりはない。だってーー」


「ティアさんとカトレアさんとの、思い出の場所だから」


「そういうこと。楽しかったな、月見祭」




 気がつけば、フェイトは教会の外にいた。

 魔法で追い出されたのだろう。

 おそらく、これ以上センフに何かを求めても、無駄であろう。


—-----


 宿に戻ると、フユリンは起き上がっていた。


「大丈夫なんですか?」


「あぁ、少し疲れが溜まっていただけだ」


 フユリンの視線が、ラミュへ向けられる。


「まさかお前に看病されるとは思わなかったよ。ありがとう」


「えへへ〜♡ フユリンさんはそうやってすぐ私の好感度を上げようとするんですからぁ♡♡」


「黙れ」


「はい!!」


 今日はもう遅い。

 となれば街を立つのは明日の朝だろう。

 魔女に会ったこと、知り得たこと、どこまで話すべきか。

 言えない。確定していないが、フェイトの予想通りなら、この世界の秘密を彼女たちに打ち明けるのは、可哀想だ。


 信じもしないだろう。

 だが、伝えられる情報もある。


「思い出したことがあります」


「なんだ?」


「ティアさんって、ご存知ですか?」


「確か、最古の悪役令嬢の友人だったか? 昔伝記を読んだ」


「はい。ここから北西にある街に、彼女がいます」


「それで?」


「マリアンヌも、彼女を捜しているんです。理由は不明ですが」


「不明なら、何故言い切れる。マリアンヌがティアを狙っていると」


「えーっと、それは……」


 ラミュが喋りだした。


「まぁまぁ、いいじゃないですぁ細かいことはっ!! どーせこれといった目的地もないんですしぃ!!」


「確かに、そうではある。協会の本部も、まだまだずっと先だし」


 フユリンが考え込んだ。

 これは、チャンスである。


 上手くいけば、マリアンヌを待ち伏せできるかもしれない。

 そうでなくても、マリアンヌがティアを求めている理由を把握しておいて損はない。


 なにも手がかりがないより、圧倒的にマシである。


「北西か、冷えるな。厚着を備えて出発しよう」


 フェイトの胸が、妙な期待で熱くなる。

 この世界の秘密、魔女とマリアンヌの関係、それらの中心に飛び込めば、得られるかもしれない。


 みんな仲良くハッピーな結末を叶える、ヒントが。


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