第29話 フェイトがたくさん喋る回
パッチが男だった。
本人は女だと言い張っているが。
まさか、別人? 双子とか、ソックリさんとか。
いやいや、だとすれば似すぎているし、向こうもこちらを知っていた。
な、なら、本物。
そもそもここは女湯じゃ……待て、そういえばそんな表記あったか?
分けられていたか?
なんとなく、ぼーっと入ってきてしまったが、ここは……。
まさかの……混浴……?
どうなっているんだこの船の倫理観は!!
ヤバいおっさんが入ってくる前にでなければ。
「って、そうじゃない。パッチ、なぜ女だと偽っていた。悪役令嬢と関係があるのか? まさか女とお風呂に入りたいからではあるまいな」
「だから、私は女の子だ!! ちょっと普通とは違うだけなのだ!! まったくもう……」
「ちょ、ちょっと……?」
フェイトが私の腕を掴む。
「れ、冷静になってきました。つまりパッチさんは、男の娘だったんです」
「は? だから男の子だろ?」
「私の前世では男の娘は巨大界隈だったので、私もカジったことがあります。中学三年生の一年間でしたけど、カジってました。まあ結局、年の差百合に落ち着いたんですけど、私。もともと女児アニメプラトニック百合界隈出身だったので」
「???」
「パッチさんの場合は肉体は男、性自認は女のトランス女性型男の娘です」
なにを言っているんだこいつは。
新しい魔法か何かか?
「トランス女性型男の娘は同じ男性相手と絡むか、もしくは『おねショタのおね』と絡みます。私たちは『おね』と呼べるほどパッチさんと年齢差はないはずなので、シナジーが発生する確率は低いはずです。……つまり、パッチさんは私たちをやましい目で見ることはないので、安心しましょう」
「そ、そうか……」
その割には、さっきからパッチがフェイトを見つめているが。
むむむ〜と顔を顰めているが。
「パワーを感じるな〜。悪役令嬢のパワーを感じるぞ!!」
あ、マズイ。フェイトはまだ現役の悪役令嬢だ。
睨んでいたのは悪役令嬢パワーを感じていたからなのか。
「ものすごい悪役令嬢パワーを感じる。さてはあなた、悪役令嬢ね!!」
そりゃものすごい悪役令嬢パワーを感じたなら悪役令嬢だろうが。
ていうか、男か女かの話はもう終わりなのか。
終わらせていいのだろうか。
ま、まあ、私には関係ないことか。
「ずいぶん溜め込んでいたようだねえ!! パワーをっっ!!」
変だな。悪役令嬢パワーがどんなものか知らないが、悪いことをしなければ溜まらないもののはず。
だがフェイトは……あぁ、前世の記憶を取り戻す前のフェイトが悪さをしまくっていたのか。
学校を燃やしていたくらいだし。
「あなたのパワー、このDr.パッチ・サンダンスJr.が貰い受けるわッッ!!」
「パワー? あの、意味がわからないんです。パッチくんちゃん」
「くんはつけるな!!」
「う〜ん」
フェイトが助けを求めるようにこちらを向いた。
やめろ、私にも悪役令嬢パワーについてはさっぱりわからないんだから。
「パッチ、ここで戦闘する気か? 船が沈没したらお前だって死ぬぞ」
「大丈夫なのである!! 何故なら私、素潜り世界記録保持者だから!!」
「無関係な人間にも危害が加わる」
「大丈夫なのである!! 私の自慢の魔法、アースプロジェクトで海水を吸い取りまくって、海を陸地にしてやるから!!」
「吸収できるのは魔力か悪役令嬢パワーじゃなかったのか」
「改良したのよ。天才研究者だから!! いまやチリや砂も吸収し、どんどん大きくすることができるわ!!」
どこへ向かっているんだその魔法は。
その名の通り新しい地球でも作るつもりか。
「とにかく、パワーをいただくのだあッ!!」
パッチがフェイトに手をかざした。
仕方ない、殴って気絶させるか。
いっそ溺死させても誰も文句は言うまい。
「待ってください」
「フェイト?」
「パッチちゃん、その魔法を使えば、どんなものも吸収できるんですか?」
パッチが頷く。
「そのとーり!!」
「た、たとえば、脂肪とか」
脂肪?
フェイトの胸を一瞥する。
確かに脂肪の塊と評しても過言ではないほど、大きい。
平均サイズの私より遥かにデカい。
きっと邪魔に感じているのだろう。
フェイトが顔を赤くした。
「ち、違います!! 胸じゃありません!!」
「え、じゃあ……」
じろじろと、フェイトの白い肌を観察する。
そういえば、どことなくふっくらしている気がする。
顔だって、こんなに丸くなかったような。
腹もちょっぴり……。
「うぅ、数日ラミュちゃんの屋敷に滞在している間、あまりにもご飯が美味しくて……」
「旅を続けていればそのうち痩せるさ」
「痩せませんよ!! だって馬移動じゃないですか!! どうなんですかパッチちゃん!!」
パッチが珍しく真顔になってる。
「そ、想定していなかった……」
そりゃそうだ。
「肉を丸ごと取り込むことはできる。しかーし!! うまいこと不要な脂肪だけを取り込めるほど、私のアースプロジェクトは器用ではないのだッッ!!」
「そんな!!」
残念だったな。
「ぐやじぃ〜!! よーしわかった、さらに改良を重ねて脂肪も取り込めるようにする!! 悪役令嬢パワーを貰うのはそのあとだわ!!」
パッチが出入り口までジャンプした。
揺れる胸がない代わりに、Jrが揺れた。
「それまで首を洗って待っているがいい!!」
「待てパッチ、そもそもなんでここにいるんだ」
「私の研究所がこの先の大陸にあるのだよ!! 助手も待っている!! さらばだーっ!!」
と、捨て台詞を吐いてパッチは去っていった。
助手なんているのか。マトモなやつであってほしいが。
「頑張ってください、パッチさん」
「あいつを応援するな。お前の命を狙っているんだぞ」
「そうだったんですかっ!?」
ていうか、フェイト自身がダイエットを頑張れよ。
「にしても、驚いたな、まさかあいつ男だったなんて」
「私も、リアル男の娘は初めてです。男の娘はズルいジャンルなんですよ。男性と絡ませても良し、女性と絡ませても良し。どっちでもエロにできるチートジャンルなんです。私も一時期カジってました」
「あっそう」
「まぁ、沼にハマっていたころは、王道タイプの男の娘が好きだったんですけどね。性自認は男、外見と内面が女の子っぽいドストレートタイプが。というかショタという大海原レベルのでっかい沼にハマっていた気がします。でもパッチちゃんみたいなタイプの男の娘も好きでしたよ。カジッていたので」
なんか、若干早口で興奮気味だな、フェイト。
だいたい何なのだ「カジッてた」とは。なにをカジッていたのだ。
わからん、さっぱりわからん。
前世の言語で喋ってるのか?
はぁ、まあいい。
さっさと体を洗って、ここから出よう。
混浴だし。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※あとがき
次回は久々にマリアンヌが登場します。
実はマリアンヌ編はあと半分以下。
応援よろしくお願いしますっ!!




