第28話 パッチのジュニア
「海を渡りませんか?」
せっかく海沿いの街にいるのだからと、フェイトが提案してきた。
なんでも、悪役令嬢協会本部に行ってみたいのだとか。
それでマリアンヌがいそうな場所を思い出してくれるなら構わないし、運良くあいつが本部にいる可能性もある。
「いいだろう」
街の船はほとんどラミュの家で設計されたもの。
私たちはラミュの妹のマニョから客船のチケットを譲ってもらい、港へ向かった。
「ほう、大した船だ」
「ウチの自慢の豪華客船ですっ!!」
自慢するだけあって、かなりデカい。
あの煙突はなんだ? 既に煙を吹いているが。
フェイトも関心しているようだった。
「蒸気船ですね。この世界にもあるなんて」
「よく知ってますねぇ!! 最新技術をふんだんに盛り込んだ最強の船ですっ!!」
とにかく、これならちょっとやそっとじゃ沈没はしないだろう。
もちろん、私の愛馬も乗せる。馬は本来船が苦手らしいが、私の馬は私と同じで肝が座っているため、平気なようだ。
ゴーっと、低く重たい音が鳴り、船が出港する。
甲板でのんびり海を眺めていると、フェイトがやってきた。
「大浴場があるらしいです。あとで入りませんか?」
「風呂か。悪くないな。そんなものまであるとは、大した船だ。……ラミュはどうした?」
「ラミュちゃんなら私たちの部屋で休んでます。船酔いで」
まだ出港したばかりだろうが。
というか船屋の娘が船酔いなんてするな。
「どうしようもないやつだな。じゃあ静かなうちに行くか、風呂に」
「はい」
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大浴場と呼ぶには、小さな浴槽だった。
ギリギリ五人入れるか入れないかくらいの、微妙な大きさの風呂。
この船に何人乗っているのか知らないが、体を洗うスペースはここしかないわけで、時間を誤れば大混雑間違いなしだっただろう。
「まだ私たちだけみたいですね」
「いや、誰かいるぞ。湯気でよく見えないが……ん?」
見覚えのある女だった。
湯けむりでぼやけているが、長い金髪の、うるさそうな顔をした……。
「お前は!!」
「ぬぬ? あーーっ!!」
「パ、パッチ」
「ノンノン!! Dr.パッチ・サンダンスJr.だーーっ!!」
待て待て、違うだろ。
Jr.なんて付いてなかっただろ。
「ここであったが、あ・百年目〜!!」
「フユリンさん、誰ですか?」
そうか、フェイトは知らないのか。
バードの時にも会っているのだが、あのときフェイトは気を失っていたから。
「ラミュと同じタイプの頭イカレポンチ女だ」
「は、はぁ……」
まったく。せっかく静かに湯を楽しめると思ったのに。
風呂場だと余計に声が響くから、こいつのせいで鼓膜が破裂するかもしれない。
とはいえ、いまさら引き下がれないが。
もう少し近づいて、湯に足を入れる。
若干熱いな。
「ひゃっ!!」
フェイトが悲鳴を上げた。
熱かったのだろうか。
「あ……え? え?」
「どうしたフェイト」
「あの、パッチさんって……」
「なんだ?」
フェイトがパッチを指差す。
それに釣られて視線がスライドする。
パッチがなんだというのだ。
こいつの裸なんぞ見たところで……。
「なにっ!?」
「きゃああああっっ!!」
スレンダーなやつだとは思っていたが。
ぺったんこな胸だとは思っていたが。
白衣で上半身の骨格が隠れていたから気づかなかった。
「お前、男だったのか!!」
パッチ・サンダンスの腰に、Jrが付いていたのだっ!!
Jrを見られたパッチが、顔を赤くして頬を膨らませた。
「ど、どこを見ているのだ変態め!! 私は女の子だ!!」
「女? いや、だって……」
「女の子だッッ!!」




