第26話 ラミュ⑤ 爆破する悪夢
※まえがき
一人称です。
ラミュの願いを聞いたフユリンだったが……。
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大雨が降っているのは幸運だった。
多少の騒音ならかき消してくれるから。
「ラミュ、いつまでぼーっとしている。案内しろ」
濡れたまま屋敷に入る。
妹のマニョ曰く、クロードとやらは優秀な魔法使いらしい。
てっきり、ラミュ家を支配できた理由も洗脳魔法か何かだと思ったが、どうやらそういうわけでもないようだ。
正真正銘、言葉で脳に刷り込んだわけだ。
だからこそタチが悪い。魔法ならば、簡単に解除できるから。
「この先……です……」
寝室の扉を開ける。
クロードであろう男が、ランプの明かりを頼りに本を読んでいた。
「ん〜? なんだあいラミュ、まさかまだ屋敷にいたのか? てっきり、もう二度と帰らないと思ったが、わざわざ死ににきたのか。そこの女は誰だ?」
「お前がクロードか」
「誰だ、と聞いているんだが?」
「まあいい、殺しはしないまでも、一生を病院で暮らすくらいには痛めつけてやる」
「ふふ、ふふふ、なるほど」
クロードが立ち上がった。
「私を追い払うために金で雇ったのか? ラミュよ。浅はか、実に浅はかだな!!」
机の引き出しから杖を取り出し、私に向ける。
「武器もない女、おそらく魔法を使うのだろう。この私に魔法で挑むとは、笑わせてくれる!! ウインドカッター!!」
風を切る音が聞こえてくる。
咄嗟に横へ飛ぶと、私の背後にあった扉に、複数の切り傷が刻まれた。
なるほど、見えない風の刃か。
「人間は視覚情報に頼りすぎている。視認できないものに恐怖を覚える生物!! まだまだ終わらんよ!! ウインドブレイド!!」
周囲の風がクロードの杖へと集まっていく。
名前からして、おそらく風の剣といったところか。
「ほう、確かに魔法が得意なようだな」
「私は風属性魔法の熟練者だ。キサマ程度には負けん!! 何故なら私は、あの序列五位の魔女を師事していたのだからなッッ!!」
ラミュが腰を抜かした。
「ま、魔女の弟子!?」
無理もない。
魔女とは、魔法の真髄を極めし者たちの称号。
最強の魔法使いたち。
現在六人まで存在し、たった一人でも世界を滅ぼすことが可能なのだそうだ。
悪役令嬢どもより恐ろしいが、滅多に表舞台には出てこない。
「そうか、それはすごいな。……私には関係ないが」
「なに?」
「しょせん、ラミュに対して威張れる程度の雑魚に過ぎない、という意味だ」
「殺す!! 刀身が見えぬ剣にどう立ち向かう!!」
クロードが腕を振り上げた。
確かに、不可視の剣は厄介だが、クロックアップを使うまでもないな。
私はヒョイっと懐に入ると、
「ホーリーナックル」
左手に光魔法のエネルギーを溜め込み、クロードの腹をぶん殴った。
「ぐはっ!!」
「浅いか、腹の贅肉が邪魔だな」
続けて右手にも光のグローブを装着し、やつの顎を殴る。
一歩二歩と、クロードが後退する。
「がっ……な、なぜ……ありえない……」
「昔はどうだったか知らんが、いまのお前じゃ永遠に私には勝てん。ぶよぶよの太った体、鈍い動き……この屋敷で怠惰な生活を送りすぎていたようだな」
「ば、ばかな……」
最後に思いっきり蹴り飛ばすと、クロードの体は窓をぶち破って外へと落ちていった。
死んでくれると助かるが、あぁいう男に限ってしぶといものだ。
「行くぞ、ラミュ」
「へ?」
ラミュを小脇に抱え、私も窓から飛び降りる。
案の定、クロードは雨に打たれながら地面を這っていた。
「く、くそ……足の骨が……こ、ここは一旦、逃げなければ……」
「呆気ないな。さっきまでの威勢の良さはどうした?」
「う、うぐ……な、何なのだ、お前は!!」
「自慢する気はないが、私も魔女からいろいろ教わっていた。序列でいうと、確か三位だったか」
「三位だとぉ!? バ、バカな……それほどの女が、どうしてラミュなんぞの仲間に……」
「仲間ではない。悪役令嬢を増やさないための寄り道だ」
さて、そろそろ終わらせよう。
再起不能になってもらう。
しかし、それは私の仕事ではない。
「お前がやれ、ラミュ」
「……え」
「お前が決着をつけるんだ。己の手で、狂った悪夢を終わらせろ」
ラミュがクロードを見つめた。
クロードもまた、苦々しい表情でラミュを睨んでいる。
散々コケにした娘に始末されるなんて、プライドが許さないのだろう。
「わ、私が……」
「確かにお前は弱くて役に立たない。だが、自分の人生にケリをつけるくらいは、できるはずだ」
「……」
「ラミュ、妹を、家族を守るのは部外者の私じゃない……お前だ」
クロードが爆笑する。
「バカめ!! 魔法を使うつもりかラミュ!! キサマの魔法は成功率1%だということは、とっくにわかっているんだよ!!」
瞬間、誰かがクロードを呼ぶ声が聞こえてきた。
それも複数だ。
「クロード様!!」
「なにをしているんだラミュ!!」
四人の男女。
おそらく、ラミュの家族たちだろう。
「良いタイミングで来たなお前たち!! さあ、娘を捕らえろ!! 私を助けるんだ!!」
させるか。
バインドの魔法で連中を拘束する。
悪役令嬢でも従者でもないから威力は落ちるが、一般人の彼らの動きを封じるくらいなら問題ない。
「う、動けない……」
「やめなさいラミュ!! お母さんを困らせないで!!」
「クロード様を傷つけるな!!」
「また家が没落したらどうするつもりなんだ!!」
「この疫病神が!!」
悲惨だな。
これが家族か。
暖かくて明るい家庭だったと、妹のマニョは言っていたのに。
「フユリンさーん!!」
遅れて、ようやくフェイトがやってきた。
その脇には、ラミュの最愛の妹がいる。
これで役者は全員揃った。
さあ、どうする、ラミュ。
「お姉ちゃん……お姉ちゃんやめて、私のためにそこまでしなくていいよ!! 私、悪役令嬢になるから!! 頑張るから!!」
「……それを言われちゃあ、やるしかなくなるよ、マニョ」
「お姉ちゃん?」
「妹が無理をしているのに、お姉ちゃんが逃げていたら、かっこつかないもん!!」
ラミュが手をかざした。
覚悟を決めて、瞳に炎を宿らせる。
「爆発魔法・エクスプロージョン!!」
「はははっ!! 素直にナイフでも使えばーー」
言い終わる直前、クロードの足元で小さな爆発が発生した。
か弱い威力であったが、彼の右足を容赦なく吹っ飛ばす。
「なっ、なっ!!」
「私は、私は魔法の才能もないし、勉強も苦手ですよ。お調子者で、甘えん坊で、家族でご飯を食べる時間が大好きだし、お兄さん夫婦とずっとお喋りしたいし、いまでも寝る前にはママ様とチューしたいし、パパ様とお風呂にも入りたい。抱きしめてもらいたい。そして、妹のことをめいっぱい撫で回して、愛していたい」
「あ、ありえぬ……偶然だ……」
「その生活を、いまこそ取り戻す!! 私のすべてをぶち壊したお前を、地獄に叩き落とすときです!!」
「ま、待てラミュ、この屋敷から出ていく、別の街へ引っ越すからーー」
「負け犬はお前だ!! クロードオォォォォォ!!!!」
「やめろおおおおお!!!!」
クロードの周囲で連続して爆発が起きた。
左足が吹っ飛び、右手が消滅し、左手がぐちゃぐちゃになる。
そして、
「ここからいなくなれえええええッッ!!!!」
胴体と頭部が、激しい爆音と共に破裂し、クロードは木っ端微塵の肉片へと変貌した。
ラミュがへたり込む。妹のマニョが駆けつける。
「お姉ちゃん……」
「マニョ……」
二人は互いを強く強く抱きしめて、これまで募らせてきた負の感情を吐き出すように、泣き叫んだ。
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※あとがき
次回でラミュ編終了です。
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