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第25話 ラミュ④ 神への願い、決意の青

※まえがき

三人称です。

前回に引き続きラミュの過去編です。

前回に比べたらまったく胸糞悪くはないので、安心してください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ラミュはクロードが嫌いだった。

 いつの間にか家族の中にいて、父と母、兄と兄嫁の人格を捻じ曲げた彼が大嫌いだった。


 あいつを追い出したい。みんなおかしくなっている。

 熱心に伝えても、逆に怒られる日々。


 唯一の味方は、妹のマニョだけであった。


「お姉ちゃん、またパパに怒鳴られたの?」


「どうかしているんだよ。マニョは、あいつのこと好き?」


「ううん。なんか……怖い」


 クロードがその気になれば、二人を洗脳することも可能だっただろう。

 それをしなかったのは必要がなかったからでもあるし、『とるにたらない子供』と侮っているからである。


 マニョはまだ7歳。

 ラミュに至っては魔法の才能も勉強の才能もないアホなガキ。


 相手にするだけ無駄である。


 家族は誰も二人を構わなくなった。

 だから、ラミュとマニョは二人だけで遊ぶようになった。

 屋敷にいるときはいつも一緒。お風呂でも、ベッドでも。


「マニョ〜、もう寝よう〜」


「まだ宿題してるから待って」


「真面目だなあマニョは。将来は学者にでもなるのぉ?」


「頭が良い女の方がモテるんだから。普通の令嬢になって、普通に貴族の誰かに嫁ぐの。そうした方が、パパもママも安心するでしょ?」


「そうかなあ。私たちのことなんか、どうでもよさそうだけど」


「いまは変になってるけど、いつかきっと目を覚ますよ。だって、私たちの大好きなパパとママだもん」


 どこまでも清らかで、悪意とは無縁の女の子。

 世間一般の悪役令嬢とは正反対だ。


 ラミュの瞳に決意が宿る。


 自分は可愛いだけで何もできない。

 でも、マニョだけは必ず守ってみせる。

 マニョだけは、あいつの人形にはさせない。




 数日後、ラミュを除く全員がクロードに集められた。

 それを知ったラミュの全身に、吐き気を催す悪寒が走る。

 何故、マニョまで。


 急いでクロードの元に向かう。

 書斎の扉を開けると、全員がいた。

 この頃には、父はもう全裸が当たり前のペット扱いにまで成り下がっていたが、そんなことはもはやどうでもよかった。


 まず第一にマニョを視界に捉える。

 しゅんと肩を落として、縮こまっていた。


「マニョに何をする気です!!」


「おや、ラミュちゃんは呼んでないんだがね」


「いいから答えてください!! マニョをどうするつもりですか!!」


「教育方針を改め、マニョちゃんには悪役令嬢になってもらう」


「……は?」


 世は悪役令嬢時代。

 その肩書きがあるかないかで、女の価値は大きく変わる。


 協会からの莫大な支援。

 法すらもねじ曲げる権力。

 上級の悪役令嬢になれば、大国の王にも匹敵する影響力が手に入る。


 クロードは、影から悪役令嬢を操りたいのだ。


 ラミュは強く唇を噛んだ。

 マニョのような子に、悪役令嬢は不向きだ。

 慣れたとしても、出世なんてできやしない。


 マニョは、人を傷つけることを何よりも嫌う子なのだ。


「私がなります」


「君が? ふふふ」


「なってやりますよ。悪役令嬢に!!」


 咄嗟の判断であったが、名案だと気づいた。

 悪役令嬢になれば、幸福な人生が待っているという。

 なにもかも思いのままだ。


 新米底辺悪役令嬢ならまだしも、少し地位が上がればクロードだって追い出せるはず。


 クロードは墓穴を掘ったのだ。


「だから、マニョには手を出さないでください!!」


「……いいでしょう。そこまで言うのなら」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 だが、悪役令嬢に不向きだったのは、ラミュも同じであった。

 結果的に追放されて、いまに至る。


 夜、星空は灰色の厚い雲に隠れていた。


 自室にて、ラミュは覚悟を決めた。

 グッと力を込めた拳には、刃渡り15cmはあるナイフが握られていた。

 ロクな魔法が使えないなら、これしかない。


 やるしかない。


 もうすぐ日付が変わる。

 己の運命を、変えてみせる。


 神様、どうか私に、人を殺させてください。




 月も隠れた。

 ポツポツ、サーサーと、窓の外から音がする。


 あいつの寝室の場所は知っている。

 もともと父と母が使っていた、屋敷で最も立派な部屋だ。


 そっと扉を開ける。

 いない。

 まだ起きているのか?


 屋敷を走り回るが、どこにもクロードがいない。

 おかしい。いったいどこに……。


「なにをしているのかな」


 背後から声がした。

 ゾッと、一瞬にして全身の血が冷めた。


「おやおや、手に持っているのはなんだい? 危ないものを持っているな」


「ク、クロード……」


「お前如きの考えが読めないと思ったか、マヌケ」


 唇が震える。

 息苦しい。


「何故、わざわざ一人でお前の相手をしにきたかわかるかい? さすがに、直にお前が死ぬ瞬間を見たら、あのアホどもも動揺して洗脳が解けるかもしれないからだ」


「……」


「無能なだけならまだしも、邪魔をするなら……いよいよもって殺すしかないなあ!!」


 クロードの手が迫った。

 ラミュの脳細胞がスイッチを切り替える。

 こうなったら殺るしかない。いま、殺ってやる!!


「うわあああああああ!!!!」


「バカめ」


 ラミュの体が後方へ吹っ飛んだ。

 なにをされたのか、まったく理解できない。


「魔法も使えず、悪役令嬢にも戻れない、そんなお前に何ができる? なにもできないのさ。妹一人、守ることができない」


「くっ……」


「いや、あるか。ギャーギャーギャーギャーと泣き喚くぐらいはなあ!! いいかあ? よーく覚えておけ。お前のような無能の役立たずをなあ、世間では『負け犬』と言うのだよ!! ラ〜ミュ〜!!!!」


「うぅ……」


「くははは!! 本当に、バカな一族だ。お前にだけは真実を教えてやろう」


「真実?」


「三年前の海難事故、船には何の欠陥もなかった。私の部下が、船底に細工をしたのだよ」


 雨脚が強まった。

 窓を叩く雨音が大きくなる。

 それでも、ラミュの耳は、クロードの声だけに集中していた。


「それなのに、これほどまで、私を疑わぬとは……ははは、なにもかも、私の計画通りだ!! 手に入れたぞ、この家のすべてをな!! この家が代々培ってきた地位と財産は、全部私のものだッッ!!」


「そ、そんな……」


「できればお前も、いずれは私の性奴隷にしてやるつもりだったが、まあいい。代わりに妹の方を調教するか」


「ふ、ふざけるな!!」


「いいや、実はもうとっくに……くくく」


 ありえない。

 マニョは学校で寮生活をしている。

 この家には帰っていないはずだ。帰らないはずだ。


「どっちだと思う? ほらほら、バカな頭で必死に考えたまえよ。ラァァァミュゥゥゥゥ!!!! くはははははッッッッ!!!!」


 この男はどこまでも。

 どこまでもどこまでもどこまでもどこまでも!!!!

 自分とメチャカワイイ家を愚弄する。

 尊厳を踏みにじる。


 だけど何もできない。

 できないのだ。


「さあ、死になさい」


 ラミュは走った。

 逃げるように走り続けた。


 悔しい。憎らしい。悍ましい。

 ぜんぶ、ぜんぶあいつの手のひらの上だ。

 ぜんぶ、ぜんぶ全部ぜんぶゼンブ全部!!!!


 知ったのに、真実を手にしたのに、自分にはなにもできない。

 落ちこぼれの元悪役令嬢の、自分には。

 マニョを助けることができない。






 気づけば、ラミュは屋敷の外まで逃げていた。

 門の手前で躓いて、膝を擦りむく。

 雨が、無慈悲にもラミュから体温を奪っていく。


 頬を伝う水滴が、雨に混じって落ちていく。


「おい」


 ラミュが顔を上げた。

 いるはずのない女が、傘もささずに立っていた。


「風邪を引くぞ、ラミュ」


「な、なんで……」


「妹とフェイトは後から来る。雨のせいで視界が悪いからな、私に追いつけなかったようだ」


「……ははっ」


「?」


「やっぱり、こうするしかないようですねぇ。フユリンさん、あなたを差し出して、悪役令嬢に戻ります。マリアンヌ様だって喜んでくれるはず!!」


「…………」


 ラミュがナイフを構えた。


「また怒りますか? 怒ればいいじゃないですか。でも、私は、なにがなんでも悪役令嬢に戻らなくちゃいけないんですよ」


「そうか」


 フユリンは知っていた。

 彼女の家に起きた悲劇を、マニョから聞いていた。


「私が、あの子の代わりになるんです。マニョを守るのためなら私は、平気であなたを裏切れる。マリアンヌ様に忠誠を誓えるんです!!」


「もともと、仲間とは思っていない」


「だから、だから私が、だから……」


 無理なことは百も承知であった。

 天地がひっくり返ろうと、フユリンを倒すことなどできやしない。


「だから、お願いです、フユリンさん……」


「…………」


「妹を、助けてください」












「いやだね。私には関係ない」


 フユリンの足が、屋敷に向けて歩き出す。


「だが、悪役令嬢を生み出し利用するやつがいるならば、この私が問答無用でブチのめす」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

ネタバレすると妹のマニョちゃんは何もされていません。

よかったよかった。


次回、クロードをボコボコにします。

応援よろしくお願いします。

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