第24話 ラミュ③ 悪魔に支配された家
※まえがき
今回のエピソードはこの小説で一番胸糞が悪い(不愉快)な描写がございます。
特に性描写が苦手な方は、あとがきに要約を記載するので、それで流れを把握していただけると幸いです。
ちなみに三人称です。
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ラミュは知っていた。
よく学校を抜け出しては、こっそり家に帰っていたから知っていた。
険しいながらも、最短で帰省できるルートを。
学校のある街で馬を買い、ラミュは駆け抜けた。
およそ半日程度で地元に帰ってきた。
漁業が盛んな街。港には騎士団海上隊の船もある。
船の殆どには、ラミュの家の家紋が彫られていた。
屋敷までたどり着く。
警護の騎士と、久々の対面を喜ぶ。
本来、勘当されているため中に入ることはできないはずなのだが、彼らとは仲が良かったため、見逃してくれた。
門を開ける。
中庭は殺風景だった。
昔は色とりどりの花が咲き誇っていたのだが、いまや雑草一本生えていない。
玄関扉をくぐり、屋敷内へ。
従者たちを尻目に、ラミュは、書斎に入った。
二〇半ばの痩せた男が、書類に目を通していた。
「お兄ちゃん!!」
「ラミュ!? なぜお前がここに!?」
「あいつはどこですか!!」
ラミュの兄、エーチュ・メチャカワイイ。
若くして父から家業を受け継いだ、現当主である。
「そんなことより、お前はもうこの家のものではないはずだ!! 無様にも悪役令嬢から追放されやがって、恥を知れ!!」
「マニョが悪役令嬢を目指しているなんて、約束が違います!!」
「いますぐ執事を呼ぶ。出ていけ!!」
まるで話が通じていない。
ラミュの目頭が熱くなった。
昔は、ダメダメな自分をとことん可愛がってくれたのに……。
いつもラミュを守ってくれた、優しい兄。
その奥さんは、知識が豊富でラミュにいろんなことを教えてくれた。
母は世界で一番ラミュを愛してくれて、父は厳しいながらも渋くてかっこいい憧れの大人だった。
だったのだ。
「こうなったら……」
屋敷中を探し回るしかない。
そう、踵を返したとき、
「騒がしいですね」
中年の、ハゲた男が部屋に入ってきた。
脂ぎった丸い顔。膨らんだ腹。
ラミュの少女としての本能が、生理的拒絶を催すほどの、ブ男だった。
だが、目を背けたくなるのは、彼に対してだけではない。
若い女が、まるで恋人のように彼の腕を抱きしめ、寄り添っていた。
兄エーチュの妻、スージィだ。
彼の半歩後ろに、小綺麗な中年の女性が、まるでメイドのように立っていた。
ラミュたちの母、ヘレンだ。
さらに、ヘレンの後ろに、初老の男がいた。
ペットのように首輪をかけられ、そこから伸びた綱が、ヘレンに握られている。
悍ましいのは、彼が布切れ一枚纏わぬ、裸であること。
ラミュたちの父、アンディ・メチャカワイイであった。
小太りの中年が、ラミュを見下ろす。
「おやラミュちゃん、久しぶり」
「ク、クロード……」
母が激昂する。
「こらラミュ!! 勘当したはずのあなたが無断で帰ってきたかと思えば、クロード様を呼び捨てにするなんて、無礼にも程があるわ!!」
父が続く。
「そうだぞラミュ!! クロード様が機嫌を損ねたらどうするんだ!! 申し訳ありませんクロード様、このバカ娘、今度こそ追い出しますので」
「構いませんよ。いずれ理解してくれます」
と、にこやかに笑いながら、クロードは兄エーチュの妻、スージィの尻を撫でた。
心なしか、スージィが喜んでいる。
ラミュの母が叫ぶ。
「おお!! なんと寛大なお方!!」
母は跪くと、クロードの指を舐め始めた。
さらに兄のエーチュも彼に近寄り、父と共に靴を舐める。
何度もラミュにキスをしてくれた口で、醜い男に奉仕する。
こんな、こんな人たちじゃなかったのに。
メチャカワイイ家の誇りを胸にしながらも、穏やかで温かな人たちだったのに。
「あぁ、クロード様のお指、まるで至高のお菓子のように美味しいですぅ。ずっとしゃぶっていたいですわぁ」
「クロード様の靴、我々の舌で綺麗に舐め取って差し上げます!!」
「クロード様♡ この淫らなメスの体、もっと弄んでください♡♡」
邪悪な笑みを浮かべたクロードが、スージィの胸を揉みながら告げた。
「ほら、続けてほしくば自分の旦那を蹴りなさい」
「はい!!」
躊躇うことなく、スージィは夫の頬をヒールで蹴った。
それでもエーチュはまたクロードに擦り寄り、靴を舐める。
「いい子だね、スージィ」
「あん♡ クロード様、私の本当の旦那様はあなたです♡♡」
「可愛いやつめ。……それにしても、トイレがしたくなったな。アンディ」
「はいっ!! クロード様!!」
クロードが下を脱ぐ。
ラミュの父が、大好きで尊敬していた厳格なる父が、彼の廃水を顔面から受け止める。
メチャカワイイ家の誇りが、汚されていく。
「ははは!! 実に愚かな家族だなぁ!! そう思うだろう? ラミュ」
「……やめて」
「マニョもはやく調教して、仲間に入れてあげないとだねえ。君もどうだい?」
「やめて!!」
気味が悪い。
気持ち悪い。
醜い。
不快。
不愉快。
吐き気がする。
異常だ。
イカれてる。
胸糞悪い!!
ラミュがクロードを睨む。
「約束が違う!! マニョは悪役令嬢にしないはずだったでしょ!! あんなに優しい子が、悪役令嬢になんてなれっこない!! 適当な貴族に嫁がせる話だったはず!!!!」
「それは君が悪役令嬢であり続けたら、の話でしょう? 君が追放された以上、彼女が代わりになるしかない」
「私ならすぐに悪役令嬢に戻ります!!」
「出来の悪い頭で、大きな夢を語るものじゃないな」
「ぐっ……」
「恨むなら、君の無能さを恨みたまえよ。ラミュ」
父たちが、ラミュを見つめる。
侮蔑と怒りを込めた眼差しで。
この恥知らず。
そうだそうだ。
使えないやつ。
のたれ死ねばよかったのに。
なんであんたなんか産んじゃったのかしら。
「あぁ、そろそろお茶会の時間だ」
クロードたちが部屋から立ち去る。
一人残されたラミュは、プツンと糸が切れたように、膝から崩れ落ちた。
悔しさがポロポロと溢れてくる。
どうしようもない絶望に、叫ぶことしかできない。
すべてやつが悪い。
三年前、あいつがこの屋敷に来てから、何もかもが変わってしまった。
暖かく幸せに満ちていた家が、地獄と化したのだ!!
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三年前、とある海難事故からすべてがはじまった。
メチャカワイイ家の設計にミスがあったことが原因だった。
評判は著しく下がり、多くの誹謗と賠償を背負うこととなり、ラミュの家は、没落寸前にまで追い込まれていった。
その窮地を救ったのが、当時弁護士としてメチャカワイイ家のサポートをしていたクロードだった。
裁判だけでなく、家業にも口を出すようになったのだ。
もともと有名な魔法使いであり、王族親衛隊も努めていた彼の手腕は、芸術的なまでに鮮やかであった。
業績はみるみる立ち直り、没落の危機を免れたのである。
メチャカワイイ家はクロードに感謝した。
一家を狂わせる病に、罹患した瞬間だった。
「これからも僕がこの家を支えましょう。手始めに、顧問弁護士としてこの屋敷に住まわせていただきたい」
元来、情に厚く人を信じやすい家系だった彼らは、なにも疑うことなく、彼を歓迎した。
クロードの悪魔的な人心掌握術と口先は、徐々に彼らを洗脳していった。
『クロードの言う通りにすれば間違いはない』から、『クロードに従わなくてはならない』に、そして『クロードに人生を捧げなくちゃいけない」へと思考をすり替えさせたのである。
思考が人格を変えていく。
従順な、悍ましいペットたちへと変わっていく。
やがてメチャカワイイ家の大人たちは、身も心も彼に捧げるのが当たり前へとなっていった。
そうすることが正しいのだと信じて。
クロードはメチャカワイイ家を支配した。
だが、完全ではない。
純粋な子供故の防衛本能によって、彼を拒み続けていた娘たちがいたのである。
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※あとがき
要約しますと、クロードという男がラミュの家族を洗脳していた。
ラミュは久々に家に帰り、その現実と改めて向き合う。
てな感じです。
ラミュの過去回は次回も続きます。
応援よろしくお願いします。




