第23話 ラミュ② 裏切りの青
「ラミュちゃん!! なにを考えているの!? フユリンさんに刃物を向けるなんて!!」
ラミュの呼吸が荒い。
興奮で息が上がっているのだろう。
「悪役令嬢バードが言ってました。フユリンさんのことが噂になっていると。だから、フユリンさんを、この街の騎士にでも差し出して、私は悪役令嬢に戻ります」
そうだろうと思った。
だがナイフを向けられているのに、まったく怖くない。
殺意を感じないからだ。
おそらく本気で私を脅しているのだろうが、ラミュの性格上の問題だ。
こいつには、明確な敵意を持って人を傷つけることや、まして殺人なんてことはできないのだ。
とはいえ、人にナイフを向けている以上、冗談では済まないのも事実。
「お前に私は倒せない。そんなこと、わかっているだろう」
「ぐっ……」
「なんにせよ、これでお前との旅も終わりだな。失せろ」
「うっ、うぅ……うわああああ!!」
ラミュが突っ込んできた。
ナイフを持つ手を握り、軽く殴り飛ばす。
「うぐっ!!」
「気が済んだか?」
「わ、私は、悪役令嬢に戻らなくちゃいけないんです」
「戻ればいい。好きにしろ。戻った瞬間ゴブリンにしてやる」
「くっ!!」
ラミュは感情を爆発させるようにナイフを床に叩きつけると、走り去ってしまった。
こんな別れ方をするとは想像していなかったが、もう会うこともないだろう。
「行くぞ、フェイト」
「……」
フェイトのやつが私をじっと見つめている。
「本当に放っておくんですか」
「当たり前だ。私の目的は悪役令嬢たちを潰し、マリアンヌを捜し出すこと。姉妹喧嘩に介入する気は毛頭ない。どうでもいいことだ」
「どうでもいい? その割には怒ってませんか?」
「……は?」
「ラミュちゃんを冷たく突き放したとき、フユリンさんから苛立ちを感じました。ラミュちゃんに攻撃されてショックだったんですよね」
なにを言い出すかと思えば。
勝手な妄想をされては困る。
「本当にどうでもいいなら苛立ったりしません。心の奥底では、ラミュちゃんが気になっているはずです」
「…………」
「フユリンさんが放っておくなら、私一人でもラミュちゃんと話します」
「私から勝手に離れたら、お前の体を木っ端微塵にする。そういう魔法をかけていることを忘れたか」
「どうぞ」
こいつ、気弱なフリして案外メンタルが強いな。
というか、意地っ張りだ。
「ラミュちゃんとは、もう友達です。友達を見捨てるような人間に、この世界は変えられません。だから、私はあの子と話します。それでフユリンさんに殺されるなら、悔いはありません」
「お前……」
「フユリンさんだって、ラミュちゃんの友達になってますよ」
「はぁ……わかった、とりあえず、もう一度ラミュに会う」
「フユリンさん!!」
フェイトの表情が明るくなった。
「勘違いするなよ。ラミュが悪役令嬢に戻ったとき、すぐにゴブリンにするためだ。それと……」
「それと?」
「トメイトジュースの件で迷惑をかけたからな」
「ふふふ、薄々勘付いてましたけど、フユリンさんってツンデレですね」
「ツンデレ? なんだそれは」
「いえいえ、なんでもありません」
まったく、面倒な連中に囲まれたものだ。
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学校にはもうラミュはいなかった。
なら、やつの行き先に心当たりがありそうな人間に聞くしかない。
チビっ子どもの教室に入る。
授業中のようだが、関係ない。
「おい」
水色の髪をした、ラミュの妹を呼ぶ。
「あ、あなた達まだいたんですか!! 早く出ていかないと、悪役令嬢拳法で退治しますよっ!!」
「お前の姉が消えた。どこに行ったかわかるか?」
「え……」
マニョは不安そうに眉をひそめると、教師にペコリと頭を下げて廊下に出た。
この礼儀正しさで悪役令嬢は無理があるな。
廊下で、改めて話をする。
「お姉ちゃん、なにか言ってましたか?」
「いいや。なんとしても悪役令嬢に戻りたいからと、私に刃物を向けてきた」
「お姉ちゃんが……そんなこと……家族で一番ビビりで根性なしなのに……」
「お前はあいつが嫌いなのか?」
「いえ、大好きです。こっちが疲れるくらい、いつも元気で、面白くて、引っ張ってくれて……」
どうやら姉妹仲は良好だったらしい。
確かにラミュはうざったいが、ムードメーカーではある。
「たぶん、家に帰ったんだと思います」
「家?」
「ここからそう離れてないんです。海沿いの、船の設計士の家系で……」
「案内しろ。ついでに教えてくれないか、お前たちの秘密を」
マニョが黙った。
嫌だ、というより、躊躇っているようであった。
何か精神的な要因が、彼女の口を塞いでいるような。
「やめておいた方が、いいかもしれません」
「何故だ」
「下手に首を突っ込むと……死にます」
死ぬときたか。
どれだけ深い闇に覆われているのだ、あいつの家は。
「構わん」
「でも……」
「構わん、私は死なん」
私の家族を取り戻すまではな。
さっそく出発しよう、そう思い立ったとき、
「ちょっと、図書室に寄り道してもいいですか?」
「どうしたフェイト。急がないのか?」
「急ぎたいんですけど、もしかしたら、今後のためになるかもしれないので」
「?」
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※あとがき
フェイトはハンターハンターなら強化系ですね、絶対。
応援よろしくお願いします。




