第22話 ラミュ① メチャカワイイ家の末っ子
「この先にぃ、貴族小学校があるんですよぉ」
旅の途中、ラミュが前方を指さした。
「貴族小学校?」
「読んで字の如しです。私もそこ出身なんですよ。卒業してから普通の貴族学校に入学したのですぅ」
「ふーん」
「綺麗な校舎ですよぉ。なんかー、私が入る前に全焼して、建て替えたんですぅ」
「そう」
「ちなみにいまは私の妹が在学中ですっ!!」
妹がいたのか。
荷台にいるフェイトが咳き込んだ。
「どうした? なにか思い出したのか?」
「え!? あ、いやあ……」
なんだ? 顔色が悪いが。
「ラミュちゃんの話を聞いて、思い出したんです。私もそこの出身だってことを」
「まさか、マリアンヌも?」
「それはわかりません。ただ……」
「ん?」
「いえ、なにも」
「?」
ラミュが私の腕を引っ張ってきた。
「行きましょーよー。妹に会いたいですっ!! とっても可愛くて、頭がよくて、お利口さんなんですよぉ」
「嫌だ」
「……悪役令嬢を目指すチビっ子悪役令嬢もいますよ」
「よし、行くか」
とはいえ、仮にそんなやつがいてもゴブリンにはしない。
まあ、そいつの人となりをみて判断するが、年相応のしょうもない悪ガキ程度なら、軽く怖い目に遭わせるだけだ。
「まさか、お前の妹も悪役令嬢を目指しているんじゃないだろうな」
「それはないですね。あの子の性格じゃあ悪役令嬢にはなれません。親も、普通の令嬢として普通に嫁がせるつもりですしぃ」
「お前も普通を目指せ」
「普通を目指すような人間は普通以下の人間に収まっちゃうもんなんですよーっ!!」
もともと普通以下だろうに。
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妹の名前は『マニョ』らしい。
マニョ・メチャカワイイである。
相変わらず自己愛溢れるファミリーネームだ。
恥ずかしくないのか。
学校は三方を山に囲まれた、海沿いの街にあった。
ラミュの言葉通り、校舎は大きく、王族の城のようにたくさんのとんがり帽子が上を向いていた。
「ほう、子供が学ぶには大げさすぎる建物だな」
今回は正面から入る。
卒業生が二人もいるのだ、問題ないだろう。
片方はマリアンヌの友人らしいし。
「うわ、やっぱりここだ」
「なんだフェイト」
「……気にしないでください」
正門で、警備兵に話を通す。
さらに兵が校舎内にいる校長に知らせ、
「どうぞ、お入りください」
中へ通された。
ちなみに、将来有望な悪役令嬢を捜すために来たことになっている。
とりあえずラミュの妹とやらに会うか、と思った矢先、白いひげを生やした老人がやってきた。
「やあ、フェイトさん。それに……ラミョ?」
「ラミュですよっ!! 校長先生」
「そうそう。いやー、懐かしい」
彼が校長か。
一応、失礼のないように挨拶しておこう。
「お二人の警護をしている、フユリンだ。よろしく頼む」
「どうも。大変でしょう、問題児だった二人の面倒を見るとは」
あ、ラミュと目が合ってしまった。
お前のことだ問題児とは。
「ラミュさんは成績も悪く、どんくさく、積極的に行動しないくせに、友達といるときだけはギャーギャーうるさい子でしたね」
「そんな風に思っていたんですか!?」
昔から変わらんのか。
校長先生、あなたの教育方針に疑問を抱かざるを得ないぞ。
「だけど厄介さでいえば……フェイトさんですねえ」
フェイトが視線を落とした。
「悪役令嬢なのは結構ですが、さすがに、校舎を燃やすのはちょっと……」
え。
「多くの生徒が帰省しているタイミングだったから死人は出ませんでしたが、あのときばかりはさすがのワシもショック死するかと」
フェイトは下を向いたまま、気まずそうに、小さな声で謝罪していた。
あぁ〜、そういうことか。だから先程から言葉を濁していたのか。
いくら今のフェイトがやっていなくても、他人からしたら関係のないこと。
来たくなかったのだろうな、本当は。
「ところで校長先生、在校生の中には悪役令嬢を目指しているものがいるはずだが、どれくらいいる」
「さあ?」
続けてラミュが手を上げて、大きな声で質問した。
「私の妹は元気ですか? マニョ・メチャカワイイって、水色の髪をした子です!!」
「えぇ、存じてますよ」
「逆にあの子を知らないやつがいたら膝蹴りしてやりたいですねえ!! なんせマニョは素直で可愛くて優しくて頭も良くて明るくて、学校一の人気者になっているに違いありませんからぁ!!」
姉とはえらい違いだな。
いや、こいつの言ってることだし、ほとんどデタラメな可能性もある。
校長が眉をひそめた。
「つい最近までそうだったんですけどね」
「はい? 妹になにか? まさか、風邪!?」
「いえ、ただ……」
「ただ?」
「教師を殴ったんです」
「え!? あ、あの子が、暴力!?」
教師がロリコンだったか、理不尽な要求をしてきたのだろう。
「そんなわけないです!! いったいなぜ……」
「本人曰く、『悪役令嬢を目指しているから』とだけ」
瞬間、ラミュが膝から崩れ落ちた。
妹が不良になって、そんなにショックだったのか。
いや、違う。顔面が青ざめて、肩まで震えているなんて異常だ。
まるで何かを恐れているような。
「ほ、本当にそう言ったんですか、私の妹は」
校長が頷く。
「ま、まさかそんな……それだけはありえないはず……だって、あいつは……」
「おい、どうしたラミュ」
「校長先生!! マニョは今どこですか!!」
指定された教室へ向かう。
廊下を走るのは校則違反なのだろうが、ラミュにはお構いなしだ。
どのみち、もう生徒ではない。
ラミュを追いかけるように、階段を登る。
目当ての教室が見えてきた。
ラミュがこっそりとドアを開け、中を覗く。
水色の髪をした、小さな女の子がいた。
取り巻きと一緒に、他の生徒を泣かせている。
顔つきからして、あれがラミュの妹か。
「マニョちゃん返して!! それはお父さんから貰った大事なペンなの!!」
舌足らずな言葉で、妹が応える。
「あなたのものは私のもの。未来の悪役令嬢に逆らう気?」
「うぅ、マニョちゃん、そんな人じゃなかったのに……」
「っ!! わ、私は悪役令嬢になるの。あのマリアンヌ様だって従わせてやるんだから」
そりゃずいぶん高い目標だ。
取り巻きたちが続いた。
「わかったらあんたもマニョ様に従っておきなさい」
「悪役令嬢は神の使い。逆らったら天罰が下るのよ?」
「いまのうちに媚を売っておけば、将来おこぼれが貰えるわ!!」
ガキのクセにセコイことを考える。
ペンを奪われた生徒が、ワンワンと嗚咽を漏らす。
周りの生徒たちもドン引きだ。
マニョはバツが悪そうに顔を歪めて、
「しょうがない、今回は返してあげるわ」
と、机にペンを置いた。
悪役になりきれていない。というより、演じきれていないといった具合か。
ラミュが勢いよく中に入った。
「マニョ!!」
「お、お姉ちゃん!? どうしてここに……」
ズカズカと妹に近づき、肩を掴む。
「ほ、本当に悪役令嬢になるつもり? パパ様に何か言われたの?」
マニョが顔を伏せた。
「こんなの、約束が違う!! マニョは悪役令嬢にならなくていいの!! なれっこないんだから」
「お姉ちゃんが……」
「え?」
マニョの瞳が、姉を睨みつけた。
「お姉ちゃんが追放なんてされるから!!」
か細い腕で、ラミュを突き飛ばす。
「何しにきたか知らないけど、もう帰って!! パパもママも言ってたもん。お姉ちゃんのことは、もう忘れなさいって!!」
ラミュは何も言い返せず、呆然とマニョを見上げていた。
やれやれ。姉妹喧嘩は見るに耐えないな。
「そこまでだ」
「だれ?」
「事情は知らんが、本気で悪役令嬢になるつもりなら、ここでお前の人生を終わらせる」
「ひっ……」
一歩、二歩とマニョに近寄る。
すると、
「もういいです」
ラミュが立ち上がった。
亡霊のように虚無な眼差しで、トボトボと私たちの方へ歩いてくる。
「行きましょう」
「いいのか?」
「えぇ。寄り道させちゃって、ごめんなさい」
こいつがいいなら、私もこれ以上首を突っ込むつもりはない。
マニョをゴブリンにするのは、正式に悪役令嬢協会に入ってからにする。
ラミュが教室から出ていく。
私はフェイトと顔を合わせてから、後を追った。
「ラミュちゃん、大丈夫?」
「はい。旅を続けましょう。……あ、靴紐が。先に行っていてください」
しゃがみ、靴紐も結び直すラミュを追い越し、階段を降りる。
「心配です。もしかしてラミュちゃんは、事情があって悪役令嬢に戻りたいのではないでしょうか」
「私の知ったことではない」
「そんな……」
「それより、本気か? やめておけ」
「へ?」
フェイトに言ったのではない。
背後から感じる気配に向けて、私は忠告したのだ。
フェイトが振り返る。
とうぜん、私も。
「なっ!? ラミュちゃん!!」
鬼のような形相でナイフを構えたラミュが、立っていた。
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※あとがき
ラミュ編です。
本作のメインヒロインのお話です。
ちょいと眺めになるかも。
二話連続更新です。




