第21話 バード③ 閉じられた扉
※まえがき
今回は一人称です。
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「醜い? この私が?」
部屋の空気が変わった。
騎士たちに走る緊張が、こちらにまで伝わってくる。
「気にするな、これからもっと醜くなる」
「この痴れ者がっ!! 騎士ども!! やつを捕えなさい!!」
捕えるのは私の方だ。
バインドで騎士たちを拘束する。
いつものパターンだ。
そのままバードも縛り上げる。
「慣れたもんですねぇ!! まるで害虫駆除ですっ!!」
さて、これからバードをゴブリンにするのは簡単だ。
しかし、それで街の連中は気が済むのであろうか。
何人も娘が殺されているのだ、相応の罰を望んでいるのでないだろうか。
いや、やめておこう。そんなことに気を使い出したら、旅の進行速度が遅くなる。
「終わりだな、バード」
「あ、あなた達はいったい……ま、まさか!! 噂になっている悪役令嬢ハンター!?」
いつかは知れ渡ると予想していたが、悪役令嬢ハンターって。
もう少しセンスのいい名称はなかったものか。
バードが笑い出す。
絶望的な状況のはずなのに。
「くく、くくくく、なんという僥倖!! フェイトの血で美しくなり、あなたを協会に差し出して私は、私は!! マリアンヌ様の隣に立つ!!」
「自分が置かれている状況がわかっていないようだな。脳までぐちゃぐちゃになっているのか?」
「舐めるんじゃないわ下劣な庶民が!! 私は悪役令嬢よ、より美しく、より悪く、より上へ!! こんなこと、こんな程度でッッ!!」
なんだ、こいつ。
明らかに纏っている圧が変わった。
まずいな、パニッシュメント・メタモルフォーゼは、相手が私に恐怖しているか、敗北感を覚えていないと発動できない。
「私は潰されないわ!! だってここであなたに負けたら、すべてが無になるもの!! 何もかもが無意味になる。これまで積み上げてきた努力と犠牲がッッ!! そんなの許されない。私が殺してきた女たちもそれを望んでいるのよおおおおお!!!!」
バードがバインドの縄を引き千切った。
それだけじゃない。心なしか、バードの体が大きくなった気がする。
どうなっている。魔法の類か。
「死ねえい!!」
バードが突っ込んできた。
速いっ!!
私を捕まえたいのか殺したいのかハッキリしろ。
「クロックアップ!!」
加速し、横へ逃げる。
「バインド!! エレクトリック!!」
再度縛り、電流を流してみたが、
「ウケケケケ!! 私が殺してきた女どもが、私に力を貸しているわ!! あなた達を殺せってねえ!!」
「どういう解釈だ」
もし本当にそうなら、こいつに殺された連中はよっぽどバードが大好きか、誰でもいいからあの世に道連れにしたいかの二択だな。
さてどうする、フェイトは気絶中、ラミュはビビって腰を抜かしている。
そもそもあの二人の戦闘能力は皆無。
フェイトの記憶が蘇って、学校で習った魔法でも使ってくれる展開が、あればいいのだが。
正直、こんなやつ如きにこれ以上パニッシュメント魔法は使いたくない。
が、やるしかないなら……。
覚悟を決めた、その瞬間、
「なーっはっは!! 誰が呼んだか天才魔法研究者、お久しぶりに颯爽登場!!」
やつが、現れた。
長い金髪と赤いミニスカート、ぶかぶかな白衣。
自称・元魔法研究所所長のーー。
「パッチ・サンダンスここに見参ッッ!!」
相変わらず自信満々といった顔つきで、仁王立ちしてやがる。
「なにやら強力な悪役令嬢パワーを感じたから来てみればあ!! あ、これはどういう、ことだってばよ〜!!」
「どういうことは私のセリフだ」
「ふむふむ、どうやらパワーが覚醒しているようだねえ」
「覚醒?」
「悪役令嬢は、悪のパワーが溜まると覚醒するのである!!」
悪のパワー、大勢の人間を殺して蓄えてきたのか?
理屈はわからん。第一、悪役令嬢パワーなる未知の力のこともさっぱりだ。
だが、窮状を打破できるならなんでもいい。
「なるほど、説明ありがとう解説役。で、楽に倒す方法は?」
「私の魔法で悪役令嬢パワーを吸い取る!!」
「じゃあやってくれ」
「アースプロジェクト!!」
パッチが手をかざす。
小さな白い球が現れて、みるみる大きくなっていく。
それに合わせて、バードが苦しみだした。
「おい、それは魔力を奪うんじゃなかったのか」
「どっちも吸い取れるのである!!」
なんともまあ便利なことか。
バードが跪いた。
「な、なに……私に何が起きているの……」
「気にする必要はない。もうすぐお前は終わる。それだけだ」
「終わる? ふざけないで、私は、私は……終わりたくない!! まだ美しくなれるのよ!!」
「散々人から未来を奪っておいて」
「庶民なんてもんはしょせん!! 悪役令嬢の養分でしょ!?」
無意識に、バードを殴った。
いい加減、こいつの自分勝手な発言にもうんざりだ。
「なんで? なんで私が殴られなくちゃいけないの? 私はただ、マリアンヌ様に気に入られたかっただけなのに、親に喜ばせたかっただけなのに、幸せになりたかっただけなのに!! 他者を蹴落として望みを叶えるなんて、みんなやってることじゃない!! なのになんで? なんでよ!!」
「なら、大勢の人間の幸福のために、お前の人生を終わらせるしかないな」
「いや、いやあ!! 死にたくない、死にたくない!! 他にどんな罰でも受けるから、殺さないで!!」
敗北を認めたな。
「じゃあ、受けろ。死よりも悍ましく、深く、暗い罰を」
「え?」
「パニッシュメント・メタモルフォーゼ」
バードの肉体が光る。
そして、顔だけ人間のゴブリンと化した。
「え、え、私、どうして……」
「じゃあな。世界で一番、醜い女」
気を失っているフェイトを抱える。
「や……待って……待って!! こんな、こんな……いやあああああ!!!!」
まずパッチがいなくなった。
悪役令嬢パワーを手に入れて満足したのだろう。
「そうだ!! 血、血よもっと血があれば!!」
ラミュが先に部屋を出た。
愛馬の回収を頼んだからだ。
「血!! 血!! いっぱいの血!! 女の血を!!」
最後は私だ。
振り返って、バードに告げる。
「お前はもう、悪役令嬢ではない。次に見る血は、お前自身のものになるだろう」
「私はただ、私の価値がほしかっただけなのに……」
扉を閉じて、私たちは旅を再開した。
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※あとがき
バード編終了です。
もともと内気で、悪い子ではなかったんですけどね。
次回からラミュにスポットを当てていきます。
応援よろしくお願いします。




