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プロローグ

「おーっほっほ!! 悪役令嬢は何をやっても許されるのですわ〜っ!!」


 燃やされる私の屋敷を背景に、金髪の女は高らかに笑った。

 八年間暮らした私の家。私と家族の大事な家。

 それが、この女と配下の者たちの手によって朽ちていく。


 お父様とお母様が、涙を流しながら金髪の女に縋った。


「どうかお許しください!! 娘にはよく言って聞かせますから」


「いまさら遅いですわ〜!! 悪役令嬢の機嫌を損ねるとどうなるのか、身をもって学習していただかないと。……ねえ」


 女が私の方を向く。

 いや、正確には私の後ろにいる、リシオン姉様を睨んだのだ。


 両腕を男たちに抑えられた、長身の美女。

 腰まで伸びたサラサラの髪は、私と同じ銀色だ。


 リシオン姉様は悔しそうに、大粒の涙をこぼしていた。


「どうして……どうしてなんですかマリアンヌさん!!」


「あなたが悪いんですのよ。わたくしが気にかけていた殿方に、『好意』を持たれたから」


「私は彼のことなど何とも思っておりません!!」


「関係ないですわ〜。彼の気を引いた時点でおしまいですの〜」


 女の嫉妬か、すべては。

 マリアンヌなる女が、お父様とお母様に告げる。


「あなた達は我が城で奴隷として働いてもらいますわ。もちろん、領地は没収。……そしてリシオンさん、あなたは」


 マリアンヌの口角が上がった。


「ふふふ、永遠の生き地獄をプレゼントしてやりますわ。抵抗は無駄ですのよ。これは悪役令嬢協会の決定ですので」


 配下の執事達がお父様とお母様まで取り押さえた。

 暴れる二人を、容赦なく暴行し気絶させる。


 私は、ただ見ているしかできなかった。

 というより、脳細胞が追いついていなかったのだ。


 私のすべてが崩壊していく光景に。


「妹は、フユリンはどうなるのです!! マリアンヌ様どうか、どうか妹だけは両親と一緒に」


 マリアンヌが私を見やった。

 まるで小汚い雑巾を見下ろすような、侮蔑に満ちた瞳だった。


「知りませんわね。悪役令嬢の素質もない子供など」


 お姉様たちが連れて行かれる。

 本能的に、私の足が動きだす。


「リシオン姉様!!」


「フユリン、ごめんなさい、私のせいで」


「お姉様行かないで!!」


「親戚の叔父様がきっと助けてくれるわ。だから諦めないで、生き延びて」


 お姉様を抑える配下たちは、私がお姉様を抱きしめることすら許さなかった。


「フユリン、あなたは強い子だから」


「嫌だ!! 行かないで!!」


 お姉様たちが馬車に押し込まれる。

 私からすべてを奪った女が、私に問う。


「あなた、いくつですの?」


「は、八歳」


「ふふふ、八歳の子供を野に放り投げるなんて、まさに悪役。それでも最後はハッピーエンドが約束されているのだから、悪役令嬢は最高ですわ〜!!」


 マリアンヌも馬車に乗り込み、やがて何もかもが私の前から消え去った。





 魔法歴〇〇八一年。

 世界は、悪役令嬢協会が支配していた。


 とある学者が発表した、『悪役令嬢は幸せになる確率が高い』というバカみたいな論文のせいだ。


 踏み台にされる悪い令嬢のことを、悪役令嬢と呼ぶらしい。

 そんな、かませ犬でしかないはずの悪役令嬢が、一時を境に次々と幸福になりはじめたのだ。

 理由は不明。


 いつしか、発表された論文は『彼女たちは神に選ばれた存在だから』と、宗教要素を取り入れて、適当なロジックへと歪曲されていった。


 神に選ばれているから従わなくてはいけない。

 自分も幸福のおこぼれをもらうために、従わなくてはいけない。

 単純に、権威に逆らうのが恐ろしい。


 そうやって、悪役令嬢たちは、時に一国の王すら動かす特権属性へと押し上げられていったのである。


 だが、それがいけなかった。

 権威に目が眩んだ女たちが、自主的に悪役令嬢を名のり、組織を作り上げたのだ。


 悪人であることに誇りを持ち、善人であることを蔑むようになった。


 やがて、かつて存在していたような、突然人が変わったように優しくなった者や、周囲に性悪だと勘違いされていただけといった、悪人とは言い難い善なる悪役令嬢は、消えていったのである。





 世はまさに、大悪役令嬢時代。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき


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