第四話 寮規則違反
今までは23時に寝て6時30分に起床するなんて生活は出来なかったが、ここにきてしっかり寝て起きてができていることに警察学校の矯正力を感じた。
既に壮絶なところだと思っているが、それでも朝はやってくる。
当直教官のアナウンスが鳴る。
「起床、起床、6時30分起床」
「本日の点呼はグラウンドで行います」
先輩期も含めて全学生がグラウンドに出る。
そこで、全員揃っているかの点呼を行う。
僕たちが居る寮は第16寮だった。
当然各寮に寮長がいるのだが、16寮では199期の大卒区分の先輩だった。
この先輩はムキムキ強面の方で戸田巡査という方だった。
点呼では当直教官に対して、名簿を渡し、敬礼した後、戸田巡査が申告をする。
「第16寮総員30名、事故なし、列外役員なし、現在30名!!番号!!」
というと3列横隊の前列が番号をかける
「ちぃ!にぃ!さん!、、、じゅう!」(何故か1はちぃ!といわないといけなかった)
までいくと3列横隊の縦にして10列目は一人欠けることになるので、1番左後ろの人間が
「けーつ!」(二人欠ける場合は「にけーつ!」)
と言う。
このような点呼が毎日行われる、僕は寮長の経験は無いので点呼後の集計はどうしていたのかは知らない。
その後、全国共通の警察体操をして、グラウンドを3周朝から走る。
ちなみに、顔を洗ったり口をゆすいだり出来なかった。
起床してそのままグラウンドだ。
先輩期はグラウンドを走るのだが、入校して走っても良いか悪いかの検査が終わっていない新入期生に関してはグラウンドを隊列を組んで歩くというものだった。
しかし、学校内の移動時のルールは3歩以上駆け足だ、訳が分からなかったが、そういうことらしい。
朝の点呼を済ませ、寮に戻り、朝ごはんを食べ、身支度を済ませ、制服に身を包み、自教場で行うことになっている朝会に向かう。(警察学校では学級の朝の会を「担任指導」という)
入校から1週間は原田指導学生に全部連れていってもらう。
校内を自由に行き来できず、売店にも行けなかった。
水分が簡単に取れず、全員ご飯のときに飲めるお茶で水分補給をしていた。
と、そんな小話は置いておいて、僕らは原田指導学生の引率の元、担任指導の時間を迎えた。
いつも通りの教官を迎え入れる流れ(※第1話参照)をして峰教官が教壇に立った。
峰教官が口を開く
「昨日消灯時間を過ぎて電気を付けてたやつ、立て」
教場内に緊張が走る、峰教官はさらに続けて
「こっちでわざわざ電気を消したったのに、電気をつけ直したやろ、舐めてんのか」
峰教官のこの発言で昨日のお化け騒動の辻褄がバッチリ合ってしまった。
学生からすれば最悪な辻褄の合い方である。
どうやら、寮教官室からはどの部屋が電気がついてるのかが分かるらしい、さらに、その部屋の電気も操作できるということがここで判明した。
心当たりのある昨日騒いでいた部屋員が立ち上がった。
佐々木巡査だ、本人は素直に
「すみません教官、昨日は洗濯物を干していて時間が迫っていることは分かっていましたが、突然電気が消えたので、焦ってお化けだと思い電気をつけ直してしまいました」
と述べた、峰教官は当然許すはずもなく
「あ?時間が迫ってると分かっていてそれか?警察官は先を見通せる力がないと話にならんぞ、やれる自信ないなら今すぐ退職するか?」
(警察学校は職業として警察官が任命されるため、学校を去る時は退校処分とは言わず、退職となる)
と厳しく詰める。
佐々木巡査は呆然と立ち尽くすしかできなかった、峰教官は
「お前みたいな黙りこくった警察官はいらん、どないするんや」
「まだ入校して間がないこともあるから、寮規則の書いたレジュメを4回写してこい」
各寮室には
「学生隊申し合わせ事項」
と言われる寮規則が細かく記載されたレジュメがある。
それを4回というのはA4紙に書き写しても、裏表で4枚ほど必要になる。
後々僕もやることになるのだが、時間にして約3時間ほどかかる。
これが警察学校の罰ゲームかと全員がこの時感じた。
すると、追い込まれた佐々木巡査を見た同部屋員が全員立ち上がり、その一人、近山巡査が声を上げた
「すみません、教官、同じ部屋員なのに注意できなかった僕らにも責任があります」
「もし、彼が学生隊申し合わせ事項を書き写すなら僕らにもやらせてください」
と言ったのだ。
これが、峰教官の心を打った、峰教官は
「そうか、それなら考えよう、警察は組織で動く連帯的に責任が取れる、仲間を想う、強い警察官になって欲しい」
「今回の件は近山が勇気を出して仲間を庇った、このことについては評価するべきだと感じた」
と述べた。
近山巡査の勇気ある行動により、佐々木巡査は首の皮一枚繋がった。
これから先、寮規則違反については度々登場することになる。
これで担任指導の時間は終わった。