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第二話 入校式の練習

僕らは、腕立ての姿勢のまま、峰教官の怒号に耐える。


「お前ら!警察学校には警察官になりに来たんやろ!」


「ちょっとこれぐらいとか、そんな気持ち捨てろよ!」


と、ここでは甘さが通じないと言わんばかりの鬼パワハラ。

当然、警察学校では通常運転。

この段階で学級員全員が何故怒られているのか全く理解していない。



各学級には担任教官(警部補)とは別に副担任の助教官(巡査部長)も存在している。

峰学級では、山田助教官が副担任だ、女教官でものすごく事細そうな見た目をしている、その助教が口を開く。


「あんたらなんで怒られてるか分かってるか?」


「さっきあんたら、椅子の背もたれ使ったやろ、それが気抜けてる言うてるんや!」


「あんたらにここのルール教えといたる」


「1つ目は、移動は3歩以上駆け足、2つ目はカバンは左手で持て、3つ目は椅子は浅く座れ」


「その他は峰教官から伝えられる、寮内の寮規則について、各部屋にルール本があるそれを参照しろ」


との指示を受けた。

更に続けて峰教官が僕らに言う


「お前らが俺か山田助教以外に指導された時には、どんな些細なことでも誰々教官に指導を受けましたという指導報告に来い」


と指示を出す、ここまでの間、学級員はずっと腕立ての姿勢のままだ。


時間にして約20分程か、そろそろ限界だと全員が思い始めた時、峰教官は容赦なく僕らに絶望を与えた。



「いーち!、にー!、さーん!」



普通に腕立て伏せが始まった。

全員死にそうな顔をしながら必死で回数を重ねる、結局この腕立ては60回まで続いた。


なにを隠そう、当然女性も同様の扱いだ。

女性だから回数が減ることはない、これが女性が警察学校を卒業するのに困難を極める理由だ。


普段から筋トレをしている学級員、甲子園経験者、自衛隊出身の者もいたが極限のストレス状態の中、20分間腕立ての姿勢のまま、さらに60回の腕立て伏せともあれば全員が限界だった。


初の教場で早々に警察学校の洗礼を受け、全員がこれから先やって行けるか不安を隠せなかった。


入校から1週間後に入校式というものがある、入校式に至るまで、警察官に向いてない人間をふるいにかけるため、理不尽なことでかなり、かまされる。


理由はそれぐらい怒られてもへこたれない気持ちがないと市民に言われもないことを言われて真に受けてしまうようではやっていけないからである。


その入校式に向けて準備が行われる。

講堂と言われる場所で、入校式の練習をするのだが、支給された制服を丁寧にアイロンをあて、シワひとつない状態に仕上げなければならない。


原田指導学生が先輩の意地を見せて、男性学級員分を仕上げてくれた。

僕らは全くやり方が分からなかったので、見学も兼ねてやって貰った。

ただズボンに関してはベルトの位置から一番下までキレイにプレスを当てなければいけない。

これが原田指導学生であってもミスしてしまうほどに難しい。


入校の練習当日、教場で早々にかまされたのをきっかけにサボってはヤバいと感じた学級員。


ほとんど全員が朝4時に起きて、アイロンを当て始める。


「こんな時間に起きたん魚釣りの時以来や」


とくだらない話を部屋員ともしながら準備を進める。


通常、この時間の起床と言うのは寮規則違反なのだが、この1週間に限っては暗黙の了解で許される。

理由は単純で入校式に仕上げてこいという教官からのメッセージでもある。

そのまま朝を迎え、第200期の4学級が講堂に集まった。



講堂内には教務一科と言われる警察学校内の部署に所属する教官が10名ほどいた。

当然修羅場をくぐってきた精鋭の警察官達だ、練習が始まる前から禍々しい雰囲気を出している。

その中で入校式の練習が始まった。

入校式を仕切る教官が号令をかける。



「気をつけ!!」



やはり突然始まると何名か、タイミングが合わず、出遅れだやつがいた。


すると、教務一科の教官が見逃さず



「なんやこらぁーー!、舐めてんのか!」



タイミングが遅れた学生に詰め寄っていき順番に外につまみ出されて行った。


この段階で今日の練習には参加が出来ない。


練習の風景も見ることが出来ず、真っ暗な講堂の隅で2時間気をつけである。

これがこの警察学校で度々登場する、


「列外」


と言われるものである。

このタイミングのズレで教官の怒りはMAXで、仕切る教官が口を開いた。



「お前ら立つのに椅子にケツくっついて立たれへんのか?お前らに椅子いらん、全員空気椅子や」



まさかの指示に緊張が走る。



「お?できひんのかお前らぁ!言われたらはよやらんかい!」



と各教官の怒号が飛び交う。

全員が思っただろう、


「え、令和の時代にまだこんなことやってるのか」

と。

だがここは警察学校、普通が通用しない。

続けて、気をつけ、休め、敬礼のタイミングを合わせるために何回も練習する。



その間もタイミングの遅れたやつ、見回っている教官にズボンにシワがあるとバレたやつ、どんどん外につまみ出され、列外となる。


初回の入校式の練習では列外になったのは全体の3分の2。


ほとんどが外で気をつけのまま終わった。


生き残った学生もたまたまで、次回列外にならないとは限らない。


終了後、落ち込んだ顔で、講堂を後にした。


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