25.邪魔なものは私が爆破します
無事にボスの打ち上げとその後の花火を見届けた私達は、周囲のモンスター討伐へと移行しました。
思えば今回のイベント中、私はほとんどモンスターを倒してないですし貢献ポイントもほぼゼロです。
既にイベント進行率は90%を超えているので、今からでは大して稼げないかもですが。
それでもやはり私としては先日のリベンジであることに意味があるんです。
「正面から3体。行ける?」
「はい!『ダイナマイトハンマー』」
ズドン!!
大振りの一撃が3体同時に吹き飛ばしました。
先ほどボスに繰り出した最後の1撃で武器が壊れてしまったので、今はベルンさんが持ってたウォーハンマーを借りて戦ってます。
「次、右後方から2体」
「『マインプレス』てりゃあっ」
ドスンドスンッ
ベルンさんが敵を1方向にモンスターを絞ってくれるので安心して攻撃に専念出来ます。
またボス相手にも使った、武器に爆弾を貼り付けて攻撃するやり方は、小回りも利いて威力も十分に乗ることが分かりました。
当然そんな事をすれば普通よりも多くMPを消費するのですが。
「はい、MP補給」
「ありがとうございます」
ベルンさんが出したMPの壁に飛び込むことで回復させてもらってます。
お陰で強力な攻撃を何発も使える訳です。
そうして気が付けば、イベントも終了の時間になりました。
「はぁ、はぁ」
「お疲れ様。ちょっと飛ばしすぎたかな」
「あはは、そうかもです。
流石に疲れたので今日はもう街に戻って落ちますね」
「うん、了解」
帰還スクロールで街に戻った私は宣言どおりすぐにログアウトして、そのままベッドに潜り込みました。
VRゲームは身体は動かしてないのに疲労感だけは残るみたいです。
それにしても今日は色々ありました。
元々は先日のお礼にお弁当をご馳走するだけの予定だったんですけどね。
そもそも私が男子と2人でお昼って時点でハードルの高いイベントなんですけど。
みやびさんも付いて来てくれれば良かったのに「馬に蹴られたくないからパス」って言って来てくれないし。
ただ、私以上に隔離くんが緊張していたので、私は落ち着いて話をすることが出来ました。
その隔離くんも緊張が解れて来たら普通に話をしてくれましたし、控えめというか落ち着いた雰囲気で話しやすく、ついつい相談事までしてしまいました。
相談に対して彼はすごくシンプルに、だけど核心を突いた言葉を私にくれました。
あの言葉が無かったら私はベルンさんにまたパーティーを組んでくださいってお願い出来なかったかもしれないです。
ただ。
驚いたのはその彼こそがベルンさんだったという事実です。
思い返してみればなるほど、初見の挙動不審から慣れた後の穏やかさ、ついでに好きな事になると饒舌になるところとか、確かに隔離くんとベルンさんは同一人物だったんだなって感じです。
無事にベルンさんと仲直りした後は、何故かまた掲示板に書き込みをして大勢を指揮することになるし。
あれはあれで楽しいのですけどね。
でもやっぱり姉御って呼ばれて担がれるのはちょっと恥ずかしいです。
ベルンさんが有名人だっていうのは薄々分かってきましたけど、私はその付き添いなだけで特に凄い事無いんですけど。
お陰で道中はいっぱいいっぱいで、どこをどう走ったのか覚えてません。
ボス戦で一番印象に残っているのはあれですね。
あの時限装置。
ドラマなんかでありがちな色違いのケーブルを切って爆発を止めるのかなと思いきや、そんなケーブルありませんでしたし。
刻一刻と迫るタイムリミット。
そんな極限状態の中、迷う私にベルンさんが「どうしたい?」って聞いて来てくれたのは嬉しかったです。
人によっては答えを提示して欲しいかもしれませんが、いざという時は責任は取るから信じた道を突き進めって背中を押してくれる方が私は好きです。
思えばみやびさんもその傾向がありますね。
いや彼女は押すというより突き飛ばす感じですが。
そして私がボスに対して最後に放ったのは爆弾の中でも最も危険で破壊力のある核爆弾。
使おうとしたところで、警告文が流れました。
『そのスキルは危険な為、安全装置が働きます。
安全装置が作動した場合、通常のスキル程度まで威力が落ちます。
任意で安全装置を解除できますが、その場合、自身や仲間へもダメージが通ります』
私の選択は当然、安全装置の解除。
ベルンさんが護ってくれるのを信じて私は全力の一撃を放ちました。
結果、私自身は無事でしたが武器は消滅していました。
咄嗟にベルンさんが護ってくれてなければ私も死に戻っていたでしょう。
我ながら無茶したなと思いますが、終わり良ければ総て良しって感じです。
そして、その後の掃討戦も楽しかったですね。
久々のベルンさんとの共同戦線です。
正月におばあちゃんの家でやった餅つきのように、杵を振るうようにモンスターを倒す私とお餅を返すようにモンスターを私の所に送り込むベルンさん。
あの息の合ったやりとりで時間を忘れてモンスターを倒し続けてしまいました。
といってもイベントの結果はそれほど大したこと無かったんですけどね。
なにせラスト10分くらいしかやってなかった訳ですし。
それでもやっぱり何度思い返してもとても充実した10分でした。
「明日からもベルンさんと一緒にプレイしたいな」
自然と口からこぼれたその言葉は紛れもない本心です。
今日の事でベルンさんとは無事に和解したので、明日からは以前同様にパーティーを組んでくれるはず、ですよね?
……あれ、よく考えれば今までって私がベルンさんのところに押しかけてパーティーを組んでましたけど、特に約束とかはしてませんでした。
今日はたまたま隔離くんと遊ぶ約束をしてたお陰で会えましたけど、明日の約束とか何もしてません。
折角隔離くんがベルンさんだと分かったのですし、明日キチンとお願いしに行くべきでしょう。
そうと決まればいつまでも布団の中でぼーっとしてないで明日に備えて寝ましょう。
そして朝。
教室に着いた私はカバンを置いてお隣の隔離くんの教室へ向かいました。
ただ他のクラスに入るのって勇気が要りますよね。
恐る恐る後ろの扉から中を覗けば隔離くんの姿がありました。
一緒に居るのは前田君でしたっけ。その彼が私に気付き隔離くんを送り出してくれました。
「えっと、おはよう」
あ、その顔はまたちょっと挙動不審モードになってるんですね。
ちょっとだけど彼の表情が読めるようになってきました。
ただ同時に周囲からの視線が大量に向けられている気がします。
思えば男子に会うために他のクラスにやってくるって、まるで付き合ってるみたいですよね。
そう考えるとちょっとどころじゃなく恥ずかしくなってきました。
ここは用件だけ伝えて退散しましょう。
「あ、その。昨日はイベント終わった後、そのままログアウトしてしまったので。
改めて今後もよろしくお願いします」
「うん。こちらこそ、その、よろしく」
「今日もエバテやりますか?」
「うん、そのつもり」
「じゃあまた一緒に遊びませんか?」
「分かった。楽しみにしてるね」
「あ……はい!」
彼の『楽しみにしてる』という一言に心臓がトクンと跳ねた気がします。
無事に用件を伝え終えた私は自分の教室に戻ることにしました。
「あら亜美、おかえり~。どこ行ってたの?」
「あ、みやびさん」
「って顔真っ赤だけどどしたの?」
「いえその、何でもないです」
「むむ、あやしい」
訝しむみやびさんを何とか誤魔化してその場は切り抜けました。
そして放課後。
帰宅早々にエバテにログインしたのですが、ベルンさんはまだ居ませんでした。
(そういえば待ち合わせ時間決めてなかった)
隔離くんは確か夕飯とかを自分で作ってるって言ってたので、約束が無ければ家事を済ませてからインしているのでしょう。
……それにしては早くから居る時もあるので、そういう日の夕飯はチャーハンとかすぐに出来る系なのでしょうか。今度聞いてみましょう。
ともかく、浮いた時間で街の散策でもしましょうか。
なんだかんだで主要な施設しか訪れてなかったですし。
(あ、この壁ベルンさんが出すウォールの壁に似てる)
石造りの塀を眺めたり指でなぞって感触を確かめたり。
何の意味もない塀に細かな質感や年季が表現されてるのって何気に凄い事ですよね。
石畳だって四角く色の違う部分があって、以前はそこに屋台とかが出てたのかな、なんて想像を膨らませるのも楽しいです。
「あ、あっちの水路、普段よりも水嵩がだいぶ減ってるのか水面より随分高い位置まで色が違います」
日照りが続いて水不足になると近所の川でも同じようになってます。
酷い時だと水位が低くなり過ぎて魚とかが水面に出てしまう時もありますよね。
『こんばんわ』
あ、ベルンさんからチャットが届きました。
どうやらログインしたみたいです。
『この後大丈夫?』
『はい、大丈夫です』
『じゃあ冒険者ギルドで待ち合わせにしようか』
『分かりました。今から向かいます』
短いやり取りを終えた私は冒険者ギルドへ、って気が付けば随分と遠くまで来てました。
小走りぎみに冒険者ギルドへ急ぎ中へ入ったところで私の耳に聞き覚えのある声が届きました。
「なんであなたがベルン様と同じ装備を着てるの!?」
「え、いや、それは」
声の方を見ればベルンさんがエルフの女性プレイヤーに詰問されている所でした。
ベルンさんは急な事で上手く言葉を纏められないみたいですね。
ベルンさんと日常会話をするならもっとゆっくり話し掛けないとダメですよ。
うーん、これは助け舟を出さないとですね。
「ベルンさん」
「あっ、リアミンさん」
「……だれ?」
私の呼びかけに振り向く2人。
ベルンさんはどこかホッとしたように、もう一人の女性は話に割り込まれてムッとしてる感じですね。
おふたりがどういう関係か分からないので落ち着いて行きましょう。
「そちらの方は初めまして、ですね。
私はリアミンと言います。
ベルンさんとはフレンドで今日も一緒にプレイする約束をしてました。
そういうあなたは?」
「わたしはミキティよ。
ついでに彼とはリアルでの知り合いよ」
ベルンさんの知り合いということは同じ学校に通っているのでしょうか。
もしかしたら私とも顔見知りかもしれません。
でもここで誰かを訊ねるのはマナー違反ですね。
「そうでしたか。それで、先ほどは何を怒っていたんですか?」
「彼の格好、というか存在そのもの?
あなたもこのゲームをプレイしてるならベルン様のことは知っているでしょう。
彼は名前だけでなく装備品までベルン様のパクリなのよ!」
「はぁ」
あれ、待ってください。
直接確認した訳ではないですが、ベルンさんって彼女の言うベルン様と同一人物ですよね。きっと。
だってあんな無茶苦茶な事をする人が2人も3人も居るとは思えませんし。
他の人達が時々彼の事を様付けで呼んでいたので間違いないと思います。
なのにこの言い草。
……もしかして気付いてないんでしょうか。
それと私、さっきの怒鳴り声で気が付いてしまいました。
この人があの始まりの日にベルンさんに『鬱だ氏のう』って言わせた人です。
ならば遠慮はいりませんね。
「リアルでどういうお知り合いかは知りませんが、彼がどういう装備をしているかは彼の自由だと思います。
変な言いがかりで彼を糾弾するなら迷惑クレーマーとして運営に通報しますよ」
「なっ!?」
「さあ行きましょう、ベルンさん」
「え、あ、うん」
ちょっと強引にベルンさんの腕を引っ張って外へと出ました。
後ろからさっきの女性の怒鳴り声が聞こえますが無視です。
しばらく歩いたところで私は手を離して振り向き、ベルンさんに頭を下げました。
「ごめんなさい。強引に連れ出してしまって」
「ううん。大丈夫。
リアミンさんはきっと僕の為に怒ってくれたんだよね」
そうと言えばそうな気がしますけど、正直なところ私がムカついたからなんですよね。
「お友達が悪く言われたら怒るのは当たり前ですよ。
でも、さっきのことでベルンさんが後であの人に何か言われるんじゃないですか?」
「いや、まあ多分大丈夫。(工藤さんにはもう嫌われてるし)」
「何か言いました?」
「ううん。それより今日は何したいとかある?」
「そうですね……」
昨日はイベントでバタバタしていましたので今日くらいはのんびりしたいです。
「戦闘は無しの方向でお願いします」
「ふむ……じゃあ急流下りとかどう?」
「急流下り、ですか」
このゲームにはそんなアトラクションスポットがあるんですね。
ベルンさんは1期生だから私がまだ行った事のない色んな場所を知っているのでしょう。
急流下りはリアルでもやったことないです。
いつか長期休暇の折に家族でやってみたいなと思っていました。
「いいですね。行きましょう」
「よし、じゃあ余り時間が無いかもなので急ごう」
「は、はい」
時間が無いって何でしょう。
ともかく楽しみです。
「あ、念のため掲示板に書き込みしておこうか」
「掲示板、ですか」
なんでしょう。
物凄く嫌な予感がします。
その予感は、すぐに現実のものとなるのでした。
「きゃ~~~」
「ほらリアミンさん次だよ次」
「はい。爆破!!」
どっか~~ん
私はベルンさんが用意した筏に乗って、昨日までのイベントの大雨で増水した川を下りつつ途中を塞ぐ倒木や瓦礫を爆破して行くのでした。
確かに、戦闘はしてないですけど、これはこれで大変です。




