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24.君を護る壁になる

 ボスが地上に落ちた瞬間、まるで火山が噴火したかのような大爆発がボスを包み込む。

 あまりの威力にボスの巨体が浮き上がる程だ。


「すげぇ」

「あれがベルン様の弟子の力かぁ」

「俺達でもあれくらい出来るようになるのか?」

「あっちは2期生なんだから、レベルやステータスは俺達のが上だよな」


 周囲から感嘆の声が上がるのを聞いてるとちょっと誇らしい。

 それと爆発のエネルギーに比べて周辺への被害がほとんど無いところも注目して欲しい。

 どうやらすべての爆発が上方向になるように調節したようだ。

 ……今のリアミンさんなら高層ビルの爆破解体とかも出来るかも。


「ベルン様。

 俺達ここからじゃ魔法が届かねぇ」

「そうだった。

 みんな今から高度を落とすから少しだけ待ってて」


 僕は慌てて足場にしていた風壁の高度を下げていった。


「おお、まるでエレベーターだな」

「これが出来るならわざわざ駆け上がらなくても上空に来れたんじゃないか?」

「いや持ち上げるのと降ろすのだと必要なエネルギーが違うから」


 自分一人ならともかく、1000を超える人達を持ち上げるのは今の僕のINTでは無理だ。


「地上から50メートルの所で止めます。

 これ以降の攻撃は自由にして良いですが、間違っても地上のプレイヤーを攻撃しないように注意してください」

「「はい!」」


 降下が完了すると共に大量に打ち出される色とりどりの魔法。

 同じ火でも赤い火もあれば青い火もあるし緑の火も、って炎色反応?

 火以外でも色も形状も異なる魔法が飛んでいく様はなかなかに綺麗だ。


「よっしゃあ!タコ殴りだぜ」

「一方的に攻撃出来るの楽し〜」

「あ、おい。雑魚モンスターを忘れるなよ」

「へっ、ここまで来て誰がそんなミスどわぁ」

「だから言わんこっちゃない」


 僕は攻撃魔法を撃ちまくるみんなを一歩下がった所から眺めていた。

 なんかちょっと不思議な感じだ。

 以前の僕だったら全部一人でやってたと思う。

 各種スキルの相乗効果を発揮させるにはその方が楽だし。

 でもリアミンさんと一緒に活動することを通じて、みんなでやるのもそれはそれで楽しいと思えるようになってきた。


「ベルン様〜、見てください。私の全力です!」

「おぉ、なかなか派手だね」

「ベルン様、こっちも〜」

「はいはい」


 何故か僕にアピールしてくる人達が居る。

 ただ、どれも派手で格好良いんだけど、実用性に欠けてる気がする。

 まあ本人が気に入ってるなら良いだろう。

 スキルはイメージ次第で見た目も効果も大幅に変わる。

 だから厨二病チックなスキルだって実現は可能だ。

 お陰で頭の硬い大人よりも子供のほうがスキルの扱いに長けてたりする。


 それにしても。

 ボスに動きが無いな。

 もちろん今も浮上しようとしながら群がるプレイヤーに反撃してるけどそれだけ。

 ボスなんだから第二形態になったり、中から本体が飛び出してきたりしても良いと思うんだけど。

 そうやって皆から一歩離れて観察していたお陰で僕はいち早く異変に気が付いた。

 それまで僕同様に休憩してたリアミンさんが急に走り出したんだ。


(あれは何かあったな)

「みんな、後は任せます!」

「はい。って、ベルン様!?」


 僕はみんなを乗せた風壁をそのままに、ひとり飛び降りた。

 地上50メートルからの紐なしバンジーはなかなかにスリリングだけど、落下先に風壁を用意して速度を落としつつ着地する。


「親方。空から野郎が」

「いや誰得だよ、それ!」


 なんかありがちなネタをやってる人達が居たけど無視。

 それよりリアミンさんは……居た!

 ボスの下に潜り込んでる。

 確かに今ならボスは2メートルほど浮いてるから良いけど、みんなの攻撃で浮いたり沈んだりを繰り返してるから、最悪潰されるんだけど。


「『ウォール』」


 壁魔法で支柱を立てつつリアミンさんを追う。


「リアミンさん、何があったの?」

「あ、ベルンさん。これを見てください!」

「これ?」


 慌てた様子のリアミンさんだけど、指差した先、ボスにはこれと言って気になる部分はない。


「何か変わったところがあるの?」

「え、見えてないんですか?」

「んん?」

「デジタルタイマーみたいなのがあるんですけど」

「うん、見えないね」


 僕には見えないけど、リアミンさんが嘘を言うはずもない。

 ならリアミンさんにだけ見える何かがあるのだろう。


「それでタイマーはなんて?」

「あと2分足らずで0になります!」


 どのタイプだ?

 0になると何かが起きるのは間違いないけど、変身するのか必殺技を出すのかとにかくあまり良くないことが起きることだけは間違いない。


「リアミンさんは何だと思う?」

「時限爆弾なんじゃないかと!」


 うん、その可能性もある。


「それでどうしたい?」

「って、私が決めるんですか!?」

「もちろん」


 何がキーだったかは分からないけど、リアミンさんにだけ見えるなら、これはリアミンさんのイベントだ。


「えっと、導線も見えないので力尽くで止めたい、って有りですか?」

「良いんじゃない?」

「殴った瞬間、爆発したりしませんか?」

「するかもだけど、その時はその時だよ。

 大丈夫、何が起きても僕が君の壁になって護るから」


 僕の返事を聞いて、一瞬ビクッとしたリアミンさんは、次の瞬間には覚悟を決めた芽でボスを睨みつけた。


【緊急連絡:ボスから離れて!】


 掲示板に書き込みしたけど、どこまでの人が読んで反応してくれるか。

 もう30秒と無い筈だからもうそっちを気にする余裕もない。


「ベルンさん、行きます!」

「OK!」

「『ダイナマイト・インパクト』!」

ガッ、ズドン!!


 リアミンさんの振り上げたメイスがボスにぶつかった瞬間、接触面で爆発が起きた。

 なるほど、メイスの先に指向性の爆弾を取り付けてボスに攻撃したのか。

 これなら打撃スキルと爆弾スキルが相乗効果を発揮して威力が何倍にもなる。


「リアミンさん、どう?」

「だめです。タイマー止まりません」

「1回で無理なら10回でも20回でも時間の許す限りやってみよう」

「はい!

 でりゃあぁ!!」

ドッカン、ドッカン。


 二度三度と打ち込むも止まらないようだ。

 そこでふと、悔しそうに歯を食いしばってたリアミンさんが僕を見た。


「あのかなり危険なのを試しても良いですか?」


 この期に及んで確認するっと相当だと思う。

 けど僕の返事は決まってる。


「もちろん。やっちゃって」

「ありがとうございます。では、

核爆弾プルトニウム』」

カッッッ!!!


 それはもはや爆発というより閃光。

 突如発生した太陽を前に、僕はありったけの防壁を展開した。


(くっ、リアミンさんでこの威力とかやばいな)


 まだレベルも練度も低いリアミンさんだからこそ抑え込めたけど、そうじゃなかったらこの一帯が更地になってたかも。

 その直撃を受けたボスはというと、遥か上空、数百メートルに打ち上げられていた。

 反動で仰向けに倒れ込んだリアミンは目を回していた。

 慌ててHPとMP回復を施しながらどうなったか聞いてみた。


「リアミンさん、起きて。カウントはどうかな。消えた?」

「……はっ。はい。えっと止まってません!

 あぁあと3秒……2……1」

ドーーン!

 

 僕らが見上げる先で、ボスが大爆発した。

 そしてその巨体が砕け散り。


パッ。パッ。パッ。パラパラパラ。


 いつの間にか雨の止んだ空を大輪の花火が彩った。

 これには僕等だけでなく、このイベントに参加した誰もが戦う手を止めて見上げていた。


「綺麗〜」

「た~まや~」

「運営も粋なことをする」

「おいあれ!」


 花火と共に上空の雲に文字が浮かび上がった。


『Welcome to the world!』


 『ようこそ、この世界へ』って。

 もしかしてこのボス、最初からこの為に用意されたギミックだったのか?

 それを無理矢理僕達が地上に叩き落としてタコ殴りにしていたと。

 一歩間違えれば地上スレスレで花火が爆発してたのかもしれないな。

 ちなみにこのゲームでは英語は出てこないので、NPCからは変な模様だなとしか思われないだろう。

 突然の事に驚いたけど、まだイベントは終わってないし、まずはリアミンさんに手を貸して起き上がらせる。


「リアミンさん、お疲れ様」

「あ、はい。

 こんなサプライズがあるんですね」

「これは僕も初めてみた。

 サプライズというか、運営のいたずらって気がするけど」


 多分だけどこれ、賛否が分かれるぞ。

 人によってはこの世界をゲームではなく、完全に別世界だって思ってプレイしてるんだから。

 ま、クレーム対応は運営に頑張ってもらおう。


「それでこれからどうしようか。

 ボスは居なくなってもイベント自体はまだ終わってないし」

「そうですね。

 ではリベンジマッチと行きませんか?」


 周囲の敵のレベルはお誂え向きに60前後。

 僕らが最後に一緒にプレイした時の強さだ。


「うん、いいね。

 僕らが力を合わせれば無敵だ」

「はい!」


 ボスをぶっ飛ばしてちょっとハイになった頭で僕らは周囲のモンスターを討伐するのだった。


…………


 そして翌日。

 僕は頭を抱えていた。


「おい隔離。どうしたんだ?」


 僕の様子がおかしいのに気付いた前園が声を掛けてきた。


「まさか昨日のランチデート、上手く行かなかったのか?」

「いやデート違うし!」


 何を言うんだ。

 デートなんて畏れ多い。

 風祭さんもただちょっとお礼がしたかっただけで、そんな積もりは微塵も無かっただろう。


「じゃあ風祭さんとは何もないのか?」

「いや無いわけじゃないんだけど」


 単純にお弁当をご馳走になってエバテを一緒にプレイしたってだけならそこまで問題ではなかった。

 だけど風祭さんがリアミンさんで、僕の無鉄砲ぶりを見られてたと思うとかなり恥ずかしい。

 いや今更とか言わないで欲しい。

 1日経って改めて思い返すと、うわぁとなるんだよ。

 言い淀む僕から何を読み取ったのかは分からないが、前園がしたり顔で頷いた。


「ふむ。よく分からんが、リア充爆発しろ案件なのは分かった」

「いやどうしてそうなった」

「ほらあれ」

「ん?……あっ」


 教室の後ろの扉から教室内を覗き込んでいた風祭さんと目があった。

 更に小さく手を振ってる。


「ほら、さっさと行って来い」


 べしっと背中を叩かれた僕は慌てて風祭さんのところへと向かった。


「えっと、おはよう」

「おはようございます」

「何かあった?」

「あ、その。昨日はイベント終わった後、そのままログアウトしてしまったので。

 改めて今後もよろしくお願いします」

「うん。こちらこそ、その、よろしく」


 どうやらそれを言うためにわざわざこっちの教室に来てくれたらしい。

 律儀な人だな。


「……げっ」

「「……」」


 後ろを振り向けば好奇心と嫉妬が入り混じった視線が大量に向けられていた。

 いやだからそういうのじゃないから。

 ただ幸いにもクラスメイト全員から詰問されるって事はなかった。

 良くも悪くも、普段余りみんなと話したこと無いからね。

 若干居心地は悪いものの僕は自分の席へと戻った。

 だから前園。

 にやにやしてるとこ悪いけど何もないから。


 そして今日も家に帰った僕はやること済ませてエバテへとログインした。

 リアミンさんも既に来ていたので冒険者ギルドで合流しようとチャットを送った。

 そこまでは良かったんだ。


「ねぇ、ちょっといいかしら」


 気が付けば冒険者ギルドで待つ僕の前に、何故かミキティさんが仁王立ちしていた。



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