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2.変な人を見つけてしまいました!

お読みいただきありがとうございます。

今回の作品は

主人公視点→ヒロイン視点→その他視点(掲示板)の3話構成となっています。

基本的には同時間帯または連続した時間帯をそれぞれの視点で進めていきます。

第2話はヒロイン視点。


「鬱だ氏のう」


 そんな物騒な言葉が聞こえてきたのは、私がゲームをスタートして無事に冒険者登録を済ませてすぐの事でした。

 声の主はエルフの男性。

 背格好からして私と同い年くらいかな。

 雰囲気からして彼女にフラれてしまったとかそんなところでしょうか。


「わ、かわいそう」


 男性はそのままふらふらと冒険者ギルドを出て行ってしまいました。

 大丈夫かな。

 いや死にに行くって言ってるんだから大丈夫じゃないんだけど、ゲームの世界だから死んでも問題ない訳で、でも放って置くとそのまま首吊りそうっていうか消えちゃいそうっていうか、とにかく放っておけません!

 そう思った私は慌てて彼の後を追ってギルドを出ました。


「えっと、居た!って、もうあんな所に!?」


 ついさっき出ていったはずなのに、もう数百メートル先に居ました。

 私もすぐに追いかけますが人混みのせいで中々近づけません。


「お、ねえねえ。君2期生の新人でしょ?良かったらサポートしてあげるよ」

「すみません、今急いでるんです」


 途中何度か知らない人から声を掛けられたけど今はそれどころじゃありません。

 というか、私の今の姿を見てそんなことも分からない人と一緒に行く気はありません。

 どいてください。彼を見失ってしまいそうなんです。

 邪魔が入ったせいで結局街の外に出るまで彼に追いつくことは出来ませんでした。


「なんでこんなに速いの?」


 死のうとか言ってる人が全速力の私より速く動けるとかおかしい気がしてきました。

 私の種族は鬼族なので同じレベル1なら身体能力はこっちの方が上の筈なのに。

 実は死ぬ気なんて全く無いんじゃないかな?

 今だって危険なモンスターが沢山いる林の中をスイスイと進んでいくし、どういう訳か襲い掛かって行くモンスターは彼に辿り着く前に上から降って来たレンガみたいなのに叩き潰されて倒されて行きます。

 あれは土魔法の一種でしょうか。

 いくらエルフでも私とおなじ初心者装備の彼ではすぐにMP切れを起こすはずなのに、そんな様子が一向に見受けられません。

 一体何者なんでしょうか、彼は。

 っと。突然立ち止まりました。

 かと思ったらこちらを振り返って、ぶっきらぼうに問いかけてきました。


「あの、何か用、ですか?」

「いや用って言うか」


 えっもしかして私に気付いてたんですか?

 死ぬのを止めに来たんですけど、落ち着いて考えてみれば私って街から彼をつけてきたストーカーみたいな状態です。

 私だったら絶対怪しい人だと思って距離を置くか仕掛けられる前にこちらから反撃するところ、がまさに今ですね。

 さっきから視線を合わせてくれないし絶対怒ってますよね。


「この先はその、ボスが居るから、その装備で勝つなら相当なプレイヤースキルが必要、ですよ」


 あれ、怒ってはいない?

 むしろ私の心配をしてくれてるのでしょうか。

 というか待ってください。装備云々で言うなら彼も私と同じ初心者装備です。

 やっぱり最初から死ぬ気なんでしょう!


「装備ならあなたも同じじゃないですか」


 折角心配してきてあげたのにちょっぴりカチンと来てしまいました。

 ストーカー云々考えてたのも考えすぎだったみたいです。


「そもそもあなた。

 冒険者ギルドで『死のう』って言ってたの聞きましたよ!」

「うわ、聞かれてたんだ。だめだやっぱ死のう」

「だからゲームだからって自殺は良くないと思うんです」

「自殺が良くない、か。ん~、なら君が殺してくれる?

 あ、PKer(プレイヤー殺し)になるのが嫌なら、その、決闘って形でも。

 僕からは攻撃しないから」

「あーもう、だから死ぬことから離れてください!」


 はぁ、はぁ。疲れてきました。

 さっきから小さい声でぼそぼそと。男の子ならもっとシャキッとしてください。

 しかしどうしましょう。

 死のうとしている人に赤の他人が死ぬなって言っても説得力がないみたいです。

 彼は死にたい。でも私は死なせたくない。

 言葉だけじゃ意味が無いなら何か対価が必要でしょうか。

 今ここで賭けられるものと言えば何があるだろう。

 私はまだこのゲーム始めたばかりで街の外に出たのもこれが初めてです。

 当然金銭的なものはほとんど無いし装備だって初心者用のものがあるだけ。

 他にあるとすれば……これしかないか。


「分かりました。なら私がボスを倒してきます。

 そうすればあなたはボスで死ぬことが出来なくなるでしょう?」

「いや、え、どうして? 確かにここのボスのリポップ間隔は長いけど」

「知りません。とにかく退いてください。邪魔です!」


 彼を左手で押しのけつつ林の奥へと一歩踏み出しました。

 その途端、全身が光に包まれ先ほどよりも木の間隔が広い場所へと飛ばされました。


『隠しボスフィールドへ侵入しました。参加人数2名』

「え?」


 隠しボス?それに2名って。

 隣を見れば先ほどの男性が困った顔で立っています。


「えっと、なんで?」

「君が僕の服を掴んでるから、じゃないかな」

「あっ」


 言われてみれば押しのけるときにちょっと掴んでました。


「本来ならこういうボスフィールドってパーティー組まないと一緒に入れないんだけど、手を繋いでたりすると臨時パーティーみたいな扱いになっちゃうからさ」

「そ、そうだったんですね。知りませんでした」

「僕は元々戦う予定だったから良いけど、君は良いの?

 というか、なんて呼べば良い、かな? 僕はベルンだよ」

「リアミンです。ってそんな呑気に挨拶してる暇あるんですか?!」

「うん。今はボス登場シーンだからあと22秒は安全だよ。ほら。

 このゲーム、専用フィールドに出てくるボスは決まって移動に20秒~30秒くらい掛かるんだ。

 その間、攻撃されることは無いし、こっちも直接ボスに攻撃は出来ないんだ。

 パーティー戦ならこの時間を利用して陣形を組んだりバフを掛け直したり出来るよ」


 最初はたどたどしかった彼ですが、慣れて来たのか普通に会話になってきました。

 視線もはっきりしてきましたし、こっちが本来の彼の姿なんでしょうね。

 それはともかく、彼の指す向こうから全長3メートルを超える白い虎が走ってくるのが見えました。

 どうやらあれがここのボスって事らしいです。


「それでリアミンさんは僕と違って死にたい訳じゃないよね?」

「勿論です。じゃなくて私はベルンさんも死なせたくないんです!」

「うーん、そうか。仕方ないなぁ」


 呑気に頭を掻くベルンさん。

 その姿からはまるで死相が見えません。


「あの、もしかしてベルンさん。

 初心者装備だけど凄い高レベルだとかですか?」

「ん?えっと、今のレベルはまだ4だ。……おかしいな。てっきり20は超えてると思ったのに。

 リアミンさんは?」

「私はまだ1です。というか戦うのこれが初めてなんですけど」

「そっか。何かスキルはある?」

「スキルはえっと確か1つ2つあったはずです」


 このゲームは初期設定でスキルを憶えられる仕様ですから。

 言われてステータスを確認してみれば。


基本情報:

 名前:リアミン

 種族:鬼族

 職業:なし

 レベル:1

 HP:70

 MP:40

 POW(力強さ):17

 VIT(耐久力):16

 INT(魔法力):17

 MND(精神力):7

 DEX(器用さ):6

 AGI(素早さ):17

 LCK(運命力):10


一般スキル:

 強打レベル1

 爆弾魔法レベル1


固有スキル:


称号:


極端にMNDとDEXが低くてそれ以外が高め。

つまり魔法も使えるけど不器用なパワーファイター。それが私のステータスです。

スキルにあるのは強打と爆弾魔法。

まだ使った事は無いからよく分からないけど攻撃に使えるスキルだとは思います。


「えっと、強打と爆弾魔法っていうのがあります」

「強打はともかく爆弾……爆発系のスキルだね。うん。なら十分ダメージが通るな。

 よし、僕が壁になってあいつの足止めをするから合図をしたら爆弾をあいつの口の中に放り込んで」

「わ、分かりました」


 まるでちょっとそこまでお使いに行くから籠持ってってくらい軽い感じで言うベルンさん。

 でもボスだと言うんだから強いんじゃないでしょうか。

 エルフで初心者装備のベルンさんじゃあボスの爪が掠っただけで死んじゃいそうです。


「ガルルルッ」

「さあ来るよ。と言ってもまずはのんびり見てて」

「え、えっと」


 そうは言うものの私は急ぎ自分の装備の初心者メイスを右手で構え直します。

 この武器でボスに勝てる気はしませんが、やるだけやりましょう。

 何より今は私一人じゃないんですから。


「グルァッ」

「きゃあっ」


 力強く飛び掛かってくるボスに思わず尻餅をついてしまいました。

 無理無理無理!

 ゲームとは言えあんな大きな獣が襲い掛かってきたら怖くて動けません。

 ベルンさんが爪なら私はあの大きな口でひと吞みでしょうか。

 でもボスが私達のところに辿り着くことは出来ず。


「『ウォール』」

「ギャインッ」


 突然ボスの目の前に1辺が1メートルくらいの巨大な岩が現れました。

 ボスが避けられずにその勢いのまま衝突してしまいました。

 しかも角の部分におでこをぶつけて痛そうです。

 って、今のは一体。


「今のってベルンさんがやったんですよね?」

「うん。僕のスキルは壁魔法。任意の場所に任意の壁を生み出す事が出来るんだ」

「壁、ですか」

「まだ検証中だけど大きさや質量に比例して消費魔力も大きくなるみたいだね」


 さっきの岩は空中に出現しましたけど、壁なんですか。

 出現したところから重力に従って地面に落ち、る前に消えました。

 なるほどスキルだから出すのも消すのも自由なんですね。


「さて、悪いけど僕はお前が立ち直るのを待ってなんてあげないよ。

 『ウォール』『ウォール』『ウォール』『ウォール』」


 ベルンさんがスキルを唱える度に空中に岩が2つ生み出されます。

 あ、今度はレンガくらいの大きさですね。

 ここに来る途中のあれはやっぱりベルンさんの仕業だったようです。

 更に岩は何かに押されるように重力以上の速度でボスに降り注ぎます。

 それが狙い過たずボスの後ろ足、それも小指に突き刺さっていきます。


「ギャインギャインッ」


 あまりの痛みに転げまわるボス。

 うわっ。あれは見てる方が痛いです。

 続いて2発。今度も後ろ足の膝関節に落ちていきます。

 なんていうコントロール力。


「獣系のモンスターは最初に機動力を奪うのが鉄則だよね」

「そ、そうかもですけど」

「このゲームは部位欠損判定がちゃんと働くから足を集中して攻撃すると立てなくなるんだ。

 あ、もちろんモンスターによってはすぐに自然回復したりするから一度破壊すれば勝ち確定って訳じゃないんだけどね」


 分かってても出来るとは限らないと思うんですけど。

 そう言ってる間にも執拗に後ろ足に岩が落ちていきます。

 時々真っ赤に赤熱した岩も。あれも壁なんですか?

 ボスはもう満足に立つことも出来ずに恨めしそうにこちらを睨んでいるだけ。


「それよりそろそろ爆弾魔法を準備して。あ、1つに全MPを注ぎ込んで最大出力で」

「えぇ~」


 弱い者いじめをしてる気分になってきました。

 これじゃあ完全にこっちが悪者って感じがします。

 でもやらないとやられるだけですし、そういうゲームなんですよね。

 仕方なく私は爆弾魔法スキルを起動して、爆弾を、えっと、こうかな。言われた通り全魔力を使用してっと。

 ちょっと手間取りつつも無事に私の手元にはボウリング玉サイズの黒い球体に導火線が付いた見るからに爆弾が出来ました。

 親切に側面に【爆発まで残り30秒】って書いてあります。見た目に反してデジタル式なんですね。


「『ウォール』」

「グアッ」


 私が爆弾を作っている間にボスの両前足には大きい岩が乗っかり、口をこじ開けるように口の中にも岩が突っ込まれてます。


「さあ、今のうちにその爆弾をあいつの口の中に入れて来て」

「は、はい」


 私は動けなくなったボスに爆弾を恐る恐る咥えさせて急いで離れました。

 すると口の中の岩が消えてボスの口が閉じられると爆弾はボスのお腹の中へ。

 数秒後『ぼふっ』と音がすると共にボスの口から黒煙が吹き上がります。


「やっぱこれじゃあまだ死なないか。なら『ウォール』『ウォール』『ウォール』」


 止めとばかりにボスの頭上に逆三角錐の岩とその上に大きい岩。それらが何かに押し出されるようにボスに突き刺さりました。

 それが本当に止めになったようでボスは光になって消えてしまいました。

 あっけないです。


『隠しボス【ホワイトフォレストタイガー】の討伐に成功しました』

『隠しボス【ホワイトフォレストタイガー】の討伐最低レベルを更新しました』

『討伐報酬:白森虎の爪を獲得しました』

『討伐報酬:白森虎の毛皮を獲得しました』

……

『10秒後に通常フィールドに戻ります』


 なにか沢山アナウンスが流れましたけど、とにかく無事に生き残ることが出来ました。

 言って私がしたことなんて爆弾を1つボスの口に入れただけなんですけど。


「というか私居なくてもベルンさん勝てましたよね!?」

「うん。まあ攻略法は知ってたから」

「それなら死のうとか言っておいて死ねなかったんじゃないですか?

 ベルンさんの性格からして、思わず倒してしまったとか言い出しそうなんですけど」

「うっ、そうかも」


 短い付き合いですけどベルンさんの性格がちょっと分かった気がします。

 この人、つい出来ちゃったとか言ってトリプルA難度の曲芸とか平気でやっちゃう人です。

 そのうち気が付いたら一人で勝手にラスボス倒しちゃうんじゃないでしょうか。

 危なっかしい。

 この人をひとり放置してはいけないと私の中の何かが激しく警鐘を鳴らしてます。


「ベルンさん!」

「うん、なに?」

「当面の間は私とパーティーを組んでください」

「え、あ、当面というと?」

「少なくとも私がログインしている間はずっとです」

「ええ~」

「良いですね?」


 ジト目で睨みつければタジタジになって頷くベルンさん。

 さっきのボスと対面していた時の格好良さはどこに行ったんでしょうか。

 モンスターと戦ってる時は饒舌なのにふたりになると緊張してるのか上手く話せないみたいです。

 いったいどっちが本当の彼なんでしょうか。


「嫌じゃ、ないけど。僕なんかで良いの?」

「良いんです。今後はベルンさんが変な事をしようとしたら私が止めますから」

「う、うん。じゃあこれからよろしくお願いします」

「はい。こちらこそお願いします!」


 半ば強引ではありましたが、無事に約束を取り付けました。

 さて、疲れたし今日はもう終わりかな。


「じゃあ私は今日は街に戻ってログアウトしますから」

「うん。って街まで送るよ。この林はモンスター強めだから。

 多分今のリアミンさんの装備だと勝てないし」

「ちなみにこの林のモンスターの平均レベルって」

「20前後、かな。さっきのボスはレベル35だし」

「むしろそれで何で私達生きてるんですか」

「ん、このゲームさっきも言ったけど部位破壊あるし急所攻撃とかも通るから。

 ぶっちゃけ相性さえ良ければレベル差はあんまり関係ないんだよ。

 言い換えると相性が悪いとどう頑張っても勝てない、こともないけど」

「どっちなんですか。まったく」


 結局帰りはベルンさんにモンスターの倒し方をレクチャーしてもらいながら帰ることになりました。

 うー、急所攻撃ばかり教え込まれたんだけど私の性格変わっちゃったりしないでしょうか。



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