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19/26

19.言ってもなかなか伝わらないのが日本語です

 思いがけず隔離くんもエバテをやってることが分かったので今日のイベントを一緒に回ることになりました。


『じゃあ第2の街の冒険者ギルドで待ち合わせしよう』


 約束の時間は19時なので、私はお母さんにお願いして普段よりも早い時間に夕食を済ませてエバテにログインしました。

 時計を見るとまだちょっと早い時間です。

 天候は雨。ゲームの中でも雨って降るんですね。

 遠くから聞こえる喧騒はイベントに参加している人たちの声でしょうか。

 事前にネットで調べたところ、今回のイベントのメインと呼ぶべき時間は18時~22時。

 通達では20時頃にモンスターが到達するとありましたが、それよりも2時間くらい前からモンスターの撃退率ならびに王都の防衛率のカウントが始まります。

 18時を過ぎた今、メニュー画面を開くと表示されるそれらを見れば、既にモンスター撃退率が10%を超えているらしいです。

 私の今の実力だと最前線、は厳しくても第二防衛ライン? くらいは護れるはずです。

 ちなみにこの最前線とか第〇防衛ラインとかは明確に示される訳じゃなく、防衛対象に近い方がモンスターも弱くなる傾向があり、便宜上そう呼ばれているだけです。

 逸る気持ちを抑えて、まずはギルドで隔離くんと合流しましょう。

 それにしても。


「みんなが忙しくしてる中で一人のんびり椅子に座ってるのって居心地が悪いですね」


 ギルドの中はプレイヤーもNPCも忙しそうに動き回っています。

 でも生産系は何も育てていないので薬の製造とか手伝うのは無理ですし、下手に動けばかえって邪魔になるでしょう。

 なので大人しく座って待ってます。


(隔離くん早く来ないかな)


 その願いが通じたのか、ギルドの扉を開けて入ってくる男性プレイヤーが一人。

 ダークブルーに輝く鎧はどう考えても高性能な装備で、その人が1期生であることを示していました。

 その人はきょろきょろと店内を見回しながらこちらの方に近づいてきます。

 その視線がピタッと私の居る方向で止まりました。

 というかあれ? なぜか見覚えのある顔のような。


「リアミンさん!?」


 って、その顔でその声。もしかしなくても。


「あれベルンさん。どうしてここに?」


 装備が全然違ったから気付くのが遅れました。

 でも慌てた時に挙動不審になるところとか、最初に会った頃を思い出させます。

 もしかして私に会いに来たんでしょうか。


「えっと、僕は友達と待ち合わせをしてて」


 って違いました。

 心の片隅でちょっと期待していたみたいで、ちょっとがっかりしてしまいました。

 そうですよね。ベルンさん1期生ですし、私以外にもフレンドとか沢山いますよね。


「リアミンさん!」

「は、はい!!」


 気分が盛り下がったところで、突然大きな声で名前を呼ばれてびっくりしてしまいました。

 一体どうしたんでしょうか。


「先日は僕が油断したせいで怖い思いをさせて申し訳ございませんでした!!!」

(ええーーーーっ)


 え、なになに!?

 急にベルンさんが頭を下げたんですけど、何が起こったんですか???

 状況に全くついて行けない私に、ベルンさんは更に追い打ちと言わんばかりに、見ただけで凄いと分かる装備一式を私に差し出しました。

 一体何がどうなっているというんでしょう。

 説明を求めたいのですがベルンさんは装備を差し出した姿のまま、微動だにしません。

 周囲にヘルプを求めたくても、誰も彼もが見えない壁でもあるかのように少し離れた位置から固唾を飲んで私達を見ています。

 そして固まっていた私の姿を拒絶と受け取ったベルンさんは短剣を取り出しました。


「かくなる上は自害してこの命を捧げるしかないか」


 その言葉は私の頭の中でかつての『鬱だ氏のう』という呟きと重なり私を突き動かしました。

 もう何が何だか分かりませんが、死なせません。


「ちょっと待ってください!」


 怒鳴りつつ、ついでにメイスを取り出しベルンさんの持っていた短剣を弾き飛ばしました。

 呆気に取られてるベルンさんに問い質します。


「ベルンさん、いったいこれは何ですか?」

「何って、先日のやらかしに対する謝罪なんだけど」

「わたしベルンさんに謝罪されるようなことされた覚えがありません」

「ええっ!?」


 ええって驚きたいのはこっちです。

 ベルンさんは一体何の話をしているのでしょうか。

 どう考えても謝るべきは私で、ベルンさんが謝ることなど何一つありません。

 何をどう考えたらこうなったんですか!!


「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」」


 話がかみ合わない事に苛立ちを覚え、ついつい息が上がる程口論してしまいました。

 こんなに怒ったのは小さい頃、お父さんが私のおもちゃを壊してしまった時以来でしょうか。

 でもこれじゃあ一向に話が進まないのは確かです。

 少し冷静になりましょう。

 と、そこでベルンさんが今だに装備一式を差し出したままな事に気付きました。

 どうやら私専用の装備らしいです。

 まあ話は全然分かりませんが、受け取らないとベルンさんも困るみたいですし、受け取っておきましょう。

 着替えれば気分も一新出来そうですし。

 服のデザインはどこかのお嬢様が着るようなドレスですが、重さは感じないし動きを阻害することも無いようです。

 

「凄く似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」


 姿見で自分の格好を確認していたらベルンさんから褒められてしまいました。

 さっきまで怒鳴り合ってたはずなのに、お洒落して褒められたら心が浮き立ちます。

 我ながらちょろいです。


(バトルドレスに、ブーツとグローブとイヤリングの安定3点セット?)

「……って、これ物凄くいい装備じゃないですか!?」


 どうやら防御力だけじゃなく走行時の安定性やスキル使用時の魔力運用の安定性が上がる装備のようです。

 要求ステータスを見ればどれもレベル40が必要な他、INTなども結構高め。

 私のステータスでギリギリでした。

 サイズもぴったしですし、ベルンさんは外見から服のサイズを言い当てる能力があるんでしょうか。

 いや、違いますね。ゲームだからサイズは自動調整でした。

 それにしてもこの装備一体いくらしたんでしょう。

 ダンジョン産で同程度の性能のものを見つけようとしたらかなり先になるんじゃないでしょうか。


「これじゃあまた私、ベルンさんに依存してしまった形じゃないですか」


 思わずそう呟いた私に、ベルンさんは思いがけない言葉を言いました。


「リアミンさんは僕の事、愛想を尽かして離れたんだよね?」

「……はい?」


 ベルンさんは一体何を言ってるのでしょうか。

 私は『別行動しましょう』とは言いましたけど、愛想が尽きたなんて一言も言った覚えはありません。

 ……言ってませんよね。うん。

 じゃあどうしてベルンさんはそんな勘違いをしたのでしょうか。

 ベルンさんが深呼吸している間に私もベルンさんの言葉の意味を考えます。


(別行動しましょう……別れて行動しましょう……言い換えると、暇乞い?……実家に帰らせて頂きます的な?)


 あっ、だから愛想を尽かしたとか言う話になったんでしょうか。

 何という思考の飛躍。

 でも人間関係が希薄になっている現代で、一度離れたらそれっきりなんて事は全然有り得なくはない話ですし、ベルンさんが勘違いしたのは私の責任でもありそうです。

 私的には、むしろ私の方がベルンさんにこれ以上迷惑かけて嫌われたくないって思ってたんですけどね。


「僕はリアミンさんと一緒に居て迷惑だった、なんて思った事は無いから」

「でも……」


 咄嗟に否定しようとしたら止められてしまいました。

 その時ふと、ベルンさんの言葉を聞きながら、脳裏にお昼休みの隔離くんの言葉を思い出しました。


『その人はその人の意思で風祭さんと一緒に居るんだよ』


 そっか。

 どうやらベルンさんがそうだったように、私も色々思い込みでベルンさんのことを邪推していたみたいですね。

 まず考えるべきは自分の気持ち。

 その上で相手の言葉も受け入れて、真っすぐに応える。

 その結果、別れようってなったら仕方なかったってことでしょう。

 だからきちんと私の気持ちを伝えて、どうしたいのかをはっきりさせます。


「私もこれからもベルンさんと一緒が良いです」


 私がそう言うと、ベルンさんはほっと肩の荷が下りたように姿勢を楽にしました。

 そしてお互いに手を差し出して握手を交わします。


「じゃあ改めてこれからもよろしくお願いします」

「はい、こちらこそお願いします」


 色々誤解もありましたけど、無事解決ですね。

 だけどすっかり忘れてましたけどここは冒険者ギルドのロビーです。

 私達のやり取りはばっちり周りに見られていた訳で、握手をした瞬間、大勢の拍手だけでなく口笛まで響く始末。

 ちょっとどころじゃなくかなり恥ずかしいです。

 出来る事ならさっさとここを離れたいのですが、待ち合わせがあるので動けません。

 そう言えばベルンさんも待ち合わせがあるっていってましたね。


「そ、そういえばベルンさん、誰かと待ち合わせしてるんでしたっけ」

「あ、うん。そうなんだ。

 リアルで知り合った人で、もうすぐ来るんじゃないかと思うけど」

「奇遇ですね。実は私もそうなんですよ」


 なんたる偶然。

 しかしベルンさんの友達ってどんな人でしょうね。

 自分で言うのもあれですがやっぱりちょっと変わった人なんでしょうか。想像できないです。

 だけど聞いてみるとプレイヤー名を聞き忘れたそうです。

 実は私も隔離くんのプレイヤー名聞いてないんですよね。

 まさかこんなところでベルンさんと似た者同士になるとは。

 いや別に嫌って訳じゃないんですよ? ちょっともにょるだけで。

 そこでふと時計を見ると19時10分。

 もう既に約束の時間を過ぎてました。

 まだまともに話をしたのは1回だけですが、どちらかというと隔離くんって約束に厳密なタイプだと感じました。

 慣れ親しんだ家族や友人ならともかく、まだ関係の浅い人との待ち合わせなら5分前どころか10分以上前には来るような人だと思います。

 でも私が来た時に誰かを待ってる様子の人はいなかったし、私の後に来たのはベルンさんだけです。

 ……あ。

 そこでふと1つの可能性が頭を過ぎりました。

 もしかしてベルンさんがそうなんじゃないかな。

 その予感はベルンさんからの一言でほぼ確定しました。


「あの、つかぬことをお聞きしますが、今日のお昼に中庭で男子とお昼ご飯食べてたりとかした?」

「あーはい。してましたね」


 このタイミングで同じ状況の人が二人も三人も居るとは思えません。

 ダメ押しでベルンさんからのチャットで99%は100%になりました。

 そっか~。私ベルンさんのことを本人に相談してたんですね~。

 ちょっと現実逃避してしまいたいです。

 でもま、遅かれ早かれバレてたとかんがえれば、ここで気が付いたのは良かった方でしょう。

 ともかく、この微妙な空気を何とかする為にもイベントに行きましょう!

 しかし外に出た私達を出迎えたのは豪雨。

 そして遥か上空、雨雲の奥で何かが動いてるような気がします。


「ベルンさん、あれ!」


 あれがこのイベントのボス!?

 姿かたちは一言で言えば空飛ぶくらげでしょうか。

 ただサイズが山の頂上部を切り取ったように巨大ですが。

 あんなのに勝ち目あるんでしょうか。

 近接武器はもちろん、弓矢や魔法だってあんな高さまで届くか分かりません。

 私の爆弾魔法も投げつけるのはせいぜい数十メートルなので無理です。

 せめて地上付近まで降りて来てくれたら多少は何とかなるのですが。

 あ、そうだ。もしかしたらベルンさんなら何か手があるかも。

 そう思って隣のベルンさんを見たら、ちょうどニヤリと笑った所でした。


「リアミンさん。さっきの今で悪いんだけど、無茶振りしてもいい?」

「…………はい」


 ベルンさんとは短い付き合いですが、これは絶対また変な事を思い付いた顔です。

 

「僕のスキルを使えば、あのボスを地上に落とすことは出来るけど多分倒すのは無理だと思うんだ」


 さらっと凄い事言ってる気がしますがそこはスルーです。

 それにむしろベルンさんならひとりで倒せそうな気がしなくも無いですけど。


「先日のすごい雷壁じゃダメなんですか?」

「壁は壁だからね。あくまで空いてる空間にしか作成できないから。

 湿地帯っていうある意味空いてる空間なら大丈夫なんだけど、あのボス相手だったら接触させるのが精々で、体表を焦がすだけで終わるんじゃないかな」

「なるほど」

「僕が上空から遠距離攻撃の出来る人たちと一緒にボスを地上に落とすから、リアミンさんには地上で近距離攻撃プレイヤーを率いてボスを攻撃して欲しい。

 上空に居たら地上まで僕の声は届かないからさ。

 リアミンさんにお願いしたいんだけど、どう?」

「それってつまり、私の力がベルンさんの役に立てるってことですよね?」

「うんそうだね。間違いないよ」

「ならやります!」


 汚名返上、名誉挽回。

 これでベルンさんの役に立てれば自分で自分を認められる気がします。


「で、その時に折角だから……」

「ええっ。そんな大丈夫でしょうか」

「リアミンさんならいけるって。自信をもって」

「は、はい」


 自信を持てと言われましてもちょっと無茶振りな気がするんですけど。

 それやって成功したら絶対目立っちゃいますよね、私。

 ええいもう、なる様になれですね!!


【募集:イベント上空に出現したボスの撃墜部隊(要遠距離攻撃)】

【募集:イベント上空に出現したボスの破壊部隊(職を問わず)】


 私達はそれぞれ掲示板にてメンバー募集の書き込みをしつつ、街の外へと走りました。



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