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18.縺れ絡まった誤解を解こう

いつもお読みいただきありがとうございます。

本来なら順番的に掲示板パートだったのですが、スキップして主人公パートです。


 エバテにログインした。

 今日は2期生スタート以来初のイベント最終日。

 このエバテというゲームは、今までの感じで言えば襲撃系イベントは最終日にならないとボスが出ない。

 言い換えればそれまでは前哨戦。

 もちろん住民からの評価やイベントポイント的には開始日から最終日まで頑張った方が良いんだけど、イベント報酬で今欲しいものは余りないのでどうでもいい。

 というか僕的にはイベントよりも大問題が待っている。

 今日のお昼、風祭さんとお昼を食べた時、お互いにエバテをやってるということで一緒にプレイしませんかと誘われた。


「リア友とゲームするとか地味に初体験なんだよな」


 今までゲーム内で知り合った人とフレンド登録して長期でパーティー組んだことはあるけど、オフ会に参加したことも無いし、ケーブル対戦みたいな目の前でゲーム機突き合わせて遊ぶなんてこともしたことはない。

 だから今回、知ってる人にゲーム内の自分を見られるのは初……って工藤さん、ミキティさんには会ってたか。

 余りの黒歴史に記憶の奥底に閉じ込めてた。

 そうだよな。

 上手く言ってたら今頃ミキティさんと一緒に遊んでたって可能性もあったんだ。

 まぁもう無理になったのだからそっちは忘れよう。

 とにかく今は風祭さんだ。


「ってしまった。風祭さんのキャラ名聞いてない」


 また初歩的なミスを。

 とにかく待ち合わせ場所は冒険者ギルドって決めてたから行こう。

 そういえばイベント中の冒険者ギルドも初か。

 いつもは直接前線に行ってボスとかぶっ飛ばしてたからなぁ。


「外壁への弓隊の配置は完了したか!」

「ポーションの備蓄が足りないぞ。

 薬師と錬金術師に急ぎ増産を依頼しろ」


 おお~。右へ左への大忙しだ。

 ギルドの中はNPCの冒険者やギルド職員の他、生産系プレイヤーが支援のために動き回っている。

 戦闘系プレイヤーは軒並みモンスター退治に向かってるのでここには居ない。

 それで風祭さんはどこに居るんだろう。って、あれは。


「リアミンさん!?」

「あれベルンさん。どうしてここに?」


 なぜかギルドの一角にあるテーブル席にはリアミンさんが座っていた。

 え、どうしてここに?

 リアミンさんも戦闘職なのでてっきり前線に行ってるんだと思ってた。


「えっと、僕は友達と待ち合わせをしてて」

「へぇ、そうなんですね」


 ってちがう。なに普通に挨拶してるんだ。

 これは絶好のタイミングにちがいない。

 風祭さんと合流する前に先日の件を謝っておこう。


「リアミンさん!」

「は、はい」


 僕の緊張が伝わったのか、リアミンさんもビシッと背筋を伸ばした。


「先日は僕が油断したせいで怖い思いをさせて申し訳ございませんでした!!!」

「「ええーーーっ」」


 きっちり90度上半身を倒して謝る。

 下手な小細工も言い訳も無用。

 というか、上手い言い訳なんて僕が出来る訳無いし。

 だからただただ謝意を示すのみだ。

 なぜか周囲が騒がしくなったけどそんなことを気にしている場合ではない。


「こちらお詫びの品を用意したのでどうぞお受け取り下さい!!」

「え、いや、でも……」


 畳みかけるように、この日の為にと用意したリアミンさん用の装備一式をアイテムボックスから取り出して差し出す。


「……」


 しかし一向に受け取ってもらえる様子はない。

 これはつまり、こんなクソ雑魚装備程度で許して貰えると思うなよってことだろうか。

 これ以上と言ったらやっぱりあれしかない。


「かくなる上は自害してこの命を捧げるしかないか」

「ちょっ」


 今度は一変、ギルド内が無音になり、誰かの息をのむ音だけが聞こえる。

 気配からしてリアミンさんはそこに居るはずなんだけど。


「ちょっと待ってください!」

「!!」


 突然響くリアミンさんの大声。


「ベルンさん、いったいこれは何ですか?」

「何って、先日のやらかしに対する謝罪、なんだけど」

「わたしベルンさんに謝罪されるようなことされた覚えがありません」

「ええっ!?」


 まさか記憶喪失になったのか?

 いや、それともリアミンさんにとってはあの程度些事だったと?

 もしそうであったとしても僕が謝らない理由にはならないけど。


「前回一緒に冒険した時の事であればむしろ私が謝るべきですよね。

 私のミスでベルンさんが死に戻る結果になったんですから」

「いや1期生が2期生のミスで死ぬとかただの間抜けだし。

 なによりそうなった原因は僕が舐めプしてリアミンさんを危険地帯に連れて行った事だから」

「いえいえ、それは私が行きたいって言ったからじゃないですか」

「いやいやいや。それならちゃんと安全マージンに支援アイテムくらい渡しておけって話だし」

「いえいえいえいえ」

「いやいやいやいや」


 リアミンさんにはリアミンさんなりの言い分があるようだけど僕だって謝罪を受け入れてくれないと困るんだよ。


「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」」


 いかん。これじゃあ話が進まない。


「えっと。ひとまずこれ、受け取ってくれると嬉しいんだけど」

「これって、この装備一式ですか?」

「うん。リアミンさんにと思って用意したものだし」

「はぁ~。分かりました」


 僕の差し出した装備を受け取って、ちょいちょいと装備設定を操作すると、リアミンさんの格好は初期装備から一変。ゴシック調のバトルドレス姿になった。

 黒髪が綺麗なリアミンさんにドレスは良く似合う。

 くるぶしまで隠す長いスカートも普通に走る分にはゲーム的に邪魔にならないし。


「凄く似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます。

 ……って、これ物凄くいい装備じゃないですか!?」


 多分装備の説明を確認したんだろうけど、別に大したことはない。


「鬼族のレベル40で装備できるものって条件で揃えたから、正直性能は微妙だよ。

 本当はレベルアップが極端に遅くなる60になってから用意したかったんだけどね。

 それで気に入ってくれた?」

「はい、それはもちろん。

 ってそうじゃなくて。

 これじゃあまた私、ベルンさんに依存してしまった形じゃないですか」

「??」


 依存ってなんのことだろう?

 先輩が後輩を応援するのって普通だと思うんだけど。

 おかしいな。どうもリアミンさんと会話がかみ合ってない気がする。


「えっと依存ってなんんこと? リアミンさんは僕の事、愛想を尽かして離れたんだよね?」

「……はい? 何のことですか?」

「え、だって、今後は別行動で行きましょうって、つまり嫌いになったからもう会いたくないってことだよね?」

「は? いやいや、そんな訳無いじゃないですか」


 僕の疑問を慌てて否定するリアミンさん。

 あれ、じゃあ根本からして僕は勘違いをしてたのか?


「じゃああの言葉は一体」

「言葉通りの意味です。

 自分の不甲斐なさでベルンさんにご迷惑をおかけしてばかりだったので、せめてもう少し強くなって一人で戦えるようになるまで待っててくださいって言う事です」

「は……」


 いや迷惑なんて掛けられた覚えがないんだけど。

 むしろ僕が色々振り回してたんじゃないかな。

 ああでも、それ言い出したら同じことの繰り返しになる気がする。

 ちょっとよく分からなくなってきたぞ。


「えっと、ちょっと待ってもらっていい?」

「は、はい」

「はぁ~~~すぅ~~~~~はぁ~~~~~~~~」


 大きく深呼吸して一度頭を空っぽにする。

 考えが纏まらないまま大車輪で話すから変な方向に思考が行ってしまうのが僕の悪い癖。

 一度リセットして、落ち着いて、ひとつひとつ整理していこう。

 確実に分かっている事はそう、自分の気持ちだ。


「まず、僕はリアミンさんと一緒に居て迷惑だった、なんて思った事は無いから」

「そうなんですか?でも……」

「これは僕の気持ちだから『でも』はなし。そうなんです」

「は、はぁ」

「僕がリアミンさんと一緒に居たのは僕の都合で、出来れば今後もリアミンさんと一緒に活動したいと思ってます」

「はい」


 ここまでは全部僕の都合で僕の気持ちだ。

 だから間違いなんて事は絶対にない。

 問題は次だ。間違ってもリアミンさんの気持ちを勝手に邪推してはいけない。


「それで、リアミンさんはどう?」

「わたしは……」

「うん」

「私もベルンさんに嫌な事をされた記憶はありません」

「ほっ」

「まぁちょっと振り回されたかなって気はしますけど」

「う”っ」

「でも振り返ってみればそれはそれで面白かったなって思ってます。

 だからそうですね。

 私もこれからもベルンさんと一緒が良いです」


 にっこり笑うリアミンさんを見てようやく肩の荷が下りた気がする。

 こうして考えると全部僕の取り越し苦労と誤解だったようだ。


「じゃあ改めてこれからもよろしくお願いします」

「はい、こちらこそお願いします」


 そう言って僕らは握手を交わすと、周りで見ていた皆から拍手を送られてしまった。

 かなり照れるけど周りにぺこぺこと頭を下げて行く。


「そ、そういえばベルンさん、誰かと待ち合わせしてるんでしたっけ」


 リアミンさんも恥ずかしくなったのか、ちょっと早口で尋ねて来た。


「あ、うん。そうなんだ。

 リアルで知り合った人で、もうすぐ来るんじゃないかと思うけど」

「奇遇ですね。実は私もそうなんですよ」

「そうだったのか。

 じゃあもしかして僕が一緒に居たら邪魔かな」

「いえいえ。そんなことは無いです。

 それに私の友達は1期生だって言ってたので、もしかしたらベルンさんのお知り合いかもしれません」

「そうなんだ。ちなみに名前は何て言うの?」

「それがその、聞き忘れてしまいまして」

「そうなのか。上手く見つかると良いね」

「そういうベルンさんは何て名前の人と待ち合わせなんですか?」

「いや実は僕も名前聞いて無くて」

「「……?」」


 あれなんだろう。何か凄く嫌な予感がするのだけど。


「あの、つかぬことをお聞きしますが、今日のお昼に中庭で男子とお昼ご飯食べてたりとかした?」

「あーはい。してましたね」

「「……」」


 僕は無言でフレンド一覧を開き、リアミンさん宛てにチャットを飛ばした。


『隔離ですけど、風祭さん?』

『は、はい。そうです』


 なんてこった。まさかこんな身近に同級生が居たんて!

 自宅だったら頭抱えてゴロゴロ転がるところだよ。


「あ、改めましてベルンです」

「り、リアミンです。今後ともお願いします」


 さっきのお互いすれ違ってた時とはまた違った恥ずかしさがこみあげてきた。

 こういう時は話題を吹っ飛ばすに限る。


「よし、早速イベントいこうか!」

「そうですね。最終日はボスが出るそうですからぶっ飛ばしましょう!」


 ちょっとわざとらしい自覚はありつつも慌ててギルドの外へと飛び出した。

 そんな僕らを迎えたのは。


ザーーーーーッ

「なんですかこれ」

「土砂降りだね」

「流石にひど過ぎませんか?」

「今までも大雨が降ることはあったけどね。

 しかしこれほどは……」


 改めて空を見上げれば分厚い雲からゲリラ豪雨ばりの大雨が降っていた。

 この地域でこんな大雨は聞いたことが無いんだけど。


「ベルンさん、あれ!」


 驚きながらリアミンが遠くの雨雲を指差す。

 そこには雲の隙間から見え隠れする巨大な触手っぽい何かの影があった。

 しかも時折その触手の先端から雷っぽいのが地上に降り注いでいた。


「どうやらあれが今回のイベントのボスみたいだね。

 あんな上空を飛んでるなんて厄介すぎるだろ」

「確かに遠距離攻撃手段を持たないプレイヤーは手も足も出ませんね。

 私の爆弾魔法もあそこまでは届きませんし」

「だよなぁ」


 とすると、今回は倒せない系のボスか、それとも時間経過か何かのギミックで地上に降りてくるタイプか。

 だけど個人的趣味で普通の方法では倒せない敵って倒したくなるんだよね。

 ただ上空から叩き落す為には僕も空に上がらないといけない。

 でもそれだと多分そこまでのダメージは与えられないな。

 地上側からもタイミングを合わせて攻撃を加えないと。

 でもちょうどうってつけの人材が僕の隣にいる。


「えっとリアミンさん」

「なんですか?」

「さっきの今で悪いんだけど、無茶振りしてもいい?」

「…………はい」


 今めっちゃ考えた。どうしようか凄く迷ってた!

 でもま、頷いてくれたってことは嫌じゃないって事でいいんだよね。


「いやなら断ってくれても全然大丈夫なんだけど」


 そう前置きを入れつつ考えた作戦を伝えると、リアミンさんはむしろやる気に満ちていた。

 どうしたんだろう。


「それってつまり、私の力がベルンさんの役に立てるってことですよね?」

「うんそうだね。間違いないよ」

「ならやります!」


 気合十分に頷くリアミンさん。

 その姿にちょっと嬉しく思いながら僕たちは揃って街の外に向けて走り出した。



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