14.私も色々と強くなってます
その通知が届いたのは私が魔虫の森で修行していた時の事です。
この森は小さくて数が多くて足が速くて空を飛ぶ魔物が多いフィールドです。
要するに私のスキルとは最も相性の悪い場所と言っても良いでしょう。
敵の攻撃力は高くないのでそう簡単にやられることもないですが、目標はノーダメージ。
ここを無傷で踏破できるようになれば、ベルンさんの足を引っ張らずに済む私になれるのではないかと思い特訓中です。
「で、通知はっと」
私は近くに見つけた洞に潜り込んで先ほど届いた通知を開きました。
『王国守護騎士団発令。
王都の北東、クレイバレー方面より大量の湿地系モンスターが王都に向けて侵攻を開始したとの報告があった。
冒険者の諸君には騎士団と共にモンスターの討伐を依頼する。
モンスターが王都近郊に到着する予定時刻は2日後の20:00頃。
モンスターのレベルは15~80と予想される。
また巨大モンスターの影も確認できたとのこと。
報酬については別途通知する』
ふむふむ。
モンスター襲撃イベントのようですね。
2期生参入から初のイベントということで、モンスターの最低レベルも低めに設定されているようです。
場所が王都、つまり第2の街なので、自力で来れるプレイヤーは必然的にレベル20くらいにはなってるはず。
まだ始まりの町に留まっている人たちも、この通知を受けて頑張って第2の街に向かうかもしれないので、みんなのやる気に発破をかける意味合いもありそうです。
それにしても告知から2日後に開催とか随分と急に思えるのは気のせいでしょうか。
クレイバレーと言えば先日ベルンさんと最後に一緒に行った場所です。
あの時の無様な私を思い出すとちょっとブルーですが。
それはともかく。
私が見ていた限り、魔物が多かった訳ではない、むしろベルンさんが1地域丸ごと破壊してしまったので減っていたと思うのです。
まぁゲームの世界ですし、運営がやるぞって決めたら何もない所に急に魔王城とか建つ世界なのかもですが。
でもそれにしても何故あえてそこを選んだのでしょうか。
と、考えても答えが出る訳でもありませんね。
問題はこのイベントに私がどう動くかです。
折角のイベントなので一人で参加するよりも誰かと一緒に参加した方が楽しいだろうなと思います。
誰かと、と言ってもベルンさんしか知り合い居ないのですが。
だけどどうでしょう。
ベルンさんと一緒に居たら、また彼におんぶにだっこでお荷物状態にならないでしょうか。
一応これでも、ここ数日の特訓でそれなりに成長したとは思っていますが、多分ベルンさんの足元にも及ばないレベルでしょう。
まだこのフィールドで10分に1回くらいの割合で敵の攻撃を受けてしまっていますし。
あと2日ありますしせめて1時間に1回くらいまで抑えられたらベルンさんに声掛けてみようかな?
そうと決まれば早速……あれ?
ちょっと気になった事があったので通知の内容を読み返してみました。
『モンスターが王都近郊に到着する予定時刻は2日後の20:00頃』
これってもしかして、王都にモンスターが辿り着くまで2日ってだけで、既にイベントは始まってる?
モンスターの侵攻が確認されたともありますし、間違いなさそうです。
それに気づいた私は帰還スクロールで王都に戻りつつ、急ぎクレイバレー方面へと向かいました。
このゲーム、主要都市とは別に小さな村や集落は各地に点在しています。
当然王都とクレイバレーの間にも幾つか村がありました。
モンスターが王都に辿り着くころには、それらの村はモンスターによって踏み潰された後でしょう。
以前公開されていたこのゲームのPVでも似たようなシーンがありましたし間違いありません。
「みなさん、落ち着いて避難を開始してください」
「まだモンスターはここまで来ていません」
「お年寄りや病人など、自力で動けない人は搬送しますので近くの方は声を掛けてください」
私が村に辿り着いた時には、既にプレイヤーと思われる皆さんが活動を開始していました。
同じバンダナを巻いていたり、連携の取れた動きをしているのを見るに、どこかのクランの方々なのでしょう。
その中の1人が私を見つけて声を掛けてきました。
「やあ、こんにちは。
君もここに来たってことは、今回のイベントのギミックに気が付いたみたいだね」
「こんにちは。
えっと、はい。多分もうイベントは始まってるってことですよね」
「そうなんだ。
と言っても実は俺達が今やっている活動は、やってもやらなくても結果は変わらない自己満足なんだけど」
「え、そう、なんですか?」
てっきりこの避難誘導を行わないと村人たちがモンスターに襲われて、イベントが終わる頃にはあちこちで悲惨な光景が残されるんだと思ってましたが違うのでしょうか。
「このゲームは全年齢対象だからね。
子供にスプラッタな光景は見せられないよ」
聞けば過去にも何度かあった村や町が襲撃されるイベントでも住民に怪我人は出ても死者はほぼ出なかったらしい。
モンスターが吹き飛ばした住民に見向きもせずに先に進んだり、襲い掛かろうとしたところをギリギリ駆け付けたNPC冒険者が助け出して一緒に逃げて、逃げ延びた先でちょっとしたラブロマンスが起きるそうです。
そのラブロマンスを妨害する『リア充爆発しろ』推進委員会なるクランもあるのだとか。
「以前何度かその現場にベルン様が登場してたんだが、あの人に出来るんだら俺達にも出来るだろうってことで、俺達のクランはこうして率先して避難活動をやってる訳だ」
「ベルン様?」
ベルンさんと同名の方でしょうか。
そういえば以前ベルンさんを探してた時にみんな様付けで呼んでましたけど。
私が首を傾げているとその人は私を驚いた眼で見ました。
「え、まさか『殲滅の大魔導士』ベルン様を知らないのか!?
俺てっきり2期生は例外なくベルン様の雄姿を見てこのゲームを始めたとばかり思ってたよ」
「あ、『殲滅の大魔導士』なら分かります」
『殲滅の大魔導士』。
このゲームのPVにもちょくちょく登場する凄い魔法使い系プレイヤーです。
あまりに規格外の能力からチーター疑惑が浮上したりGMなんじゃないかって噂される人です。
PVでは派手な魔法を連発してモンスターを殲滅していましたね。
(ベルンさんは確か壁魔法しか使えないって言ってましたし、やっぱり別人でしょう)
「知り合いに同名の人が居たのでちょっと考え込んでしまいました」
「同名の? それは2期生で?」
「え、いえ。確か1期生だったはずです」
「ふむ。まぁそれならあり得るか」
「??」
「いや掲示板とかでちょいちょい『2期生はベルン様と同名は避けよう』って見かけたから」
「あ、なるほど」
そこを敢えて同じ名前にしたりなんかすると、他の2期生から難癖付けられたりして大変そうですね。
「それでどうする?
君も俺達と一緒に避難誘導に参加するかい?」
「いえ。私は一度湿地まで行ってモンスターの状況を確認して来ようと思います」
「そうか。無理はしない様に。
ゲームだから死んでも何ともないとは言え、危なくなったら撤退するんだよ」
「はい。ありがとうございます」
お礼を言って私は村を抜けました。
あの調子なら私が居なくても問題なさそうですしね。
それにしても。
「『グレネードショット』」
「ギャアアッ」
「さっきからモンスターが多い、ですね。『パチンコボム』」
迫る小型のモンスターに対して私の手から大量のパチンコ玉サイズの爆弾が降り注ぎました。
目には目を、数には数を、です。
当然サイズに比例して威力も大した事無いですが、相手を怯ませられれば十分。
出来たわずかな時間で本命の爆弾を投擲しつつ周囲を警戒します。
どんなゲームでも倒したと思って油断した次の瞬間に殺されるのはお約束ですから、最後まで油断はしません。
たしかこういうのを武芸では残心っていうんでしたっけ。
私は習った事無いですけど。そこら辺は気分です。
そして私の武器は爆弾だけではありません。
「『強打』」
バキッ
私の振り下ろしたメイスが迫りくるモンスターの頭を叩き落します。
爆弾魔法ばかりに意識が行っていましたが、本来鬼族は物魔両用のパワーファイターですからね。
ただ、ステータスの伸びを見るとPOWよりもINTの方が成長してるのは爆弾魔法ばかり使っていた結果なんだと思います。
物理攻撃の最大の利点はMP消費が少ない事です。
ただ殴るだけなら消費ゼロですし。
『強打』スキルも素の状態だと爆弾魔法の半分のMPで済みます。
そしてもちろん物理系スキルも色々と応用が利きます。例えば。
「『ホームランヒット』」
カッキーン
これはモンスターを武器の芯でとらえる事で、確定クリティカルを出すと同時に強力なノックバック性能を発揮させることが出来ます。
小型の魔物なら場外まで飛ばせるかもしれません。
ただし、倒し損ねると逃げられる危険性があるので調子に乗ってはいけません。
他にも。
「『烈風打』」
びゅおおお~
振り抜く事で突風を発生させます。
風属性の魔法に近い攻撃方法ですね。使いどころは微妙ですが。
強いて言えば飛んでくる矢を撃ち払うのに使うとかでしょうか。
今の所対人戦をする気は無いので、モンスターで何かを飛ばしてくるタイプのが居たら使ってみましょう。
そして最後のとっておき……を使おうかと思ったら湿地帯に到着しました。
ならここからは遊んでないで真面目に行きましょう。
前回のリベンジマッチです。
(……あら?)
気合を入れなおした私でしたが、前回とあまりにフィールドの様子が様変わりしていたので驚いてしまいました。
いえ、湿地そのものはそれほど変わってはいないのです。
出てくる魔物の種類も多分変わっていません。
変わったのは人口密度です。
千客万来、満員御礼。
前回はほとんど見かけなかったプレイヤーの皆さんが沢山いらっしゃいます。
それも響く音からして、今見えている浅い場所だけでなく、もっと奥にも居るみたいです。
「あの、みなさんどうしてこんなに集まってるんですか?」
「お、君は2期生かい?
見ての通り間引きっていえば人聞きが良いけど、まぁ荒稼ぎ中だよ。
イベントが発生するとその地域のモンスターの発生率が跳ね上がるからな」
なるほど。
普段旨味のない場所でも、条件次第ではこうして人気スポットに早変わりするようです。
「この付近は俺達の『山嵐の里』クランで専有してるから、やるならもうちょい向こう側で狩りをしてくれ。
ただ、ソロ狩りはそこまで効率よくはないと思うけどな」
「わかりました。ありがとうございます。
あの、お邪魔で無ければ狩りの様子を見学させてもらっても良いですか?」
「ああ、いいとも。
ただし流れ弾には注意してくれよな」
「はい」
許可をもらった私は適当な大きめの木に登って上から彼らの狩りの様子を見させてもらう事にしました。
なにせこれまではベルンさんとしか組んだことがないので、他の人がどうやっているのか興味があったんです。
「へび3、蛙5!」
「よっしゃ来いや!」
スピード型の獣人族プレイヤーがモンスターを呼び集めて本陣の所まで引っ張ってきます。
本陣では前衛に壁役のひとが1人、戦士が1人。後衛に魔導士が3人というバランスで待機してます。
「っし『挑発』!」
「シャーーッ」
「ゲコゲコッ」
「くたばれやっ『氷撃』」
「「『烈風刃』」」
「逃がさん」
元気にやって来たモンスター達を壁役の人が挑発スキルで注意を集め、後衛の3人で一気に攻撃。
取り逃しを戦士の人が止めに切り付けて終了。
その間に斥候役の人が次の獲物を探しに出て行って、少しすると次のモンスターの群れを連れてきます。
そうして多少の間はあっても繰り返し多数のモンスターを安定して狩れるので効率が良いです。
なるほど、これが普通のパーティー狩りなんですね。
私とベルンさんの2人でやってた時とはまるで違います。
私達の時は、そもそも一度に複数のモンスターが現れる事がありませんでした。
そして近づいてきた頃にはかなり動きが鈍っていましたね。
まぁどちらもベルンさんが私の為にコントロールしてくださっていたんですけど。
また効率という面で考えてもそこまで彼らと違いはない気がします。
人数割りして考えれば彼らは6人がかりで6~10体を倒しているので1人あたり1~2。
対する私達は2人で1体ずつなので0.5。
ですが回転率で考えれば私達の方が倍どころか3,4倍はスムーズだったと思うんです。
ただそれもやっぱりベルンさんの実力の結果かな。
ってついついベルンさんの事を考えてしまいますね。
ベルンさんに依存するのは止めようって決めたのに。
うーん、それだけベルンさんと一緒にプレイしていた頃が楽しかったって事かもしれません。
やっぱり私は一人でコツコツやるより誰かとおしゃべりしながらやる方が性に合ってる気がします。
ベルンさんと一緒に居る時は、大体が私が話をしてベルンさんは頷いたり合いの手を入れる役なんですけどね。
そういう話の間の取り方っていうんですかね。
それがお互いに上手く噛み合ってた気がするんです。
だからまたベルンさんと組んで遊びたいと思うんですけど、彼の負担になりたくはないし難しい所です。
結局その場は3回ほど狩りをする様子を見学させてもらってから街に帰ることにしました。
気分が乗らない時は帰って寝るのも一つの手です。




