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13.錆びきった自分にムチを打て

 さて、リアミンさんに絶交を言い渡された僕がそのまま項垂れて何もしていないかと言えばそんなことはない。

 いやだって、電気も付けずに部屋の隅で体育座りしてひとりブルーになってたら人生いつの間にか好転してる、なんてありもしない夢を見るのは小学校低学年までで十分だ。

 高校生になった今、倒れて泣いてたって誰も助けてはくれない。

 そんな暇があるなら同じ失敗をしないように立ち上がって前に進むべきだ。立てないなら這ってでも動くしかない。

 幸い今回は失敗したとは言っても命を失った訳でも手足を切断された訳でもない。

 要するに幾らでも挽回できる可能性はなくはない、はずなんだ。多分。うん、きっと。

 と、とにかく今は僕の出来る事をする。

 失敗したなら原因を考え、改善し、同じことを繰り返さないようにするんだ。

 そして僕は色々考えた結果、今回の失敗を招いた一番の原因は『慢心』にあると思っている。

 エバテでは1期生で、リアミンさんよりも圧倒的に強く、狩場の敵も自分の足元にも及ばない敵ばかり。

 そんな驕りがリアミンさんのありきたりなミスをフォロー出来ない油断を僕にもたらした。


 だから僕は自分を鍛え直す為に一度過酷な場に身を置く必要があると考えた。

 その1つは先日もやったFPSゲームだ。

 前回やった時とは異なり、今度は10分という制限時間の中でいかに多くの敵を倒せるかを競うモードでプレイしている。

 場所は屋内、時刻は夜。

 そして自分ルールとして初期装備はナイフ1本。待ち伏せ禁止。

 敵は勿論、銃器で武装しているので廊下の影で出会い頭でなければ遠距離から攻撃出来る相手が圧倒的に有利。

 こちらが先に敵を見つければ忍び足である程度までは近づけるけど、それでも限界はある。


「おらそこっ」

(ちっ、見つかった)

タタタンッ、タタタンッ

(3点バースト。しかし狙いが甘い)


 狭い廊下を左右に跳ね、伏せたり三角跳びの要領で壁を蹴って敵の射線を潜り抜けながら接近する。


「くそっ、なんであたんねぇ!」

(君の狙いが素直だからだよ)


 カチッと弾切れになった瞬間、一気に近づいた僕は持っていたナイフを一閃。


スパッ、ザクッ!

「ぐはっ」


 銃を持つ腕を切りつけ、返す刃で首を刎ねる。

 死亡した相手は今頃リスボーン地点で復活までのカウントを待っていることだろう。


「13勝5敗か」


 10分が経過し自分の戦績を振り返れば5回も倒されていた。

 これを多いと見るか少ないと見るか。僕は多いと見ている。


「集中していれば2回は死なずに済むか、もっと粘れたはず」


 暗くて見にくいけれど銃口の向きを見れば事前に弾がどちらに飛ぶかが分かるのが銃の欠点だ。

 だからキッチリこちらを狙ってくる相手は逆に扱いやすかったりする。

 むしろフルオート射撃で無差別に弾をばら撒いてくる相手やショットガンを使う敵は苦労する。

 それを掻い潜って勝利を納めるのが真のナイフ使いなんだけど。

 まだまだその領域は遠いか。


 そしてもちろん、エバテも継続してプレイしている。

 ちらりとフレンド一覧を見ればまだリアミンさんの名前が残っていた。よかった。

 フレンドは片方が削除すれば相手側からも消える仕様だ。

 まだ残っているということは、好意的に考えればまだ一縷の望みが残っているということだ。

 まぁもしかしたらリアミンさんが削除するの忘れてるだけって可能性もあるけど、そこは考えても仕方ない。


「ともかくこっちでも特訓とアイテム集めだ」


 僕のVIT値はレベル10を超えた今でもまだ3。

 このゲームのステータスは自動上昇なので、曰く極振りは出来ない。

 それでも普段のプレイスタイルからどのステータスが上がりやすくなるかは変わるので、頑張ればムキムキマッチョなエルフも夢ではないらしい。

 実際そういうネタプレイをしている人を1人知ってるし。

 だからやり方次第では僕の紙装甲の強化も出来るかもしれない。

 とは言っても紙が段ボールになる程度だ。無理にやる程ではない。

 それに転生してからレベルアップに必要な経験値が跳ね上がっているから、経験値効率重視でプレイしてもレベル100になるまで何カ月掛かることか。むしろ数年単位かもしれない。

 ならばレベルに頼らずとことんプレイヤースキルを磨くのと、装備品で補う。

 僕のアイテムボックス内にある装備はどんなに軽い鎧でも要求VITは5からだ。

 転生前はVIT5なんてレベル1でもあったので、そんなの要求項目に付ける必要あるのかって思ってたけど、こんな落とし穴があるなんてな。

 唯一、初期装備だけは要求ステータス無しなんだけど、加工や強化も出来ないから初めの町周辺以外では何の意味もない。


 そこでやって来たのは東の島に存在する通称『試練の迷宮』。

 このダンジョンは入る度に構造が変わるのでマッピングが一切通用しない。

 そして初見殺しの罠はゴロゴロあるし、即死罠や落とし穴からのモンスターハウス、モンスター無限湧き階層など、これ本当に攻略させる気あるのかって問い質したくなる難易度なんだ。

 唯一の救いはデスペナのステータス低下が免除されてるから何度でもチャレンジ出来るってとこくらいかな。

 かく言う僕も転生前に100回以上チャレンジして1回しか攻略出来ていない。

 そんな鬼難易度のダンジョンに1歩足を踏み入れた瞬間。

 僕は頭を抱えたくなった。


『モンスター殲滅フロア 残り100/100』


 1階層目から大外れである。

 モンスター殲滅フロア。別名『モンスター殲滅するまで出られま10』。

 そこそこ広いフロアを隅から隅まで探索し、フロア内の全モンスターを倒さないと次の階層に続く扉が開かない嫌がらせのようなフロアだ。

 当然モンスターも移動するので1度行った場所にはもうモンスターは居ないって事も無く、最悪最後の1体を求めて延々とフロアを徘徊し続ける事になる。

 唯一の救いはモンスターが時間湧きしないことくらいか。

 早い段階でこれに出くわしたら死に戻って再チャレンジした方が早い。


「だけどま、これも修行か」


 僕は素直に殲滅する方を選択した。

 以前の僕ならフロア全てを灼熱地獄に変えてしまえばいいじゃないかと力技で解決していた事だろう。

 しかし転生して以前のスキルが無くなった僕にそれは出来ないから地道に倒していくしかない。

 それでも今の僕ならではの攻略法はある。


「『ウォール』」

ばっこん。


 ダンジョンを進み分岐を見つけては今来た道を壁スキルで塞いでいく。

 そうすることで必然的にモンスターの行動範囲を制限し、一度通った行き止まりに続く道にモンスターが迷い込まない様にしていく。

 他にも。


「『ワイヤーウォール』を左右の壁に渡してっと」


 本来は『鉄の壁(アイアンウォール)』なのだけど、それをワイヤーのように細くして通路に設置して行けば即席のトラップになる。

 僕が別の道を探索している間にモンスターがここを通れば、うまく行けば倒してくれるし、そこまで行かなくてもワイヤーが切れていたらここをモンスターが通った証拠になる。


「おっと、落とし穴は壁魔法で塞いでっと」

「毒矢の罠も矢が出てくる穴を塞いであげれば安全安全」


 流石に1階層目のトラップは素直だ。


カチッ。ゴゴゴゴっ

「と思ったら両側の壁が迫ってくる2択トラップ」


 前に走って逃げるか後ろに戻って逃げるか。

 どちらかは停止ボタンがあって生き延びられるんだけど、もう片方はそのまま潰されてぺっちゃんこっていう運試しトラップだ。更に言うと停止ボタンも初見で見つけるのは難しい。

 そして僕の選択はというと。


「どっちもいかない。……『止まれ』」

ピタッ。


 迫る壁に手を触れて魔法を行使すれば、壁はぴたりと止まった。

 出来るとはおもったけどちゃんと出来て良かった。

 僕の壁魔法はレベルアップしたお陰でただ壁を生み出すだけじゃなくて、既存の壁を操作することも出来るようになっていた。

 ダンジョンの壁には通じない可能性もあったけど、もし無理だった場合は別途壁を生み出してつっかえ棒がわりにするつもりだった。


「よし、これでラスト」

『モンスター殲滅フロア 残り0/100』


 1階層目から15分も掛かってしまった。

 その先は比較的問題なく進めたんだけど、30階層。

 このダンジョンは10階層ごとにボスが出る仕様なんだけど、ここで多分今の僕と相性最悪なボスが出てきた。


『か~~~べ~~~』


 正式名称『鉄壁魔神』。別名『ぬり〇べ』。

 つまり全身が壁のモンスターだ。

 いくら万能の壁魔法もモンスターそのものへは効き目がない。

 こんな時、リアミンさんみたいな爆発系や打撃系のスキルがあれば楽勝で勝ててしまうんだけど、それ以外の斬撃、刺突、四大元素魔法などはほぼ完ぺきに無効化されてしまう。

 第1フィールドに出てくるストーンゴーレムが赤ん坊に見える程の圧倒的な差だ。

 以前来た時は火炎魔法で高熱にした後、一気に冷気魔法で冷やして熱疲労を起こした後に土魔法で叩き割ったんだったかな。

 無効化能力で直接ダメージは与えられなくても搦手は通るんだ。

 もっとも、その方法は今回は使えそうにないけど、じゃあどうするかと言えばこうだ。


「『ウォール』」

バコン


 敢えて壁魔法で同程度のサイズの壁を生み出しぶつける。

 壁と壁がぶつかれば当然、強度的に脆い方が負ける。

 今回は特に1回ぶつかれば壊れるように作ってるし。

 1回戦は僕の作った壁の完敗だ。

 1ダメージ与えられたかどうかも怪しい。


「まだまだ『ウォール』」

バキッ

「もういっちょ『ウォール』」

ベキッ


 ぶつけては壊され、また作ってぶつけてを繰り返す。

 今度はボスのHPの減りは微々たるものだけど確認できた。

 倒すには程遠いけどそれでいい。

 なぜなら僕はここに壁魔法の特訓に来たのだから。

 これまで転生して様々な属性の壁を自由に生み出せることで、僕はこの壁魔法が万能で無敵なスキルだと過信していた。

 だけど全てのスキルは経験を積んで磨き上げる事でその真価を発揮するんだ。

 武器で例えるなら僕の今の壁魔法はナマクラどころか精錬前の鉄鉱石だ。

 そこからちゃんとした武器にするなら、精錬して不純物を取り除いた後に何度も何度も叩き上げ磨き上げしないといけない。

 ついでに言うと完成系のお手本なんかがあった方が成長は早くなる。

 今回のお手本がこの鉄壁魔神先生という訳だ。


「『ウォール』」

『か~べ~~』

べちっ


 ただひとつ問題を挙げるとすれば、余りにも地味な作業って事だな。

 壁と壁がぶつかるだけなので見た目も面白みがない

 張り子の相撲取りが技も無くぶつかり合う様を延々と繰り返すだけなのだ。

 更に今回は基礎を固めようと思っているので使うのは無属性の『ウォール』のみ。

 各属性の壁魔法についてはまた別の所で鍛える予定だ。

 そうして。

 ひらすらに繰り返し続ける事、32768回くらい。

 (数えてないので数字はただの気分だ)


「『ウォール』」

バキバキバキッ

『か~~~』

ばらばらばらっ


 僕の出した壁とぶつかった鉄壁魔神がバラバラに砕け光になって消えて行った。

 長く険しい戦いの果てに、遂にボスモンスターの撃破に成功したのだ。


「ありがとうございました!」


 もはや消えた後だけど思わず体育会系のノリで礼をしてしまった。

 でもそれをしたくなる程、僕の壁魔法はかなり洗練されたと思う。

 強度をはじめ発生速度、サイズ、出現位置の精密さ、きめの細かさから肌触りに至るまで、ここに来る前とは別物と言って良い程、成長を遂げていた。

 そしてボスを倒した後はお待ちかね。

 そう、宝箱のお時間です!


「何が出るかな。何が出るかな」

ぱかっ。てってれ~。

『鉄壁の鎧』

わーぱちぱち~。


 わー……すごい無骨なデザインの全身鎧が出てきた。

 鎧というかもう、鉄の塊?

 フレーバーテキストはこんな感じ。


『鉄壁の鎧(未精錬)』

鉄壁魔神の肉体からそのまま削り出したような重厚な鎧の形をした壁。

文字通り鉄壁の防御力を誇るが、その重量により使用者を選ぶ。

また加工しても、その防御力、耐久力が損なわれない特性を持つ。

物理攻撃無効。魔法攻撃半減。

要求ステータス:POW200、VIT300


 物理攻撃無効は魅力的だけど要求がPOW200にVIT300て。

 鬼族か獣人族それも熊とかパワー型の種族でレベル100まで上げれば装備できるかなって値だ。

 転生前の僕でもこんなバカげた数値はINTだけだった。

 これは倉庫の肥やし確定かな。

 なお「○○無効」は意外と簡単に抜けるので過信は禁物だ。


(……いや待てよ?)


 わざわざ未精錬って付いてたり、加工可能ってあるのは、ここから手を加える事で要求ステータスを抑える事もできるのかもしれない。

 頑張って装備できるように鍛えてねっていう運営からのメッセージなのかも。

 たかだか30階層のボスから出たにしては破格の性能と要求なのもそれを裏付けている気がする。


「そして何より鉄壁(・・)の鎧ってことは、壁魔法が……効いた!」


 僕の魔法を受けて鎧の表面が波打った。

 これなら少なくともこの無骨なデザインから見栄えのするものに出来るだろう。

 他にもあれやこれや色々出来そうな気がする。

 それをするならと一度地上に戻った僕は鉱山の町に移動し工房を借りて加工に勤しむことにした。

 またついでに知り合いの細工師に幾つか仕事を依頼しておいた。

 

 そうして3日。

 ようやく納得の行く形に出来た。

 壁魔法の他に倉庫に眠っていた転生前の素材もありったけ使ってみた。

 それがこちらだ。


壁の王者(ウォールオブウォール)

鉄壁の鎧に各種素材を追加し、様々な属性を付与し、限界を超えて鍛え上げた鎧の形をした壁。

壁魔法所持者が使用することを前提としており、それ以外の者が装備すれば即座に死に至るだろう。

また使用には常時MPを必要とする。

物理攻撃無効。魔法攻撃吸収。自動修復。常時MP消費(小)

要求ステータス:なし

要求すきる:壁魔法


 性能もそうだけどデザインも頑張ってみたのでどこに出しても恥ずかしくない出来に仕上がったと思う。

 なにより要求ステータスなしなので今の僕でもちゃんと装備が出来るし。

 常時MPを消費すると言っても僕の自然回復速度の方が上なので気にならないレベルだ。

 早速装備して姿見を見てみれば、なんというかちゃんと前衛っぽい見た目になった。

 今なら誰が見ても壁役は無理とは言わないだろう。

 あとは細工師から依頼していた品を受け取って準備完了。

 何の準備かと言えばそう、リアミンさんへの謝罪の準備だ。

 ほとぼりが冷めている可能性は低いし許されるとは思ってないけど、まずは会って謝らないと。


「すぅ~~~はぁ~~~~」


 大きく深呼吸をしてフレンド一覧からリアミンさんがインしてるのを確認して。

 行くぞ!!


ピンポン♪

『王国から通知が届きました』

「どわっっ」


 王国から?冒険者へ緊急招集?

 くっ、このタイミングでイベント発生か。なんて間の悪い。



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