焼かれずの蜘蛛の糸
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
個人的には気に入ってます。
来なくても、梅香の君には届いてそうですね。
また梅香の君の人となりの話がしたくなりました。
――お礼参りに訪れとう御座います。……けれども、もう七日後、猛暑ならば御遠慮させて戴きたく存じます。
そう宣言されて一週間が経過した。彼女の宣言が天に届いてしまったのか、その日はとびきりの猛暑だった。大地が八大地獄の様に燃え、皮膚を焦がす。どんなに抵抗しても無意味な暑さだった。今日は、来なくて正解だよ。君の体が焦げてしまう。目が白濁してしまう。
それからもう一週間後、これまたとびきりの猛暑だった。先週と同じ全てを焼き尽くす炎天下。
今日も来ないかも知れない。そう風鈴を片手にお天道様を仰いでいると、あの子の気配がした。この暑さのせいか声に張りがない。湯だった頭から、うわ言の様に湯気を吐く。
――ただいま、ただいま参りますので……。ただいま……。
鳥居の前で、僅かに頭を垂れると、花魁の様に、足を放って階段を登っている。
合間見えた彼女は想像した通り、顔を真っ赤にして、玉のような汗を滴らせていた。豪雨に見舞われた様な汗の掻き方に、なおのこと心配になる。
私の姿に気がつくと、草臥れた笑顔を浮かべて、すごすごと日陰に移動した。
「約束……しましたので……。約束……」
その裏で聞こえるのは、一種の呻き声だった。何もかも焦げちまう。焼けちまう。剥き出し裸眼が一番の被害者。痛くて堪らんよ……。
私はいても経っても居られずに、日差しから庇う様に彼女を姿を隠した。
「その心意気だけで大丈夫。駄目かも知れないと思ったら無理に来なくて良いからね。君の目が濁る方が……」
「あ……バレちまいましたか……。目が焼かれるんですわ。ヒリヒリと、ヒリヒリと。眼球の中の蜘蛛の巣が、一つ一つ、ぜぇんぶ焔で焼き切れちまうんですわ。でも……それよりも、上様に見放されてしまう方が、余っ程怖い事でありますよ」
そう言って、瞼を閉ざした。
見放すはずなどあるはずも無い。自己犠牲を惜しまずに、こうして来てくれる子を、私達が見放す事などありはきない。
そうして一週間後、その子の仕打ちを大変哀れに思ったのか、今度は比較的過ごし易い、曇り空だった。案の定、彼女は此処に来て、軽く一礼をした。
「本日は過ごし易い気候で御座いますね」
彼女は私を見るなり、にこにこと笑顔を浮かべ、小首を傾げた。片手に小さな文庫本。今日は此処で暫くゆっくりするらしい。
「なんの本を持ってきたの?」
「あぁ、これですか。この前お話した時に、ふと思い出したんですよ。芥川龍之介氏執筆、『蜘蛛の糸』。まぁ私はこの主人公と同じ。誰かを救うために自己を犠牲に なんて、出来やしませんがね」
最後の一文について、皆様が思うことを書きたいと思います。
『お前がそれを言うんか!!』
書いてるうちに芥川龍之介氏執筆の『蜘蛛の糸』が浮かびました。まぁ最初に八大地獄の文字がありますし。
故、ところどころに連想させるものを入れておきました。
地獄とか、茹で釜とか、見放されるとか、自己犠牲とか。
結構楽しかったです。
〜梅香の君について〜
一見すると凄く人当たりが良いんです。
にこにこしてるし、口調も柔らかいし。
でも洞察力がある人は多分『底が知れない』『心を開いてくれてない』と感じそうな気がします。
実際その感想は的を得ていて、あんまり人の事を好きじゃなさそうな。
神様になった経緯が経緯なんで……。そうなるのも……。
でも懐に入れた相手と接する時には、本人の知らぬところで表情豊かになる感じがします。
モデルとなった方が、祟り神です。
基本的に荒御魂である故に忌避される存在ではあります。
手厚く祀る事によって、強力な守護神になるというあの神様。
自分に向かう愛情には、しっとりと重い感情を寄せそうな。
逆にぞんざいに扱われたら、ブラックリストに纏めて『二度と来るなよ!!』と言いそうなところがあります。
とても人間らしいと思います。
そんなところが好きです。そんなところが大好きです。