望みの再発
私、黒瀬鈴は自ら捨て子になった異端者として基本的に嫌われている。嫌っていない人は、争いごとに無関心を貫く人だったり、平穏を好く人だったりなど。要するに、面倒ごとを起こす私に対して、いい感情を持つ人はいない。
貴方の人生の中で一番幸せだったときはいつですか?と聞かれたら、両親と過ごした日々と私は答える。愛されていないことを知り、裏切られた悲しみに穢された思い出。それでも、あの幸せだった日々を忘れることができない。きっと、それは、それ以外の幸せだった記憶がないからだ。私は幸せだった日々に縋る。そして、時々、無性に愛がほしくなる。
でも、それを与えてくれる人がいないことなんて当の昔に悟ったから、欲する心を抑える。求めたところで、虚しいだけだ。
でも、発作と抑制を繰り返した結果、心が虚無に支配されたからあまり意味はなかったのかもしれない。
感情が希薄になった私は、愛を求めることがなくなり、死に対する恐怖心も薄まった。
そして、高1の夏、熱中症になった私は公園で倒れ、そのまま病院に行くこともなく死んだ。
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「おーぎゃーー」
一流の調度品が飾られた部屋の中で、産声が響く。
「寵妃様、元気な女の子が生まれましたよ。良かったですね。」
老齢である助産師は、まるで自分の子供が生まれたかのように嬉しそうに話す。この国では、圧倒的に男児の方が多く生まれる。女児である確率は、25%ほど。さらに、王女の存在は希少で貴重だ。国はこれから1週間かけて王女が生まれたことを祝福するイベントを行う。
「ええ、本当に良かったわ。ようやく王女を生むことができた。これで私の役目を果たせるというものよ」
アエテルヌム王国では、王女は一人しか生まれない。なぜなら、神が初代王女に神の血と奇跡の力を与えた代わりに、王子しか生まれなくする祝福をかけたからだ。唯一、神が認めた子のみが、王女として生まれてくる。神の血と奇跡の力は、お腹の中ですべて赤子に引き継がれ、寵姫は王女が生まれた瞬間にただの人となる。ただの人と言っても、体が神の血に合わせて形作られるため、人の血に戻った影響で、体が脆くなり、短命だったり、虚弱だったりすることが多い。そのため、王女が生まれた後は基本的にベッド生活になる寵姫の代わりに、正妃が王を支え、王女の母代わりとなる。
王女とは、いわば神の子でもある。神の子の上に人が立つどおりはないとし、表面的には王女の地位は国王よりも上である。
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私は、死んだはずだった。最後の最後まで、誰にも気を留められることなく終わったはずだった。
けれど、今、私は誰かに抱えられて産声を上げている。いや、誰かというのも正しい表現ではないのだろう。きっと、この人は私の新しい母親だ。
なぜかは分からないが、生前の記録を保有し私は生まれてきた。記憶と言わないのは、死ぬ前のあの虚無感が全くなく、今の私が感情を持っているからだ。その証拠に、感傷から切り離された記憶の数々に憤る。生前の私はどうやら大バカ者だったらしい。人の言葉を信じるだけ信じて反論することもせず、挙句の果てに、裏切られてもなお、愛を求めことがやめられない。最後の方は、生きているとは言い難い人生。そんな人生2度と送りたくない。
今度こそ、冒険者のように自分の信念を意志を貫き通す自由な人生を送るために、私はルールを定める。
①決して、人をむやみに信じないこと
②望みに素直になること
③愛を求めないこと
せっかく得た2度目の生だ。思う存分有効活用しよう。
主人公、すべての感情がリセットされ、赤ちゃんの感性で記録を見たら、生前の自分が嫌いになりました
そして、生前の記録を教訓にし意志を固めた結果、正の感情に対する鈍感さがパワーアップしました
New 意志の強さ
lost 虚無感・虚脱感