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6-取引

 

(ジーク……)


 レアは嗚咽を漏らした。


(やっと『死にたくない』と思えたのに……)


 レアはしばらく泣き続け、じきにそれも枯れ果て、最後には抜け殻のようになり、ただ馬車の揺れに身を預けた。


 馬車は丸二日間、休むことなく走り続けている。

 その間に、男__アランはレアがすっかり大人しくなったのを確認してから拘束を外し、食事と水を渡したが、彼女がそれに手をつけることはなかった。


「この馬車は……どこへ向かっているんですか」

「外の景色を見ればわかるさ、」


 男の言う通りにレアは馬車の外を眺める。

 外の景色は、自分の知らない、まったく見たことのない街並みが広がっていた。

 

「ここはシャルマニア王国の都ノーラン、もう君のいたエーデルラント皇国じゃないよ」

「外国……!?」


 アランはレアの前に身体を傾け、満面の笑みで言い放った。


「あなたには今日からこのシャルマニアの王女殿下になってもらう!」





 馬車はシャルマニアの王都の中心部に建てられた宮殿内に止められた。

 レアは宮廷の一室に通される。


 アランは部屋の中からある一つの絵画を手に取り、レアに見せる。

 それは豪華なドレスを身に纏った黒髪の少女の肖像画だった。


「あなたはヴィヴィアン王女によく似ている!」


 肖像画の中の可憐な少女は、見るからに高貴な佇まいをしており、恐れ多くてとても自分と似ているとは思えなかった。


「国中を探しても見つからず、外国まで行った甲斐がありました!」


 アランは語り出す。


 数ヶ月前、シャルマニア王国の王女ヴィヴィアンが亡くなった。

 死因は自室での首吊り自殺。

 発見したのはヴィヴィアンの実兄であるオーギュスト王子。


 まだ公式に発表をされていないが、ヴィヴィアン王女は来年には隣国であり、レアの母国でもあるエーデルラント皇国に嫁ぐ手筈となっていた。

 長い間戦争を繰り返してきたエーデルラント皇国と親交を結ぶために決められた、所謂政略結婚だ。


 だがヴィヴィアンはそれを拒否、最後には自ら命を絶った。

 シャルマニア王家には王子と王女の一人ずつしかおらず、代わりはいない。


 王女の自殺によって婚姻の話が頓挫する、というのは外交上の問題に留まらず、国民たちから不満をぶつけられることになるだろう。


「せっかくまとまっていたエーデルラント皇太子との婚約を、このような理由で反故にしてしまうのは、我が国の未来に暗い影を落とすことになります」


 アランは切々と語るが、レアは上の空な様子で、彼が何を言わんとしているのかが理解できなかった。


「王女が亡くなったことを知っているのはオーギュスト殿下、国王と王妃、殿下の側近である私と一部の協力者だけ。


 ヴィヴィアン王女は病気療養のため田舎で過ごしている、ということにして死亡は隠しております」


「つまり、私たちは『エーデルラント皇太子から婚約破棄』をされて、この話をなかったことにしたいのです!」


 エーデルラント側から婚約破棄をされるように仕向け、なんとかシャルマニアが不利益を被らないようにしたい。

 それが彼の目的だった。


「正式な婚姻は1年後! それまでに婚約破棄をされるように、あなたに協力をしていただきたい!」


 アランは笑顔でレアに手を差し出す。

 レアは呆気にとられた様子でアランを見つめている。


読了ありがとうございました。

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