4-希望
目が覚めたらすでに朝日が昇り、ジークフリートはいなくなっていた。
テーブルの上にはあの絵葉書が置かれている。
レアはベッドから跳ね起き、頭を抱える。
(私、どうしてあんなことを……)
羞恥と申し訳なさでうなだれた。
なぜあんなことを言ってしまったのか、それだけ自分は追い詰めらているのだろうか。
(青い目の人なんて、他にもいるはずなのに……)
いや、澄んだ海のように、美しく澄んだ青い瞳を持つのは、彼だけだ。
それとも、昨日はたまたまそう見えただけなのだろうか。
(忘れよう……)
きっと、もう二度と彼に会うこともないだろう。
また上司にここに連れてこられたとしても、突然泣き出す娼婦なんて、気味が悪くて関わりたいとは思わないはずだ。
しかし、その目算は大きく外れた。
それは2日後のことだった。
「レア、指名だよ! やるじゃないかお前!」
支配人が上機嫌で待機部屋のレアを呼び出す。
やるじゃないか?
確かに自分は普段あまり指名を取れていないが、一体何を言っているのだろうか。
自分を指名したという客を見て、レアは目を見開いた。
ジークフリートだった。
不機嫌そうな顔をしていたが、レアの姿を見ると表情を和らげる。
「君の名前、レアって言うんだね」
「また、来てくれたんですね……」
どうしてまた来たのだろうか。
「君のことがもっと知りたいから」
どうしてこんなに顔が熱くなっているのだろうか。
レアは予期せぬジークフリートの来訪に、高鳴る胸を抑えた。
♢
その後も、ジークフリートはレアに会うために足繁く娼館に訪れた。
彼が行為に及ぶことはなく、ただ会いに来て、他愛もない会話をして、同じベッドで眠るだけだった。
決して安くはないお金を払っているはずなのに、
彼だったら、他にいくらでも女の人が寄ってくるはずなのに。
だんだんとレアも、自分が彼に惹かれているのを感じていた。
ジークフリートに抱く淡い感情は、彼女を年相応の少女に戻してくれた。
だが同時に、あの美しい青い瞳に死を見出さずにはいられない。
二つの感情は最後には『ジークがほしい』に集約され、レアはジークフリートとの時間を何よりも楽しみにするようになった。
だが、そんな日々は長く続かなかった。
「次の遠征に行かなければならない。ここにもしばらく来れなくなる」
遠征。
彼は軍人で、皇都には次の遠征先が決まるまでの間しかいない。
当たり前のことだ。
「どのくらい、来れなくなるの?」
「任期は1年だが、もっと長くなるかもしれない。
だが次の遠征が終われば……まとまった金を用意できる」
ジークフリートは俯いているが、レアの手を握りしめて離さない。
「それって……」
「君を海に連れて行きたい」
その言葉に、レアは自分の中で何かが溶け、消えてゆく感覚に包まれた。
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