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4-希望


 目が覚めたらすでに朝日が昇り、ジークフリートはいなくなっていた。

 テーブルの上にはあの絵葉書が置かれている。


 レアはベッドから跳ね起き、頭を抱える。


(私、どうしてあんなことを……)


 羞恥と申し訳なさでうなだれた。

 なぜあんなことを言ってしまったのか、それだけ自分は追い詰めらているのだろうか。


(青い目の人なんて、他にもいるはずなのに……)


 いや、澄んだ海のように、美しく澄んだ青い瞳を持つのは、彼だけだ。

 それとも、昨日はたまたまそう見えただけなのだろうか。


(忘れよう……)


 きっと、もう二度と彼に会うこともないだろう。

 また上司にここに連れてこられたとしても、突然泣き出す娼婦なんて、気味が悪くて関わりたいとは思わないはずだ。


 しかし、その目算は大きく外れた。

 

 それは2日後のことだった。


「レア、指名だよ! やるじゃないかお前!」


 支配人が上機嫌で待機部屋のレアを呼び出す。


 やるじゃないか?

 確かに自分は普段あまり指名を取れていないが、一体何を言っているのだろうか。


 自分を指名したという客を見て、レアは目を見開いた。


 ジークフリートだった。

 不機嫌そうな顔をしていたが、レアの姿を見ると表情を和らげる。


「君の名前、レアって言うんだね」


「また、来てくれたんですね……」


 どうしてまた来たのだろうか。


「君のことがもっと知りたいから」


 どうしてこんなに顔が熱くなっているのだろうか。

 レアは予期せぬジークフリートの来訪に、高鳴る胸を抑えた。





 その後も、ジークフリートはレアに会うために足繁く娼館に訪れた。


 彼が行為に及ぶことはなく、ただ会いに来て、他愛もない会話をして、同じベッドで眠るだけだった。


 決して安くはないお金を払っているはずなのに、

 彼だったら、他にいくらでも女の人が寄ってくるはずなのに。


 だんだんとレアも、自分が彼に惹かれているのを感じていた。


 ジークフリートに抱く淡い感情は、彼女を年相応の少女に戻してくれた。

 だが同時に、あの美しい青い瞳に死を見出さずにはいられない。


 二つの感情は最後には『ジークがほしい』に集約され、レアはジークフリートとの時間を何よりも楽しみにするようになった。


 だが、そんな日々は長く続かなかった。


「次の遠征に行かなければならない。ここにもしばらく来れなくなる」


 遠征。

 彼は軍人で、皇都には次の遠征先が決まるまでの間しかいない。

 当たり前のことだ。


「どのくらい、来れなくなるの?」


「任期は1年だが、もっと長くなるかもしれない。

 だが次の遠征が終われば……まとまった金を用意できる」


 ジークフリートは俯いているが、レアの手を握りしめて離さない。


「それって……」


「君を海に連れて行きたい」


 その言葉に、レアは自分の中で何かが溶け、消えてゆく感覚に包まれた。


読了ありがとうございました。

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