5.生きる意味
暗くなった荒野に二つの淡い光が動いていた。
稚児山と呼ばれる廃病院の麓で、メイキは沢山の植物を育てていった。メイキは色んな種類の種が入った鞄を持っていたから、その中から、食べられる実がなる木や植物、水を蓄える多肉植物を中心に、シキと休憩した場所から稚児山に向かって育てていった。稚児山付近だけでなく、広範囲に向かって植えていった理由は、獰猛な動物がこの地に押しかけないようにしたのだ。廃病院から少しだけ離れた場所に食べられる植物、廃病院の麓には綺麗な花が咲く植物を中心に植えていった。種の在庫が減らないようにシキに種の回収を頼み、夜が明けるまでの短時間で一気に植え、微かに明るくなり始めた頃に、急いでその場から離れて行った。
「シキ、これでいい?」
「うん。ありがとうメイキ」
◇◇◇
イチトは窓辺の椅子に座り、立てた膝に顔を埋めたまま眠れない夜を過ごしていた。
俺達にはもう未来はない。生きている事も意味がない。大人達には捨てられ、きっと神様にも見捨てられてる。どうやって生きていけばいい。もうここには砂漠しかないのに。もう全部諦めるしかないのか。まだ、俺達は生きているのに。
空が薄っすら明るくなり始めた。また、意味のない一日が始まる。あぁ、今日はあいつらに、もう食料がない事を伝えなくてはいけないのか。もう全部諦めてしまった俺が。
ゆっくりと顔を上げ窓から外を見ると、見た事もない一面の緑が広がっていた。それは森と言ってもいいほどの広大なもので、メイキの本気が伺えた。
いつもは茶色い大地しか見えない場所に緑が生い茂り、より砦に近い場所には赤や黄色、ピンクといった色が敷き詰められた花畑が見える。そんな木々の隙間に黒いものがいるのに気づき見つめると、少女と少年の二人組だった。少女はイチトの視線に気づいたようで、ニヤリと笑い、そのまま去って行った。
見張りも外の異変に気づき、他のメンバーを起しに行ったのだろう。砦内部がざわついているのが聞こえ始めた。
イチトの部屋のドアが乱暴にノックされたかと思うと、返事も待たず開けられた。
「おい!イチト!外見て…… 」
物凄い勢いで部屋へと入ってきたレイは、窓辺で佇むイチトに気づき、静かにその背中を見守った。
「ははっレイ、見てみろよ。俺、あんな色初めて見たよ」
ピンクなど、鮮やかな色の物はほとんど無くなってしまった世界で、花が咲き乱れる光景を見れるなんて思ってもいなかった。
「なんだよ、まだ生きろって事かよ。ふざけんなよ」
右手で髪をかき上げながら、口角の上がった顔に涙を流し、レイへと話しかけた。
「レイ、採取隊と狩猟隊で森に入って朝食を採って来てくれないか?食事の後、皆んなと話そう。この森をどうやって守って行くかを」
これで動物達もやって来るだろう。脅威も増えるがそれは生きていく上で仕方ない事だ。それよりも、やっと自分達の生きる意味が見つかった気がして、イチトは涙を流した。
何もない所からこれだけの森が生まれた。
ここにいる意味、生きていく目的がやっと与えられた気がして、今やっと未来を考える事ができるようになったんだ。