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2.シキの悲しみ

「君達も街を追い出されたのかな?稚児山に行く様に言われたのかい?」


 死樹しきの目の前には、5〜6歳くらいの4人の子供がいた。4人とも、不安そうな表情を隠す事もなく、全員で身を守るようにくっついて死樹しきを見上げていた。


「あっちのほうに、歩いていけば、他の人がいるからそこに行けって言われたの」


 男の子が代表して死樹しきへと説明をしてきた。


「そっか。じゃあ俺もそっちに行く予定だったから、一緒に行かないか?」


 しゃがみ込み、子供達と目線を合わせ、ゆっくりと手を差し出してくる死樹しきの手を子供達がじっと見つめていた。

 見渡す限りの荒野、風で砂が待っているだけの大地に着の身着のままで放り出された子供達の目には、高校生くらいの死樹しきの姿は頼もしく映っただろう。不安で仕方なかった子供達は、命綱に縋る様に死樹しきの手を取った。


 ゆっくりと、子供達のペースに合わせて歩く死樹しき。その死樹しきに慣れてきたのか子供達の口数は少しづつ増えていった。その会話に優しく相槌を打っていく。

 しばらく歩くと、目の前に一本の大木が見えてきた。荒野の中聳え立ち、葉はほとんどなく、不気味に枝を伸ばす一本の大木は岩や砂しかない周りの風景に合わず違和感しかない。しかしその大木に向かって行くように歩く死樹しきに子供達は「あの木の下で休憩かな?」くらいの疑問しか覚えなかった。しかし、大木に着く前に死樹しきが突然歩くのをやめた。立ち止まる死樹しきに、「どうしたの?」と不思議そうに子供達が声をかけていく。

「ごめん」

 死樹しきのその一言が合図となったのか、足元から突然、黒いイバラが突き出してきて、子供達を刺殺・吸収した。短い悲鳴が聞こえただけで、その場はすぐに静けさを取り戻した。少しの血痕を残し、何事もなかったかのように砂埃舞う大地へと戻っていた。

 その地面を見つめ、死樹しきの目からは涙が流れていた。


 死樹しきには短刀が与えられていた。時には山賊をその手で殺し、時には彷徨っている人を食人植物の元へと誘導した。そうして一定数の命を奪うと、研究者の元へ行き定期検診を受けた。


 ある日、街を追い出された親子連れに出会った。父親が病に罹り親子4人街を出されたのだ。いつものように稚児山へ案内すると言って食人植物の元へ誘導した。普段は子供ばかりだから成功していたが、父親は死樹しきを全面的には信用していなかった。しかし、この状況で死樹しきに頼らざるを得ないのも事実。静かに死樹しきについて行った。しばらく歩くと大木が見えてきた。初めて街を出た親子が初めて目にするその木に興味が湧いたのか、子供2人が大木に向かって駆け出した。その瞬間、黒いイバラが地面から伸びてきて、子供達を瞬殺した。その光景に悲鳴を上げながら駆け出そうとする母親を父親が咄嗟に羽交締めにし必死に引き留めた。その時、視界に入ってきた死樹しきが、無言で子供達の方を見つめついるのに気づいた父親は、「まさかお前、こうなるって知ってたのか…?」その父親の呟きが母親の耳に入り、殺意の篭った視線を死樹しきへと向けた。


「よくも…… 」


 般若のようなその表情を、静かに哀れみを湛えた表情で見つめる死樹しきの顔を見て、呆然としていた父親がキレた。夫婦2人、腰に差していた短刀を抜き死樹しきへと襲いかかった。

(……ああ、やっと終わる)

 死樹しきは抵抗する事もなく、その攻撃を受け止めた。母親が体を、父親が首へと切りつけた。その後夫婦も伸びてきたイバラに捕まり命を落とした。大地に吸収された親子の姿は消え、その場には傷ついた死樹しきの体しか残らなかった。しばらくたつと、死樹しきの体から沢山の芽が伸び、眠りについた。死樹しきは知らなかったが、死樹しきの体は首を刎ねると回復のため眠りにつくが死ぬ事ができず、また、自死もできないようにされていた。

 死樹しきが戻らないため様子を見に来た人間により、死樹しき命樹めいきと同じく眠りについたと判断され、そのまま目覚めるまで放置される事となった。


 数年後、目覚めた死樹しきは研究者の元、再び人の命を奪って行く事となる。それを繰り返すたび、検診のたびに、死樹しきは研究者へと訴えるようになった。


「もう、人を殺したくないんです」

「何故だ?お前は私の命令を聞く為に産み出された植物だ。感情も与えていないのに、私の命令に反する気か?ついに壊れたか?」

「どうして俺は人を殺さないといけないんですか?」

「そのためにお前は作られた。それが役目だからだ」

「何故彼らは死ななくてはいけないんですか?」

「それが世界の為だからだ。あの木は育てなくてはいけない。それに、奴らはこの世界に不要だからだ」

「不要って… それは、あなたが決める事ですか?」

「私がこの世界を作っているからな」

「そうだとしても、俺はもう嫌です」

「…… 完全な故障だな。もういい」


 死樹しきの嫌だという思いを告げる度に壊れたと判断し、死樹しきの首を刎ね眠らせていった。

 感情を与えていない。研究者達はそう思っていた。しかし、死樹しきは苦しんでいた。人が死んでいくのを見るのはもう嫌だった。悲しかった。殺し損ねた時に反撃してくる人間が恐怖でしかなかった。自分の意思に反して死へと導くこの体が憎らしかった。


(そう思っているのに、本当に感情はないのですか?じゃあ、俺のこの気持ちは何なんですか?)


 そんな思いを言葉にする事ができず、死樹しきは静かに涙を流した。

 死樹しきのその姿を見て何度も嫌だと言う言葉を聞いた研究者は、完全に故障したと判断した。人を殺す為に産み出された植物の故障は、自らを危険に晒すかもしれないと判断し、上層部との話し合いの末に、死樹しきの四肢を切り取り、洞穴へと封印する事とした。死樹しきは首を切り落とし一度殺すと、時間をかけて再生してしまう『永遠の命を持つ植物』だ。その為、四肢を切り落として動けない状態にして人が立ち寄らない暗い洞穴へと封印したのだ。


 その光景を、目覚めた命樹めいきは自分が育てた草木を通じ静かに見つめていた。

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